景勝地

【山形県酒田市】藩主より財力を持った豪商まで現れた北前船で潤った酒田

酒田(山形県酒田市)は、最上川河口に港町として発展した街です。江戸時代には“接州(摂州)大阪より四国中国西国九州二島の商人船はみなここに着岸し東奥北陸の産物を交易して利潤の売買金銭の取引に市をなし町の繁花なかなか筆に尽がたし”(『東国旅行談』松井寿鶴斎[まついじゅがくさい]/本間美術館)と書かれるくらい北前船の交易で栄えました。

江戸時代の酒田の賑わいを描いた「塞道絵幕(大壽和里大祭事)-酒井侯御安堵祝宴-(一部)」 所蔵:酒田市立資料館

庄内平野の米と最上川を利用し集めた紅花が富をもたらした

酒田が東北最大の港として機能したのは、目の前に穀倉地帯、庄内平野が広がり、米などの良質な生産物を積み出せたこと、さらに最上川の河口に位置していたため、最上川上流で生産されていた山形名産の紅花(べにばな)の集積地だったことがあげられます。紅花は絹織物の染料となる植物で、山形で生産される紅花染料は「最上紅花」と呼ばれ、最大の消費地京都、大阪では最高級品としてもてはやされ超高値で取り引きされたのです。

沖に北前船が停泊する酒田の港(「酒田袖之浦・小屋之浜之図」 江戸時代中期(18世紀 所蔵:本間美術館・酒田市指定文化財)

江戸時代の北前船は、北海道、東北、北陸、山陰と日本海側を航海し、下関から瀬戸内海を経て大阪や、場合によっては江戸とを往復していました。酒田に立ち寄った北前船は米や紅花、海産物などを大阪方面へ運び、関西からは、嗜好品や人形などの田舎にはない都の流行り物をのせて帰ってきました。

1往復で1億円もの儲けがあった北前船

酒田では、北前船での取り引きで財をなした豪商が軒を並べ、大地主が幅をきかせていました。江戸中期には、回船問屋は97軒を数え、その蔵には200万両(約2,000億円)分の物資が詰まっていたといわれています。

日和山公園に展示される北前船の1/2スケール模型。奥に見えるのは木造六角灯台 ©山形県

1度に千石(約150トン)もの米を積めるため“千石船”といわれた北前船は、1往復で千両(約1億円)も儲けたともいわれています。北前船は現存するものはありませんが、酒田市内の「日和山公園(ひよりやまこうえん)」に1/2スケールの模型が展示されています。

 『木版 酒田十景』に描かれた、江戸時代(文久年間[1861~1863])の「日和山眺望」。日和山には今も残る灯台の役割をした常夜灯がある ©酒田市立図書館/光丘(こうきゅ)文庫
 

「日和山公園」は、酒田の港を見下ろせる小高い丘にあり、園内には、北前船のほか、日本最古級の木造六角灯台や方角石などが展示されています。

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  • 名称:日和山公園
  • 所在地:山形県酒田市南新町1-127番外
  • 電話番号:0234-26-5745(酒田市整備課)
  • 散策自由
  • URL:日和山公園
  • アクセス:
  • 鉄道/JR羽越本線酒田駅から車で約6分
  • 車/日本海東北自動車道酒田ICから約17分

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北前船全盛時代の文化が色濃く残る酒田

北前船は、明治時代後半には鉄道の開通により物資の流通が船運から陸運に代わり、需要がなくなってしまいました。その後の酒田は北前船頼りではなく、陸海の東北地方日本海側の交通拠点として港の近代化と工場誘致に成功し、さらなる発展をとげたのです。

どんどん近代化が進められた酒田市ですが、市内には北前船で繁栄した当時の建物や文化が色濃く残っています。

今も農業倉庫として使われている江戸時代の米倉、山居倉庫

12棟並ぶ巨大な米倉庫。明治時代に立てられて今でも使用中 ©山形県

「山居倉庫(さんきょそうこ)」は、米の積み出し港として賑わった酒田を代表する建物です。江戸時代の庄内藩主酒井家によって1893年(明治26年)に建てられた米保管庫で、白壁土蔵造りの倉庫が12棟ならんでいます。米の収容能力は1万800トン(18万俵)あり、夏の高温防止のために背後をケヤキの並木、屋根は二重構造にして内部の湿気防止するなど先人の知恵が生かされた低温倉庫です。

背後をケヤキ並木にして直日光から守るように造られた山居倉庫 ©やまがたへの旅

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  • 名称:山居倉庫
  • 所在地:酒田市山居町1-1-20

[酒田市観光物産館「酒田夢の倶楽」]

[庄内米歴史資料館]

  • 電話番号:0234-23-7470
  • 開館時間:9:00~17:00(12月は16:30まで)
  • 休館日:12月29日~2月末日
  • 入館料:おとな 300円、中高生200円、小学生150円
  • URL:庄内米歴史資料館

※倉庫外観は常時見ることができます

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藩主ために豪邸をプレゼントした本間家

長屋門だけでもそのスケールに圧倒される「本間家旧本邸」 ©山形県

「本間家旧本邸」は、1768年本間家が江戸幕府からの見回り役(幕府巡見使)が使用する宿泊所として藩主の酒井家のために新築した住居です。使者が江戸へ戻った後は本間家の邸宅として1945年(昭和20年) まで使用されました。

旧本邸の主屋と庭園 ©山形県

本邸は、武家屋敷と商家の造りが一体化された珍しい様式の建物で、本間家は商家造り側を住まいにしていました。住居のほかに特別な客だけに開く長屋門や家族が出入りした薬医門、庭などがほぼ建築当時のまま残されていて、山形県の文化財に指定されています。

本邸から道を隔てた反対側にある「お店(おたな)」があり、帳場や度量衡、日用品などを展示しています。

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  • 名称:本間家旧本邸
  • 所在地:山形県酒田市二番町12-13
  • 電話番号:0234-22-3562(本間家旧本邸)、0234-23-0809 (別館[お店])、0234-23-5422 (事務局)
  • 開館時間:
  •   3月~10月/9:30~16:30
  •   11月~2月/9:30~16:00
  • 休館日:12月中旬~1月下旬
  • 入館料:おとな 800円、中高生 300円、小学生 200円、本間美術館との共通入館券 1,600円
  • アクセス:
  • 鉄道/JR羽越本線酒田駅から車で約6分
  • 車/日本海東北自動車道酒田ICから約15分
  • URL:本間家旧本邸

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藩主の休憩用に建てた別邸とその庭園、「本間美術館」           

「本間美術館(ほんまびじゅつかん)」は、本間家第4代当主光道(こうどう) が1813年に造った別荘「清遠閣(せいえんかく)」と庭園「鶴舞園(かくぶえん)」を美術館として公開したもので、1947年(昭和22年) にオープンしました。

藩主の休憩所として建てられた「清遠閣」 ©やまがたへの旅

「清遠閣」は、庄内藩主酒井氏が領内を視察するときの休憩所として建てられたもので、明治時代以降は皇族など要人の宿泊所に使用され、“酒田の迎賓館”といわれていました。

北前船で運ばれた石が配された「鶴舞園」 ©やまがたへの旅 

「鶴舞園」は、「清遠閣」の庭として築造されたもので、鳥海山を借景とした池泉回遊式庭園(ちせんかいゆうしきていえん)という大きな池を中心に、周りを歩きながら景色を楽しむ庭園になっています。 庭に使われている石は北前船で運ばれた伊予(愛媛県)の青石や佐渡(新潟県)の赤玉石などです。「鶴舞園」という名前は藩主が命名したもので、「鶴舞園」は、[本間氏別邸庭園]として国の名勝に指定されています。

「本間美術館」は、「清遠閣」「鶴舞園」のほか、新館(1968年築)があり、新館には本間家が蒐集した日本・東洋古美術や開館後収集した幅広いジャンルの作品が展示されています。

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  • 名称:本間美術館
  • 所在地:山形県酒田市御成町7-7
  • 電話番号:0234-24-4311
  • 開館時間:
  •    4月~10月/9:00~17:00(最終入館 16:30)
  •    11月~3月/9:00~16:30(最終入館 16:00)
  • 休館日:
  •    12月~2月/火曜日・水曜日(祝日の場合はその翌日)
  • 入館料:一般 1000円、高・大学生450円、中学生以下無料
  • アクセス:
  • 鉄道/JR羽越本線酒田駅から徒歩約5分
  • 車/日本海東北自動車道酒田ICから約15分
  • URL:本間美術館

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京都祇園祭と深いつながりがあり「酒田まつり」

「酒田まつり」は、1609年に始まった酒田の守り神「上日枝神社(かみひえじんじゃ)」と「下日枝神社(しもひえじんじゃ)」の例大祭がもとになった祭りで、“山王祭(さんのうまつり)”と呼ばれていました。

酒田まつりで人気の獅子の山車 ©酒田市

山王祭に、豪商本間家の当主が1769年に京都祇園祭の山鉾を参考に豪華な山車(だし)を造り、祭りに華を添えたところ、それが定着し現在のような山車が練り歩く祭りになったといわれています。山王祭は1609年に開始されてから酒田を襲った大災害にも負けず、中止されたことはありません。山王祭は1979年(昭和54年)から「酒田まつり」として開催されています。(2,021年、2,022年は新型コロナ禍のため神事としての祭りのみ開催されました)

「酒田まつり」は、地元の祭りに北前船で運ばれた京都の文化が融合してできた祭りといえるでしょう。

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  • 名称:酒田まつり
  • 開催場所:酒田市内
  • 電話番号:0234-26-5759(酒田市地域創生部交流観光課)
  • 開催期間:5月19日~5月21日
  • アクセス:
  • 鉄道/JR羽越本線酒田駅下車
  • 車/日本海東北自動車道酒田ICから酒田市内
  • URL:酒田まつり

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酒田市観光物産協会


NORIJUN

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旅が好きが高じて一昔前は旅行誌、今はWEBの旅行ライターをしています。取材では東北地方を中心に全国47都道府県すべて訪れていますが、楽しみは温泉に入り、古い町並みや暮らし、芸能工芸など日本の伝統文化にふれることです。

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