犬の宮の狛犬

【山形県高畠町】幻の日本犬「高安犬」発祥の地に存在する犬と猫を祀るお宮「犬の宮」「猫の宮」

山形県の南部、高畠町の高安地区には全国的にも珍しい「犬」と「猫」を祀るお宮が存在します。

今回は、現在では絶滅してしまった幻の日本犬「高安犬」の発祥の地でもある高畠町高安地区に存在する「犬の宮」「猫の宮」を調査してみました!


幻の日本犬「高安犬」の発祥の地でもある高畠町高安地区

高安犬(こうやすいぬ)は、高畠町の高安地区でかつて飼われていた日本犬の一種で、優秀なマタギ犬として狩猟の相棒とされていましたが、昭和初期に絶滅したといわれています。

高安犬に関する資料は極端に少なく、口伝で伝わる特徴は以下の通り。

  • 体格:筋肉質で引き締まった体つきの中型犬
  • 体毛:虎毛か白
  • 耳型:茶色で立ち耳。
  • 尻尾:巻き尾。
  • 性格:忠実だが気に入った人にのみ懐く。

後述する犬の宮の由来に登場する「甲斐犬」をルーツとするともいわれますが真偽は不明です。

高安犬の碑
高安犬の碑

第32回(1954年下半期)直木賞受賞作である戸川幸夫氏の短編小説「高安犬物語」(こうやすいぬものがたり)に登場したことから全国的に知られるようになりました。

「高安犬物語」は高安犬の最後の1頭とされた「チン」の姿を描いた作品です。

犬の宮の狛犬
犬の宮の狛犬

通常の神社とは雰囲気の違う、かなり柴犬よりな見た目の「犬の宮の狛犬」は高安犬がモデルになっているとも。


犬の宮の由来

犬の宮(いぬのみや)は高畠町高安地区の「犬猫やすらぎの里公園」の駐車場のすぐ隣、小高い山の上に鎮座しています。

犬の宮の参道
犬の宮の参道

参道はそれほど長くなく、1分も歩けば本堂に到着。「山の上」と表現しましたが、かなり気楽にお参りできます。

犬の宮の本堂
犬の宮の本堂

犬の宮の由来記によると創建は和銅年間(708年〜714年)頃といわれており、かなり歴史のある社ですがしっかりと手入れと管理がされていて、地元で愛され大事にされていることが伝わってきます。

高畠町の公式HPに記載されている犬の宮の由来は以下の通り。

和銅年間(708年〜714年)都から役人が来て村人を集め「この里は昔から年貢も納めず田畑を作っていたが、今年から年貢のかわりに毎年、春と秋には子供を差し出すように」といい、村では大変悲しみ困っていた。
ある年、文殊堂帰りの座頭が道に迷い、一夜の宿を頼んだところが、今年の人年貢を差し出す家だった。

ある夜、役人が現れ、ご馳走を食べながら「甲斐の国の三毛犬、四毛犬にこのことを知らせるな」と何回も念を押して帰るのを耳にした座頭は甲斐の国に使いをやり、三毛犬と四毛犬を借りてこさせ、いろいろ知恵を授け村を去った。

村人は早速役人を酒席に招き、酔いが回ったところに、2匹の犬を放ったところ大乱闘になった。あたりが静まり返った頃おそるおそる座敷を覗いてみると、血の海の中に子牛のような大狸が2匹と多数の荒狸が折り重なって死んでいた。そばには三毛犬、四毛犬も息絶え絶えに横たわっていた。村人は必死に手当をしたが、とうとう犬は死んでしまった。

この村を救った犬を村の鎮守とせよとのお告げにより、まつったのが現在の犬の宮といわれている。

引用元:高畠町公式HP – 犬の宮

この由来をみてふと思い出した伝承が。

同じ山形県の天童市の妙見神社に伝わる「べんべこ太郎伝説」です。細かい部分は違いますが「悪さをするタヌキを遠方から連れてきた犬が退治する」という話の大枠は共通しています。

べんべこ太郎は信濃の国(現在の長野県周辺)、犬の宮の由来では甲斐の国(現在の山梨県周辺)と、犬がやって来る地域も酷似。

過去に山形に伝わった話が、さらに人伝手に広まるうちに、その地域地域で若干形を変えて土地の根付いたのかもしれませんね。その辺も興味深いです。

ちなみにべんべこ太郎伝説では山寺・立石寺長野県の光前寺の交流からこの話が伝わったのでは?という説が存在します。興味のある方は以下の記事を読んでみてください。

犬の宮<Information>

Google Maps


猫の宮の由来

猫の宮(ねこのみや)は犬の宮のすぐ近く、「犬猫やすらぎの里公園」の駐車場脇の田園地帯が広がる平地側に存在します。

猫の宮の参道
猫の宮の参道

山林に囲まれた厳かな雰囲気の犬の宮と打って変わって、のどかな田園風景に囲まれた穏やかな雰囲気の社です。

猫の宮の本堂
猫の宮の本堂

猫の宮の由来記によると創建は犬の宮の約70年後である延歴年間(781年〜805年)頃といわれており、犬の宮同様に歴史のある社で、こちらも手入れと管理が行き届いています。

猫の宮の由来は犬の宮とストーリーがつながっています。なぜ「70年後なのか?」というのも以下の由来を読むと判明します。

延歴年間(781年〜805年)高安村に代々庄屋で信心深い庄右衛門とおみね夫婦が住んでいた。2人には子供がなく、猫を心からか可愛がっていたが、なぜか次々と病死してしまう。今度こそ丈夫な猫が授かるように祈っていた。ある夜、同じ夢枕に観音菩薩が現れ「猫を授けるから大事に育てよ。」とのお告げがあり、翌朝庭に三毛猫が現れ、夫婦は大いに喜び、玉と名付けそれはそれは子供のように大切に育てていた。
玉も夫婦にますますなつき、そして村中のネズミをとるのでたいそう可愛がられていた。

玉は不思議なことに、おみねの行くところどこへでも付いていった。
寝起きはもちろんの事、特に便所へいくと、天井をにらみ今にも飛び掛からんばかりに耳を横にしてうなっている。おみねは気持ちが悪く思い、夫にそのことを話してみた。

夫が妻の姿をして便所に行くとやはり、玉は同じ素振りをする、庄右衛門はいよいよあやしく思い、隠し持っていた刀で猫の首を振り落とした瞬間、首は宙を飛び屋根裏にひそんでいた大蛇にかみついた。
この大蛇は、70数年前に三毛犬、四毛犬に殺された古狸の怨念の血をなめた大蛇が、いつかいつの日か仕返しをしようとねらっていたが、玉が守っているため手出しできなかったのだった。
この事を知った夫婦は大いにくやみ村人にこの事を伝え、村の安泰を守ってくれた猫のなきがらを手厚く葬り、堂を建て春秋2回の供養を行ったという。

引用元:高畠町公式HP – 猫の宮

…70年も恨みを晴らそうと現世に残っていた狸の怨念もすごいですが、自分たちを守ってくれていた猫を疑心暗鬼から殺してしまう庄屋夫婦というのがなんともやるせない話ですね。主人に裏切られてもなお守り切った猫。素晴らしいです。

猫の宮<Information>

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1988年から毎年行われる「全国ペット供養祭」

全国的にも珍しい犬と猫を祀るお宮ということで、両社にペットの遺品を奉納して供養を行う人が多かったため、1988年から毎年7月第4土曜日に犬の宮前で「全国ペット供養祭」が行われています。

事前予約による参加申し込みが必要ですが、犬の宮・猫の宮の別当寺院である近隣の寺院「林照院」住職の読経によってペットの追悼供養が行われます。

高畠町犬猫やすらぎの里公園の駐車場
高畠町犬猫やすらぎの里公園の駐車場

2022年9月には「犬猫やすらぎの郷(さと)公園」がオープンし、地元名産の高畠石を使用した石造りの納骨堂(ペット用)や東屋(休憩施設)、ペットの写真や名前を表示した特製プレートを貼り付ける為のメモリープレート表示壁や駐車場も整備されています。

全国ペット供養祭概要

  • 問合せ:高畠町観光協会(電話番号:0238-57-3844)
  • 参加費:4,000円 供養1体の金額(祈祷料、塔婆、赤飯、土産含む)
    • 供養2体目より追加料金2,000円(赤飯、土産はありません)
    • 「塔婆」「お札」は別料金(塔婆 800円/枚、お札 500円/枚)

犬猫やすらぎの郷公園<Information>

  • 名  称:高安犬猫やすらぎの郷公園
  • 住  所:〒992-0313 山形県東置賜郡高畠町高安910

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まとめ

全国的にも珍しい「犬の宮」「猫の宮」は長い歴史を持ち、地元に愛され受け継がれている社だということがわかりました。「高安犬」という日本犬が存在したことも今回の取材で初めて知ることができました。

日本産ワインの生産地として有名な山形県高畠町ですが、ペット愛好家の方々にもぜひ一度は訪れてほしい土地だと思います!


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