首都圏と東北地方を結ぶ新しい夜行特急列車に期待!

JR各社の路線では「夜行列車」が、平成時代初期頃までは当たり前のように運行されていました。
しかし、以後は時代の変化と共に次々と姿を消していきました。

令和も7年目に入った2025年、JR東日本は新たな夜行列車の導入を発表しました。
新たな夜行特急列車の概要と、筆者が期待したいことを今回は述べます。


JR東日本の新しい夜行特急列車とは?

2025年6月10日に、主に首都圏や東北地方・甲信越地方で鉄道事業を営んでいるJR東日本は

新たな夜行特急列車を導入します
~運行を通じて地域の皆さまと新たな観光需要を創出します~

というタイトルの発表を行いました。

参考:新たな夜行特急列車を導入します~運行を通じて地域の皆さまと新たな観光需要を創出します~

発表内容によると、E657系電車の内の1編成を、夜行列車での運行が可能な状態に改造するとのことです。
E657系は、常磐線の特急「ひたち」「ときわ」に使用されている10両編成の電車です。

新たな夜行特急列車のイメージ
引用:JR東日本

改造によって全ての席がグリーン車個室タイプとなります。
個室は1/2/4人用が設けられ、さまざまな旅客のニーズにこたえられそうです。

引用:JR東日本

なお、座席はフルフラット状態にして(※4人用個室は、常時フルフラットです)横になり、寝ることもできますが、あくまで「フルフラットの座席」であり、寝台(ベッド)ではないという位置づけのようです。
この点が、JR東日本が「寝台特急」ではなく「夜行特急」という言葉を使っている理由だと思われます。
現在走っている寝台列車には設置されているような、シャワー室や浴室も設けられません。

先頭車である1号車と10号車には、更にランクの高いプレミアムグリーン個室が設けられます。
プレミアムグリーン個室は、1人用または2人用です。

編成全体の定員は120人程度となる見込みです。

5号車にはラウンジと販売スペースが設けられます。
楽しい旅のひと時を演出することに、一役買ってくれることでしょう。

引用:JR東日本

新しい夜行特急列車はどこを走るのか?

新たな夜行特急列車の運行開始時期は2027年春を予定しています。
また、運行エリアは「首都圏エリア~北東北エリアなどを予定 ※時期によって運行エリアの変更あり。」ということだけが発表されています。

なお、今回夜行特急列車への改造が発表されたのは1編成だけなので、毎日の運行は不可能です。
時折ツアー列車・団体臨時列車として運行されることになるはずです。
実例を挙げると、2025年6月限りで運行を終了した寝台列車の「カシオペア紀行」のような運行頻度・形態になると思います。

運行を終了した「カシオペア紀行」

「北東北エリア」とは、素直に考えれば、青森、秋田、盛岡あたりのことを指すのでしょう。
報道によると、都内の駅を21時に出発して、青森駅に翌朝の9時に出発するといった運行形態が想定されているとのことです。
また利用価格は「新幹線のグリーン車の運賃・料金にプラスアルファしたくらい」とのこと。

都内の駅と秋田駅を結ぶのであれば、高崎線・上越線・羽越本線を経由する(新潟県・山形県の日本海側を経由する)ことになると思われます。
秋田駅まで鉄道で移動するときの合理的な経路は他にも考えられますが、E657系が自走できる合理的な経路は、羽越本線経由の経路以外にはありません。

盛岡駅までの経路は、東北本線経由(栃木県の宇都宮・福島県の中通り経由)と常磐線経由(茨城県の水戸・福島県の浜通り経由)が考えられます。
順当に考えれば、北の大動脈と呼ばれる東北本線経由でしょうけれども、E657系の元来の活躍の場である常磐線経由で走ってほしいようにも思います。
また、新しい夜行特急列車は地域の観光振興を目的としているとのことなので、どちらの路線を経由するのかは、沿線の自治体などにとってもある程度大きな関心事になると思います。
「運行エリアの変更あり」と公式にアナウンスされているので、どちらのルートでも走ることを期待したいところです。

青森駅までの経路については、羽越本線・東北本線・常磐線のいずれも経由路線の候補にはなりえます。
ただし、東北本線または常磐線経由の場合、盛岡駅から青森駅までは、JRではない路線(いわて銀河鉄道線および青い森鉄道線)を走ることになります。
JR以外の路線への乗り入れが絶対に不可能ということはないと思うし、実際「カシオペア紀行」は乗り入れていましたが、過度の期待はしない方がよいでしょう。
羽越本線経由、つまり酒田駅や秋田駅を経由して、秋田駅からは奥羽本線経由で青森駅へ向かう経路が順当だと思います。

繰り返しになりますが「運行エリアの変更あり」とアナウンスされているので、北東北3県以外への運行も十分に考えられます。
また、寝台列車ではなく、あくまで「座席をフルフラットにできる列車」なので、昼間の列車として運行することも可能でしょう。
以上の点を考慮すると、例えば

  • 東北本線または常磐線経由で仙台駅まで
  • 上越線経由で新潟駅まで
  • 東北本線・磐越西線経由で福島県の会津若松駅まで

といった運行もありうると考えます。

JR東海やJR西日本の協力は前提となりますが、名古屋・大阪方面への運行も、少なくとも技術的に不可能ということはないと思います。

E657系は、非電化の路線や、北陸地方や九州地方にある交流60Hzで電化されている路線では自走できないはずです。
しかし、そのような路線でさえも、E657系をけん引するための機関車と、車内設備を動かすための電源車を手配して、現地のJRもしくはJR貨物の乗務員に機関車を運転してもらえば、運行は可能だと思われます。


今後追加で夜行特急列車が登場する可能性はある?

E657系は2012年より営業運転を開始した、比較的新しい車両です。
新しい夜行特急列車が経営的にうまくいけば、改造後も10年から20年程度の活躍が見込めます

そして、常磐線の特急列車はこれまで20年程度の周期で新型車両に入れ替わってきているので、2030年を過ぎた頃にはE657系の後継車両が、常磐線の特急列車に投入されると考えられます。
するとE657系は、一部は羽越本線の特急「いなほ」や信越本線の特急「しらゆき」などに転用されるかもしれませんが、すべてが転用されるとは思えず、余剰車が生じることになるでしょう。
余剰車を追加で夜行特急列車に改造してくれることに筆者は期待したいです。

参考:E653系電車による特急「いなほ」
参考:E653系電車による特急「しらゆき」

E657系の夜行特急列車の編成を増やせば、運行する日を増やしたり、下り列車と上り列車の両方を運行したりできる(帰省ラッシュなどのときの臨時列車として連日運行できる)し、合計で3編成か4編成もあれば、毎日の運転も可能になると思います。
JR東日本が上記のような展開を見据えているのかは想像するしかありませんが、少なくとも「やろうと思えばできる」ということに筆者は希望を見出します。

近年は、宿泊費の高騰などといった状況をうけて、寝ている間に移動できる上に、宿泊費を浮かせられる夜行バスには、追い風が吹いています。
今回JR東日本が新たな夜行特急列車をデビューさせることにしたのは、夜行バス業界に吹いている追い風に、鉄道も乗れるかどうかを試したいという思いが含まれていると考えます。

もしもE657系を改造した夜行特急列車が成功をおさめたならば、今後夜行列車用の車両を新造して、北東北以外のエリアでも新たな(あるいはかつての夜行列車を復活させたような)夜行特急列車が登場するかもしれません。
JR東日本以外の鉄道会社に波及する可能性もゼロではないでしょう。

現在は夜行バスにも快適な車両が登場していますが、車内空間の広さは、列車でなければ到底実現できないものです。
新しい夜行特急列車の登場が、夜行列車の復権のきっかけになること、そして夜行列車の旅が再び一般化する世の中が来ることを願いつつ、今回の記事を終えます。


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