【福島県南会津町】集落全体が曲家、日本の原風景「前沢曲家集落」

福島県南会津町には曲家(曲屋/まがりや)といって、茅葺き屋根で、母屋がL字型に曲がった構造を持つ昔ながらの農家が多く残り、その中でも前沢集落には13軒の曲家が集まっています。

『前沢曲家集落』全景 画像提供:福島県観光物産交流協会  

馬と同じ家の中で暮らす会津の生活スタイル

前沢曲家集落(まえざわまがりやしゅうらく)』は、福島県会津地方旧舘岩村(たていわむら/現南会津町)にあります。このあたりは高原になっていて、今はスキー場が主な観光資源という、冬は寒さが厳しく、雪深いエリアです。

三角屋根の前に出ている棟(切妻[きりつま]造り)が厩で、うしろの棟(寄棟「よせむね」造)が母屋になっている代表的な会津地方の曲家(中門造[ちゅうもんづくり]曲家 画像提供:福島県観光物産交流協会)

「曲家」は、曲家、曲屋、曲り屋、曲がり屋、曲り家曲がり家など地域によって微妙に呼称が変わる場合がありますが、日本の農家を代表する建物の形で、江戸から明治時代にかけては日本全国、特に東日本地域に多くありました。コンバインなどの動力付きの農業機械がなかった時代には、牛や馬が農作業に大変有用で、暖かい地域では母屋とは別に家畜小屋が建っています。しかし、寒冷地では外にある家畜小屋は寒く、馬の世話をするのにも、いったん家を出なければならないなど多くの支障があり、考え出されたのが母屋と家畜小屋をつなげてしまう農家の形だったのです。


冬の寒さでも家中が囲炉裏で温められ快適な曲家

棟続きになっていて、温かい厩(イメージ) 画像提供:いわての旅

会津を含め東日本では馬が農耕や運搬用などに飼育されていました。馬小屋(厩[うまや」)を母屋に続けて建てるには、そのまま平面(直家[すごや])にするのが簡単な方法ですが、会津地方ではほとんどが曲家になっています。なぜ曲家にしたかはよく分かっていませんが、茅葺き屋根の家では屋根を乾燥させるため一日中囲炉裏に火が入っていたので、生活空間はもちろん同じ棟にある厩も温かく快適に過ごせたのです。


100軒以上残る会津地方の曲家

この曲家という伝統的な農家建築は、農業の機械化がどんどん進むに従って、農耕用の馬を飼育する必要がなくなり、また屋根材が茅葺きから半恒久的な瓦や鉄板などにふき替えられるにつれて、ほとんど姿を消してしまいました。しかしながら、会津地方にだけは未だに100軒以上の曲家が残っています。もちろん今は馬を飼っているわけではありませんが、昔の暮らしを知る上で貴重な文化遺産となっています。


13軒の曲家が現存する「前沢集落」

茅葺き屋根の曲家が続くのどかな前沢集落 画像提供:福島県観光物産交流協会

前沢集落は、20軒ほどの小さな集落ですが、そのうちの13軒が曲家となっています。その13軒中10棟が茅葺き屋根(3棟は屋根をふき替えています)で、建物は厩と同居していた時代のまま、厩部分をさまざまに改築して現在も住居として使用されています。

前沢集落の始まりは安土桃山時代の1590年代で、集落内には馬頭観音(ばとうかんのん)と馬力神(まりきしん)が祀ってあり、いかに馬を大切にしていたかがうかがえます。1907年(明治40年)には大火によって、土蔵4棟以外の建物はすべて焼失してしまいました。住むところを失った住民たちは、周辺地域の人たちの助けを借りながら、3年をかけて全戸を昔のままの姿に再建し、現在につながる曲家集落が誕生したのです。やがて馬の時代が終わり、曲家の建て替えも検討されていた1960年代に、地元の人たちや旧舘岩村の日本の原風景を守るという理念が実を結び、ほとんどそのまま保存されることになり、集落全体が『前沢曲家集落』として公開されました。


国の伝統的建造物群保存地区に指定されている『前沢曲家集落』

『前沢曲家集落』は、観光用の施設ではなく、実際に生活の場として使われている集落で、民家の見学はできませんが、散策路が整備され、昔ながらの曲家に伝統的民具や資料などを展示している「前沢曲家資料館」やそば処やカフェなども営業しています。

集落内にある水車小屋 画像提供:福島県観光物産交流協会

集落内には馬頭観音や馬力神の石像のほか、1907年におきた大火の際にも焼けずに残った土蔵や茅葺き屋根の水車小屋、神社、薬師堂などが点在していて、農村の原風景をもいえるのどかな景観が広がっています。少し離れた高台からは集落全体が見渡せます。

『前沢曲家集落』は国の伝統的建造物群保存地区に指定されています。

INFORMATION

  • 名  称:前沢曲家集落
  • 住  所:福島県南会津郡南会津町前沢
  • 電話番号:0241-72-8977(前沢景観保存会)
  • 見学可能期間:4月~11月
  • 見学可能時間:8:30~16:30
  • 見学料金:おとな 300円、高校生以下 150円、(未就学児・町民 無料)
  • 公式URL:前沢曲家集落ホームページ

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曲家の構造や生活道具を見学できる「曲家資料館」

曲家の姿が昔のまま残る「曲家資料館」 画像提供:福島県観光物産交流協会

「曲家資料館」は、会津地方の曲家を保存、公開するために隣接する旧伊南村(いなむら/現南会津町)から移築されたものです。建築様式は前沢集落と同じで、明治後期に建てられています。

資料館内は民具などを展示するほか、建物内を見学できます。奥の座敷に安置されている仏像は、南会津町指定有形文化財の「不動明王立像及び二童子立像」です。囲炉裏がある居間を中心にして、居ながらにして馬の様子を見られる曲家は、馬と暮らす雪国ならではの生活の知恵だったことがよく分かります。『前沢曲家集落』で曲家の内部を見学できるのは「曲家資料館」だけです。

INFORMATION

  • 施設名称:曲家資料館
  • 開館期間:4月~11月
  • 入館料:無料

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地元特産手打ちそばが味わえる「そば処曲家」

「そば処曲家」は、前沢集落の曲家民家を利用して営業するそば処です。L字型の厩部分が改造されて入り口になっています。前沢集落を含め舘岩地域の名産そば粉を使った手打ちそばが味わえます。

INFORMATION

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散策の途中でほっと一息「古民家カフェ いろり」

前沢交流館内に設置されている「古民家カフェ いろり」 画像提供:福島県観光物産交流協会

「古民家カフェ いろり」は、集落内のある人の住まなくなった茅葺き屋根の直家を利用したカフェで、散策途中などに立ち寄るのにおすすめです。名産品や伝統工芸品などの直売所も併設されています。

INFORMATION

  • 施設名称:「古民家カフェ いろり」
  • 営業期間:4月~11月
  • 営業日:土・日・月・祝休日
  • 営業時間:10:00~15:00

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のどかな山里の風景が美しい「水引集落」

ひっそりとたたずむ水引集落。住民の迷惑にならないよう静かに散策 画像提供:南会津町

『水引(みずひき)集落』は、曲家が7軒残っている集落です。明治時代に大火に見舞われ、全戸が焼失してしまいましたが、その後再建されました。

昔ながらの山村風景をのんびり散策

集落には食事処やお土産屋などの観光施設はありませんが、案内看板が設置されていて昔ながらの山村風景の中でのんびりと散策ができます。『前沢曲家集落』のように観光化された集落ではなく、すべてが生活の場なので、散策は住民の皆さんの迷惑にならないように、常識の範囲内でお願いします。

INFORMATION

  • 名  称:水引集落
  • 住  所:福島県南会津町水引
  • 問い合わせ先:南会津町観光物産協会 舘岩観光センター
  • 電話番号:0241-64-5611
  • 散策自由※観光施設ではありません
  • URL:観光会津ホームページ

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