天然秋田杉を見に行こう【2】樹齢200年もの巨木が林立する天然秋田杉の森

天然秋田杉を見に行こう【1】では、天然秋田杉の代表的古木やそれが生えている天然林をご紹介しましたが、ここでは、比較的気軽に森林浴ができる、散策路などが整備されている天然林を中心にピックアップしました。


久保田藩の御直山として江戸時代から大切に保護されてきた「七座山」

七座山(ななくらさん)」は米代川が大きく蛇行する能代市二ツ井(ふたつい)町にある、米代川に突き出た地形に連続して並ぶ7つの山の総称です。主峰の権現座(ごんげんくら)が最も高く、といっても標高287mの低山で、弘法大師空海(こうぼうだいしくうかい/774年~835年)も訪れたという言い伝えもある、古代から修験者(しゅげんしゃ/山伏)たちが修行する信仰の山でした。

「七座山」は、先端から松座(まつくら/標高159.1m)、大座(おおくら/163.6m)、三本杉座(さんぼんすぎくら/153.7m)、柴座(しばくら/173.1m)、箕座(みのくら/192.4m)、烏帽子座(えぼしくら/229.6m)、権現座の7座が連なり、山中には慈覚大師円仁(じかくだいしえんにん/794年~864年)が彫ったとされる獅子頭や修行の証しである祠(ほこら)などが点在しています。

権現様
慈覚大師円仁が彫ったとされる獅子頭が中央に祀られている権現様 ©二ツ井町観光協会

江戸時代の「七座山」は、久保田藩(秋田藩)が直接管理する御直山(おじきやま)として大切に保護していました。周辺のスギは江戸を中心に大量に販売され、山はもう切る木がないというほどのハゲ山になってしまったのですが、「七座山」のスギには手を付けることができずに、奇跡的に天然秋田杉の森が残ったのです。

江戸時代の紀行家菅江真澄も、1802年に「七座山」を訪れ、対岸からの風景を描いています。

阿仁の沢水
菅江真澄が著書『阿仁の沢水』の中で描いた七座山 所蔵:秋田県立博物館写本

「七座山自然観察教育林」として保護されている天然秋田杉の森

「七座山」の森のうち、特に天然林として認められる99ヘクタールが「七座山自然観察教育林」として保護されています。保護林内には遊歩道が整備され、天然秋田杉を中心とするうっそうとした森の中を散策できます。

散策の基地としては、登山口にある<旧天神荘跡地>が駐車場もあり便利です。また、「七座山自然観察教育林」からは少し離れていますが、設備が整った「道の駅ふたつい」も利用可能です。

「七座山自然観察教育林」は、米代川対岸にある四季の花々が美しい秋田県立公園「きみまち阪」とともに、米代川沿岸を代表する観光スポットです。

七座山 Information

  • 名称:七座山
  • 所在地:秋田県能代市二ツ井町
  • 問い合わせ先:米代西部森林管理署
  • 電話番号:0185-54-5511
  • 散策自由
  • クマやシカなどの動物に要注意

道の駅ふたつい Information

  • 施設名称:道の駅ふたつい
  • 所在地:秋田県能代市二ツ井町小繋泉51
  • 電話番号:0185-74-5118
  • URL:道の駅ふたつい
  • アクセス:
    • 公共交通機関/JR奥羽本線二ツ井駅下車、二ツ井コミュニティバスで約9分、道の駅ふたついバス停(コミュニティバスは日祝日運休)、または、タクシーで約5分
    • 車/秋田自動車道二ツ井白神ICから約10分、または秋田自動車道大館能代空港ICから約15分

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秋田県と青森県の県境にあり、江戸時代に境界争いが長く続いた「矢立峠」

矢立峠
わずかだけだが残った矢立峠の天然秋田杉 ©秋田森づくり活動サポートセンター

矢立峠(やたてとうげ)」は、秋田県大館市と青森県平川市との県境にある峠です。標高258mとそれほど高くはありませんが、うっそうとした秋田スギの森に囲まれた峠は、江戸時代は久保田藩と津軽藩(青森県)の藩境を決めるための争いが絶えませんでした。

「矢立峠」には、平安時代に決められた<矢立杉>と呼ばれる、峠から弓を射って矢の当たったスギがありました。<矢立杉>は、峠の頂上から少し津軽藩側へ入ったところにあるのですが、津軽藩は“境界は矢立杉ではなく、峠の頂上だ”と主張し、久保田藩と言い争いになったのです。

藩境はそれから150年ももめ続け、1746年になってようやく江戸幕府が<矢立杉>が境界だと決定しました。

矢立杉
江戸時代から2代目の矢立杉切り株。その脇に3代目が植えられた ©大館市

現在もその決定が守られ、秋田県と青森県の県境は、矢立杉付近を通っています。<矢立杉>は、江戸時代以降折れてしまったり、伐採されてしまったりしてしまいました。今は江戸時代から数えて2代目の切り株近くに3代目が植えられています。なお、<矢立杉>の所在地は秋田県です。


「矢立峠」にわずかに残る天然秋田杉の森は「レクリエーションの森 矢立峠風景林」として保護

矢立峠には旧羽州街道が通っていて、伊能忠敬(いのうただたか/1745年~1818年)や菅江真澄(すがえますみ/1754年~1829年)、吉田松陰(よしだしょういん/1830年~1859年)なども峠越えしています。その頃の峠周辺は天然秋田杉の森で、1878年(明治11年)に来日したイギリスの女性旅行家・紀行作家イザベラ・バード(Isabella Lucy Bird/1831年~1904年)はその著書『日本奥地紀行(Unbeaten Tracks in Japan)』で、その雄大さと美しさを絶賛しています。

明治時代以降に矢立峠の天然秋田杉はほとんど伐採され、植林された人工林に変わってしまったのですが、わずかに残っていた天然林10ヘクタールは<矢立風致保護林>に指定され、その後「レクリエーションの森 矢立峠風景林」として保護されています。また周辺地域25ヘクタールは「安らぎの森」として、案内図や道標、説明板、東屋などが設置され、安全に歩けるトレッキングコース「歴史の道 矢立峠遊歩道」として整備されました。

レクリエーションの森 矢立峠風景林
案内図や道標、説明板などが整備されている遊歩道 ©秋田森づくり活動サポートセンター

ベース基地としては国道7号線の「道の駅 やたて峠/大館矢立ハイツ」が便利です。道の駅の駐車場は散策のために利用することが可能で、館内には散策路の案内パンフレットがあり、また、周辺をよく知るスタッフもいるので情報収集をしてから歩きましょう。

歴史の道 矢立峠遊歩道 Information

  • 場所:歴史の道 矢立峠遊歩道
  • 散策自由
  • クマやシカなどの動物に要注意
  • 施設名称:道の駅「やたて峠」/大館矢立ハイツ
  • 所在地:秋田県大館市長走字陣場311
  • 電話番号:0186-51-2311
  • 宿泊料等はホームページまたは旅行サイトで確認してください。
  • <日帰り温泉>
    • 利用時間:10:00~15:00
  • 料金(相部屋休憩込):中学生以上 700円、小学生 400円
  • URL:道の駅「やたて峠」
  • アクセス:
    • 公共交通機関/JR奥羽本線大館駅からタクシーで約25分
    • 車/東北自動車道碇ヶ関ICから約7分、秋田自動車道大館北ICから約20分

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昔話が伝わり、三十三観音石像が残る天然林「房住山自然観察教育林」

房住山自然観察教育林
急斜面上に秋田スギと落葉広葉樹が混在する天然林「房住山自然観察教育林」 ©秋田森づくり活動サポートセンター

房住山(ぼうじゅうざん)は、秋田県北西部ある三種町(みたねちょう)の琴丘(ことかおか)地区と、能代市二ツ井地区にまたがる山で、標高は約409mです。5km圏内には、「仁鮒水沢スギ植物群落保護林」と「コブ杉自然観察教育林」があり、天然秋田杉が多く残るエリアとなっています。

うっそうとした森は「房住山自然観察教育林」に指定され、樹齢200年を超える天然秋田杉の巨木も多く、ブナなどの広葉樹と混ざり合って林立する天然林になっています。

房住山自然観察教育林
信仰の森として今も三十三観音巡りの巡礼者が訪れる ©秋田森づくり活動サポートセンター

房住山には、坂上田村麻呂(さかのうえたむらまろ/758年~811年)と先住一族長面(ながつら)三兄弟が戦ったという伝説が言い伝わるほか、古くから山岳仏教の拠点として栄え、江戸時代に建立された三十三観音の石仏が登山道沿いに現存している信仰の山です。

長面三兄弟の物語は、菅江真澄が集落の長老から聞いた昔話を『房住山昔物語』として記録したものです。田村麻呂が先住民(大和朝廷では蝦夷=えみしと呼んでいた)の強者三兄弟、阿計徒丸(あけとまる)、阿計留丸(あけるまる)、阿計志丸(あけしまる)と戦い、勝利した物語で、三兄弟は巨人で、顔が70cm位の長面で、背も3m以上、長男の阿計徒丸は5m以上あったと記されています。

史実によると坂上田村麻呂は、秋田には来ていないそうで、この物語がいつ頃から語られてきたかは分かっていません。

登山道入り口から山頂までは約2時間のトレッキングです。山頂からは東に森吉山(もりよしざん/標高1454m)、西に大潟村(おおがたむら)の広大な干拓地(旧八郎潟=はちろうがた)や男鹿半島、日本海を一望できます。

房住山自然観察教育林 Information

  • 施設名称:房住山自然観察教育林
  • 所在地:秋田県三種町上岩川滝ノ上
  • 問い合わせ先:三種町観光協会
  • 電話番号:0185-88-8020
  • 散策自由
  • クマやシカなどの動物に要注意
  • URL:房住山自然観察教育林
  • アクセス:
    • 公共交通機関/JR奥羽本線鹿渡駅から車で約20分、「ぼうじゅ館」または、井戸下田登山口(房住神社近く)駐車場から徒歩
    • 車/秋田自動車道琴丘森岳ICから県道琴丘・上小阿仁線を上小阿仁村方面へ約20分、「ぼうじゅ館」または、井戸下田登山口(房住神社近く)駐車場から徒歩

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天然秋田杉の森に整備されたレクリエーションの森「平滝自然観察教育林~ふれあいの森~」

平滝自然観察教育林
「平滝自然観察教育林~ふれあいの森~」の秋田スギの天然林 ©東北森林管理局

平滝(ひらたき)自然観察教育林~ふれあいの森~」は、秋田県北部、大館市の青森県と県境地帯にそびえる田代岳(たしろだけ/1178m)の南麓に広がる秋田スギの天然林を中心としたレクリエーションの森です。

教育林には樹齢150年を超える天然秋田杉の林や、ミズナラやトチノキ、クリなどの広葉樹林、林間広場などがあり、一帯には散策路(総延長約1167m)、東屋、フィールドアスレチック、トイレ、野外卓、水飲み場、看板、多言語音声案内装置(ユニボイス)などが設置され、誰でも自由に散策できます。

平滝自然観察教育林~ふれあいの森~ Information

  • 場所:平滝自然観察教育林~ふれあいの森~
  • 所在地:秋田県大館市早口字平滝                                       
  • 問い合わせ先:大館市田代総合支所 地域振興係
  • 電話番号:0186-43-7103
  • 散策自由
  • クマやシカなどの動物に要注意
  • URL:平滝自然観察教育林~ふれあいの森~
  • アクセス:
    • 公共交通機関/JR奥羽本線早口駅より車で約40分
    • 車/秋田自動車道大館南ICから約50分

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左右に並ぶ80本の巨大な金峰神社のスギ並木

金峰神社
左右に並ぶ80本の巨大な金峰神社のスギ並木 ©旅東北

金峰神社(きんぽうじんじゃ)のスギ並木」は、参道の左側に41本、右側に39本あり、高さが約30mにもなる巨木も多く、推定樹齢は100年から400年ともいわれています。参道に立ち並ぶスギは人工林といわれているのですが、樹間がバラバラでまだ小さい木も多く、天然林ではないかとも考えられています。

金峰神社は1300年前に創建されたと伝わる歴史ある神社で、拝殿は江戸時代より前に、仁王門は江戸時代末期に建てられたものです。仁王門には、スギの巨木1本に彫刻された仁王像が安置されています。「金峰神社のスギ並木」は秋田県指定天然記念物、金峰神社拝殿、仁王門、仁王像、力持像は仙北指定有形文化財です。

金峰神社
拝殿は江戸時代以前に建立されたもの。秋田県の有形文化財 ©旅東北

金峰神社のスギ並木 Information

  • 施設名称:金峰神社
  • 所在地:秋田県仙北市田沢湖梅沢東田235
  • 問い合わせ先:仙北市田沢湖観光情報センター「フォレイク」
  • 電話番号:0187-43-2111
  • 散策自由
  • クマやシカなどの野生動物に注意
  • アクセス:
    • 公共交通機関/秋田新幹線・JR田沢湖線・秋田内陸縦貫鉄道角館駅から車で約15分
    • 車/秋田自動車道協和ICから約45分

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