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【福島県会津若松市】和のぬくもりと温かいもてなしに心安らぐ、「文化財の宿、会津東山温泉 向瀧」

「会津東山温泉」は、福島県会津若松市郊外にある会津地方を代表する温泉地です。温泉の歴史は古く、約1300年前に僧侶行基(ぎょうき/ぎょうぎ)が仏教を広めるため会津を訪れた際に発見したと伝わっています。行基は奈良の大仏建立に力を尽くし、初めて大僧正という最高位を得た高僧です。

江戸時代は会津藩の湯治湯として栄え、明治時代になって会津民謡『会津磐梯山』で「小原庄助さん、朝寝、朝酒、朝湯が大好きで、それで身上(しんしょう)つぶした」と歌われて「会津東山温泉」の名は全国的に有名になりました。

宿は町の中心を流れる湯川沿いに立ち並んでいます。宿名をよく見ると「原瀧」「新滝」「瀧の湯」「向瀧」など“滝”と付いているところが多くあるのですが、湯川には小さい滝がいくつもあり、宿の近くにある滝の名前が宿名になったといいます。

向瀧
湯川には小さな滝があり、その名称が宿名になっている ©ふくしまの旅

泉質はナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉で、毎分約1,500リットルの湧出量を誇ります。自家源泉を持っている宿も多くあります。無色透明で、肌に優しいアルカリ性の温泉です。

INFORMATION

会津東山温泉観光協会

 

登録有形文化財指定第1号。江戸時代は会津藩の保養所だった「向瀧」

向瀧
見える建物はすべて文化財 ©向瀧

温泉街の中程に昔ながらの立派な木造建築の宿があります。『向瀧』です。その歴史は古く、江戸時代に会津藩指定保養所“きつね湯”として開設されました。明治時代になりそれを引き継ぐ形で温泉宿『向瀧』となったのです。

『向瀧』の建物は、ほとんどすべてが明治から昭和初期に建てられたもので、今でも客室などで使用されています。その建物の素晴らしさは、長く保存するに値する歴史的文化財として、1996年(平成8年)に国の登録有形文化財の第1号として指定されました。

当時の建設風景写真が『向瀧』のホームページに掲載されていますが、客室は斜面に建てられており、大変な作業だったことが分かります。東京から来ていた大工さんもいます。客室は純和風で、欄間の透かし彫りや障子のデザイン、書院の造りなど部屋ごとにすべて意匠が違い、同じ造りの部屋はありません。大工さんの技術の高さがよく分かります。

大広間や“きつね湯”がある登録第1号の「玄関棟」

湯川を渡ると玄関です。ここは登録第1号となった明治後期に建てられて昭和初期に改修された木造2階建ての「玄関棟」で、玄関や調理場のほか、2階に大広間と客室、地下に風呂場があります。この風呂は江戸時代からの温泉浴場“きつね湯”です。

向瀧
国際会議「四極通商サミット」の晩餐会が開催されたこともある「大広間」 ©JUN

“大広間”は格式の高い天井や総檜の“ひのき舞台”を備えたもので、1992年にはアメリカ、カナダ、EC、日本の通産大臣による国際会議「四極通商サミット」の晩餐会がここで開催されています。

江戸時代から建っていたといわれる最も古い「客室棟」

向瀧
美しい庭園に面した「客室棟」の渡り廊下。 ©向瀧

そのまま廊下を進むと、左側に池のある庭園、右側に貸し切りの家族風呂があり、2階は客室です。廊下は回廊になっていて、常に庭園が眺められます。廊下からここまでが『向瀧』の最も古い「客室棟(登録第3号)」です。この「客室棟」は、設えなどは後に改修されていますが、江戸時代中期から存在していたといわれています。

会津と東京の大工が協働した建てた山沿いの「連続棟」

向瀧
かなり急な斜面に建てられた「連続棟」 ©JUN

奥の山沿いには会議室と客室からなる「連続棟」があります。会議室は『向瀧』唯一の洋風な造りになっています。会議室の上階には客室があり、斜面に沿って造られており階段の上り下りがちょっと大変です。会津と東京の大工が協力して建てたため、箱根や伊豆に見られるような粋な職人の技、材料にこだわった細工や部屋名があちこちに残っています。「連続棟」は昭和9年に作り始めて昭和10年に完成しました(登録4号)。

 “皇族のお泊まり御殿”だった「はなれ」

向瀧
書院造りの和室を中心にした「はなれ」。ふすま等をはずして撮影 ©向瀧

玄関棟から左へ廊下を進むと階段があり、上に「はなれ」があります。こちらも登録有形文化財で、明治後期に建てられています(登録第2号)。

「はなれ」には部屋が3つあり、専用の温泉浴室付きです。部屋には野口英世の手になる「美酒佳肴(びしゅかこう)」(酒も料理も旨い)の書が架けられています。主室の造りは典型的な書院造りです。大正時代には“宮内庁指定棟、各皇族方のお泊まりの御殿”と温泉街の案内に記されています。もちろん「はなれ」は宿泊可能です。

完全かけ流しで、体の芯から温まる温泉

温泉浴場は「きつね湯」「さるの湯」「貸切家族風呂」の3か所あります。

ちょっと熱めの江戸時代から続く「きつね湯」

向瀧

「きつね湯」の源泉は1300年前から湧いているといわれている ©向瀧

「きつね湯」は玄関棟の地下にあり、古来から自然湧出している源泉を使用したお風呂です。湯川沿いの自然湧出した源泉から直接湯を引いており、泉温は45℃とちょっと熱めになっています。湯口付近に付着した真っ白な湯の花が、成分の濃い温泉であることの証です。風呂は男女別になっていますが、シャワーなどはありません。

開放的な内湯「さるの湯」

向瀧
開放的でゆったりとした気分が味わえる大浴場「さるの湯」 ©向瀧

男女別の大浴場が「さるの湯」です。露天風呂はありませんが、大きなガラス窓から緑豊かな自然が望める開放的な内湯になっています。「さるの湯」は、源泉から少し離れているので湯温は42℃と少しぬるめです。男女別で、シャワーや上がり湯が付いています。

いつでも無料で利用できる「貸切家族風呂」

向瀧
すぐに湯の花がたまってしまうので清掃が大変という湯口(貸切家族風呂「鈴の湯」) ©向瀧

「貸切家族風呂」は3か所あります。“蔦の湯” “瓢の湯”“鈴の湯”と名前が付いていて、天井におのおの違った彫刻が施されています。空いていればいつでも無料で利用できるのもいいですね。

温泉はすべての湯船が源泉かけ流しです。また加水や加温もされていないため、源泉そのままの温泉が楽しめます。残念ながら日帰り利用はできません。

建物、温泉以外にも魅力あふれる「向瀧」

料理、庭、温泉街など『向瀧』の魅力はまだまだあります。それを少し紹介しましょう。

会津の食材を中心とした郷土料理

向瀧
会津地方の食材を中心とした郷土料理 ©向瀧

食事は夕食、朝食とも部屋に運ばれてきます。会津で採れた旬の食材を中心にした郷土料理です。こづゆや鯉の甘煮など、会津地方ならではの味覚が堪能できます。

斜面をうまく利用した回遊式の日本庭園

向瀧
「はなれ」から庭園を望む ©JUN

『向瀧』は斜面に建てられているため、一部の部屋は階段を上るのが結構大変です。しかし、部屋へ行くまでの回廊からは手入れされた庭園が眺められ、心を和ませてくれます。回廊のすぐ下には池、斜面には木々や石などが配置され、四季折々にどこから見ても美しい回遊式日本庭園です。

宿泊予約サイトで詳細を確認する

INFORMATION
  • 施設名称:会津東山温泉 向瀧
  • 住所:福島県会津若松市東山町湯本川向200
  • 電話番号:0242-27-7501
  • 宿泊料金:宿泊人数や部屋、季節などによって変動します。詳しくはホームページまたは旅行サイトを参照
  • URL:向瀧

 

NORIJUN

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旅が好きが高じて一昔前は旅行誌、今はWEBの旅行ライターをしています。取材では東北地方を中心に全国47都道府県すべて訪れていますが、楽しみは温泉に入り、古い町並みや暮らし、芸能工芸など日本の伝統文化にふれることです。

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