田舎の稲干し風景

稲の干し方はなぜ違う?地域ごとに異なる稲刈り後の風景

東北の秋の田んぼを走ると、稲刈りを終えた田んぼに不思議な形が並んでいるのを目にすることがあります。三角錐のような小山や、壁のように稲束がずらりと並ぶ風景。実はこれ、刈り取った稲を干すための昔ながらの方法です。

東北では「棒掛け(ほにょ)」や「稲架掛け(はさ掛け)」と呼ばれる干し方があり、地域によって形も呼び方も違います。なぜ干し方が異なるのか、そして今では姿を消しつつあるその風景について紹介します。


東北の稲刈り風景には地域ごとの個性がある

稲

道路を走っていると、稲刈りの終わった田んぼに不思議なものが置かれているのを見かけたことはありませんか?実はあれ、刈り取った稲を干すための工夫なんです。

東北では「棒掛け」や「稲架掛け」といった干し方があり、地域によって形も呼び方もさまざま。その土地の気候や暮らしに合わせた知恵が受け継がれていて、秋の田んぼを特徴的に彩る風景になっています。


棒掛け(ほにょ)とは?

棒掛け
棒掛け(ほにょ)

まずは秋田や山形でよくみられる棒掛け(ほにょ)について紹介します。

上に積み上げる

棒掛けは、一本の杭の周りに稲束を重ねていく方法です。稲を三角錐のように交互に高く積み上げるため、省スペースでも効率よく乾燥できるのが特徴。田んぼに並ぶとまるで小さな塔のようで、独特の風情があります。

秋田や山形でよく使われる

主に秋田県や山形県で見られる干し方で、地域によっては「ほんにょ」「ほにょ」と呼ばれます。稲刈りが終わった田んぼに無数のほにょが並ぶ景色は、その土地ならではの秋の原風景として親しまれています。

限られた土地でも効率よく乾燥する

雪深い地域に向いた干し方で、限られた土地でも稲を効率よく乾かせます。積み上げる構造は風や雪に強く、冬を前に素早く乾燥を終える工夫として受け継がれてきました。


稲架掛け(はさ掛け)とは?

稲架掛け
稲架掛け(はさ掛け)

次は稲架掛け(はさ掛け)について詳しく紹介します。

横に並べる

稲架掛けは、木や竹を横に長く組み、その竿に稲束を掛け並べて乾かす方法です。稲が層になって連なる光景は壮観で、田んぼ全体に壁のような稲の列ができあがります。

青森や岩手でよく使われる

青森県や岩手県で多く見られる方法で、「稲架(はさ)」「はせ」と呼ばれることもあります。地域の農家では今も残っており、秋の田園を代表する光景となっています。

日光が当たりやすい

風通しと日当たりを確保しやすいため、寒冷地でもしっかり乾燥できます。手間はかかりますが、米がふっくらと香り良く仕上がるとされ、味を大事にする農家に根づきました。

なぜ稲の干し方に違いがあるの?理由を解説

同じ東北でも、地域によって稲の干し方が違うのは気候や土地の条件が影響しています。雪の多い地域では省スペースで効率よく乾かせる「棒掛け(ほにょ)」が適しており、冬を前に素早く乾燥させるために広まりました。

一方、風通しや日当たりを確保できる地域では「稲架掛け(はさ掛け)」が主流となり、手間はかかっても米の味や香りを重視する農家に選ばれてきました。干し方の違いは、単なる作業の工夫ではなく、その土地の暮らしや自然との向き合い方が形になったものといえます。


失われつつある稲を干す風景

コンバイン

かつては秋になると、どこの田んぼにも当たり前のように棒掛けや稲架掛けの姿が並んでいました。しかし、今ではコンバインや乾燥機の普及により、掛け干しは急速に姿を消しています。機械を使えば短時間で大量に処理できるため、手間と時間のかかる昔ながらの方法は敬遠されがちになったのです。

それでも一部の農家では、天日干しの米の味や香りを守るために伝統を続けています。太陽と風でじっくり乾かした米は粒立ちが良く、食味に深みがあるといわれています。今では貴重になった稲の掛け干しは、単なる作業風景ではなく、東北の農村文化を象徴する原風景として大切に受け継がれているのです。


まとめ

東北の田んぼに広がる棒掛けや稲架掛けの風景は、地域ごとの知恵と気候に支えられた稲作文化の証です。効率化の波で姿を消しつつありますが、味や文化を守ろうとする人々によって、今もその伝統は息づいています。


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