
【秋田県能代市】米代川の大カーブが絶景を造り出す聖山「七座山」と明治天皇ゆかりの「きみまち阪」
目次
二ツ井は、秋田県能代市の東部にある地域で、かつては二ツ井町(ふたついまち)として独立した自治体でした。2006年(平成18年)に能代市と合併し、現在は能代市の一部となっています。
古代から人が暮らしていた二ツ井。蝦夷討伐の阿倍比羅夫も足跡を残す
二ツ井は、米代川沿いに集落が点在し、秋田杉や江戸時代に開発された鉱山の産出物の水運で発展しました。この地域には、古代から人が住んでいたことがわかっており、縄文時代や弥生時代の遺跡も発見されています。
二ツ井あたりは米代川が2か所でヘアピンカーブのように大きく蛇行し、阿仁川(あにがわ)や藤琴川(ふじことがわ)などの大きな支流が南北から合流する米代川最大の難所として知られていました。日本最古の歴史書の1つ『日本書紀』には、飛鳥時代の658年に大和朝廷の阿倍比羅夫(あべのひらふ)が、未開の地だった蝦夷(えみし/東北地方)を征服するために進軍した際、このエリアを通過して津軽方面に向かったと書かれています。
平安時代から修験道の聖地として信仰された七座山

米代川が大きく蛇行する河岸にそびえる7つの峰を持つ山並み、七座山(ななくらやま)は、平安時代頃からは、修験道(しゅげんどう)の霊山として多くの修験者(山伏)が山中で修行していたといわれています。
七座山は、先端から松座(まつくら/標高159.1m)、大座(おおくら/163.6m)、三本杉座(さんぼんすぎくら/153.7m)、柴座(しばくら/173.1m)、箕座(みのくら/192.4m)、烏帽子座(えぼしくら/229.6m)、権現座(ごんげんくら/187.4m/主峰)の7つの頂が連なる山で、「日本百低山」(山と渓谷社)に指定され、秋田杉の森林地帯や岩場、古くからの祠(ほこら)などがあり、軽登山ができる山として人気になっています。また、対岸から見る米代川の蛇行と七座山の風景は、川の流れと山が織りなすたぐいまれな絶景です。
山中には慈覚大師が彫ったとされる獅子頭が。弘法大師が訪れたとの伝承も

古くから信仰の山だった七座山には、多くの伝説が残されています。その中でも、権現座と烏帽子座の中間くらいの麓には「権現様」と呼ばれる岩屋があり、その中に鎮座する岩に彫られた「獅子頭」は、平安時代の高僧で中尊寺(ちゅうそんじ/岩手県平泉町)や立石寺(りっしゃくじ/山形県山形市)を建立した天台宗第3代座主・円仁(えんにん/慈覚大師=じかくだいし/794年~864年)の作と伝わる七座山の守り神です。

江戸時代の紀行家菅江真澄も1802年に七座山を訪れ、「権現様(巌の権現)」や「獅子頭」の図絵を描きました。また、対岸からの七座山の風景も残しています。

また、権現座の麓には修行僧が籠もったといわれる、蜂の巣のような穴が無数にある巨大な岩屋「法華の岩屋」があり、七座山には弘法大師が訪れたとの伝承も残っています。
江戸時代は秋田杉の林を藩の聖域として厳重に保護

江戸時代の七座山は、秋田杉の巨木が茂っていて、久保田藩は直接管理する御直山(おじきやま)として大切に保護していました。秋田杉は江戸にまで大量に販売され、久保田藩は大いに潤っていたのですが、何度も起きた江戸の大火の際には、杉が大量伐採されて北秋田の森林は荒廃してしまいます。藩は植林などに努めましたが荒廃は進む一方で、七座山だけは手を付けなかったといわれ、現在でも奇跡的に天然秋田杉が残っています。

七座山への登山口は周辺に複数箇所ありますが、最もおすすめの登山口は、道の駅「ふたつい」に近い[天神登山口]で、駐車場、トイレがあります。この登山口からは、「権現様」や「法華の岩屋」が近く、「簔座の展望台」に立ち寄っても往復2時間ほど。初めての方にも歩きやすいコースです。登山前には道の駅「ふたつい」に立ち寄って、登山道の状態や天候などについて調べるようにしてください。
道の駅「ふたつい」<Information>
- 施設名称:道の駅「ふたつい」
- 所在地:秋田県能代市二ツ井町小繋泉51
- 電話番号:0185-74-5118
- 公式URL:https://michinoeki-futatsui.jp/
- アクセス:
- 公共交通機関/JR奥羽本線二ツ井駅下車、二ツ井コミュニティバスで約9分、道の駅ふたついバス停(コミュニティバスは日祝日運休)、または、タクシーで約5分
- 車/秋田自動車道二ツ井白神ICから約10分
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阿倍比羅夫が戦勝祈願をした、学問の神様としても知られる「七座神社」

七座山の麓、米代川岸に七座神社と銀杏山(いしょうさん)神社の2つの古い神社があります。七座神社は、米代川の対岸に位置していて、七座山7つの峰(七座)が見渡せる場所にあります。658年に阿倍比羅夫が蝦夷征伐のため進軍途中、二ツ井を訪れた際に戦勝祈願のために建立したと伝わっています。七座神社は古くから人々の崇敬を集め、七座信仰の中心にあった神社です。祭神は国造りの神として知られる伊奘諾尊(いざなぎのみこと) 伊奘冉尊(いざなみのみこと)など複数祀られていますが、そのひとりの菅原道真(すがわらのみちざね)は学問の神様として知られ、受験シーズンには多くの祈願者が訪れます。
七座神社<Information>
- 施設名称:七座神社
- 所在地:秋田県能代市二ツ井町小繋字天神道上67
- 電話番号:0185-73-5075(二ツ井町観光協会)
- 公式URL:二ツ井町観光協会 – 七座神社
- アクセス:
- 公共交通機関/JR奥羽本線二ツ井駅下車、二ツ井コミュニティバスで約9分、道の駅ふたついバス停下車徒歩約25分(コミュニティバスは日祝日運休)、またはタクシーで約10分
- 車/秋田自動車道二ツ井白神ICから約15分
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参拝すると母乳が出たと伝わる樹齢600年のイチョウ。阿倍比羅夫が戦勝祈願した「銀杏山神社」

銀杏山神社(いちょうさんじんじゃ)は、七座山麓、米代川沿いに鎮座する神社で、七座神社と同じように阿倍比羅夫が戦勝祈願のために建立したと伝わる1200年の歴史ある神社です。境内には創建時代に植えられたと語り継がれるイチョウの古木(推定樹齢は600年)が3本あります。手前の1本は、“乳柱のイチョウ(または女イチョウ)”と呼ばれ、乳の出の悪い母親が願をかけると乳が出るようになると信じられていました。藩主佐竹公の奥方も祈願し、乳が出るようになったことから、佐竹の家紋使用を許可されたと伝わっています。

“乳柱のイチョウ”の少し奥には、2本のイチョウの根元近くに横枝でつながった“連理(れんり)のイチョウ”があります。連理とは2本の木の枝が他の木の枝とくっついてしまうことを表す言葉で、その姿から“夫婦のイチョウ”ともいわれています。“夫婦イチョウ”は、昔から夫婦和合の象徴として信仰されています。
銀杏山神社<Information>
- 施設名称:銀杏山神社
- 所在地:秋田県能代市二ツ井町仁鮒坊中146
- 電話番号:0185-73-5075(二ツ井町観光協会)
- 公式URL:二ツ井町観光協会 – 銀杏山神社
- アクセス:
- 公共交通機関/JR奥羽本線二ツ井駅下車、二ツ井コミュニティバス田代線で約10分、中台バス停下車約10分、(コミュニティバスは日祝日運休)、またはタクシーで約10分
- 車/秋田自動車道二ツ井白神ICから約15分
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『三湖伝説』に登場する八郎太郎が、七座山で騒ぎを起こす
七座山を囲むように流れる米代川の真ん中に大きな岩があります。これは、ただの岩ではありません。八郎太郎が投げた石なのです。八郎太郎は、秋田県北地方に伝わる『三湖伝説』に登場する人物で、十和田湖を追い出され、仕方なく八郎潟を作って男鹿で暮らしたと伝わっています。

十和田湖の主だった八郎太郎は修行僧との力比べに負けて、米代川を西に下ったのです。七座山あたりがちょうど良いと、川をせき止めて湖を作り、暮らし始めました。しかし、これに怒った八座(当時は八座あった)の神のひとりが八郎太郎を山の上に呼び出し、再び力比べを提案したのです。
八郎太郎の投げた岩は米代川の中程までしか届かなかったのですが、神様の投げた岩は川を越えました。太郎は負けを認め、米代川を下り、八郎潟を作ったのだそうです。太郎がせき止めた七座山あたりの湖は、神様に命じられたネズミによって堤防に穴が開けられたのですが、水の勢いは強く、八座あった1座を分断してしまいました。そのため八座山は七座山となり、切り離された1座は、七座山の左隣七折山(ななおりやま/標高161m)になったといわれています。
七座山の景勝地、明治天皇が命名し、恋人たちの聖地となった「きみまち阪」

「きみまち阪公園(きみまちざか/きみまち阪県立自然公園)」は、七座山の対岸に整備された自然公園です。このあたりは米代川の河岸段丘となっていて、阿倍比羅夫や菅江真澄も歩いた旧羽越街道は川沿いではなく、馬上坂とも畜生坂といわれたようなアップダウンの激しいところに造られていました。この急峻な街道は、ようやく1881年(明治14年)に行われた明治天皇の東北巡行に際し、歩きやすいように整備されています。
天皇巡行は途中で休憩を取りながら順調に実施されだのですが、休憩の際に、東京にいる皇后から天皇を心配する手紙が渡されました。手紙を読んだ天皇はとても感激し、道すがらに見える景色の素晴らしさも相まってこの場所を<傒后阪(きみまちざか)>と名付けたのです。
その後、この地は「きみまち阪公園」として整備され、皇后から天皇への“恋文”エピソードから、恋人たちの聖地になりました。<恋文ポスト>から投函された手紙にはハートの消印、恋人同士で鳴らすとずっと一緒にいられる<きみまちの鐘>、恋文神社のハートの絵馬など楽しいしかけもいっぱい。四季折々の美しい景観も魅力の自然公園です。
きみまち阪県立自然公園<Information>
- 施設名称:きみまち阪県立自然公園
- 所在地:秋田県能代市二ツ井町小繋泉51
- 電話番号:0185-73-5075
- 公式URL:二ツ井町観光協会 – きみまち阪県立自然公園
- アクセス:
- 公共交通機関/JR奥羽本線二ツ井駅下車、二ツ井コミュニティバスで約9分、道の駅ふたついバス停(コミュニティバスは日祝日運休)、徒歩で約5分、または、タクシーで約5分
- 車/秋田自動車道二ツ井白神ICから約10分、または秋田自動車道大館能代空港ICから約15分