
天然秋田杉を見に行こう【1】ひときわ目立つ天然秋田杉
スギは日本固有の樹木で、秋田県では約530万年前の化石が見つかっています。その後、縄文時代早期にはヒトがスギを使っていたことは、遺跡調査から分かっています。その後、850年頃(平安時代初期)に、今までこの地に住んできた人たちを従わせようと南から攻め込んだ、大和朝廷軍の前線基地だった払田柵(ほったのさく)跡地(大仙市/国の史跡)の外側壁面からスギの角材が見つかりました。
豊臣秀吉が伏見城築城の際、秋田スギを使い有名に
江戸時代になって秋田地方には久保田藩(秋田藩)が成立し、城郭や城下町造りにも大量の秋田スギが使われ、さらには、江戸で何回も起きた大火災の際も、能代湊(能代市)から膨大な量のスギが江戸に送られました。その結果、久保田藩にとっては秋田スギは大きな財源となのですが、伐採し続けたため、江戸時代後半には多くの天然林は伐採され尽くし、その多くを失う結果となってしまいました。
本格的に秋田スギの保護が始まったのは2000年を過ぎてから
秋田スギは明治時代以降も重用され、天然林や江戸時代に植林された古木も含め、伐採され続けられました。もちろん植林も続けられたのですが、スギが生長して建築材料として使えるまでには50年以上かかります。1900年代終わり頃までは、そんな秋田スギの受難時代は続きます。
2000年代になってようやくその流れにブレーキがかかります。伐採を前提とした森林管理から、保護中心の政策に変わり、天然林は伐採禁止となり、伐採できるのは明治時代以前に植林された樹齢80~100年のものに限られたのです。ようやく秋田スギが保護されるようになったのですが、時すでに遅し、そのときには天然秋田杉はほとんど残ってませんでした。

秋田スギの天然林は、 “米代川流域(秋田県北部)に位置し、森林の年齢が150年以上で、太さが54cm以上(特に良いものは 68cm 以上)、高さが 33m 以上、また、ほぼスギのみで構成されており、木が密集していて林内が暗く、木の根元から枝までが長くて幹がまっすぐであり、元気に成長している”という条件にあてはまる森林と定義されています。
見学可能な天然秋田杉の1本スギと保護林
ここでは名前の付いた特別な天然秋田杉とその周辺の保護林を中心とした天然秋田スギの森を「林野庁東北森林管理局秋田森林管理署」の資料をもとにご紹介します。
日本一背の高い天然秋田杉[きみまち杉]

日本一高い天然秋田杉[きみまち杉]があるのは「仁鮒水沢スギ希少個体群保護林(にぶなみずさわすぎきしょうこたいぐんほごりん)」内です。
「仁鮒水沢スギ希少個体群保護林」は、JR奥羽本線二ツ井駅(能代市二ツ井町)から南へ約19km、スギの人工林を過ぎたところにある天然秋田杉の森です。保護林は、明治以降ほとんど伐採されず、自然の姿のまま残っている貴重な森で、天然秋田杉は約2800本あります。平均樹齢は250年といわれ、50mほどに生長した杉たちが競うように上へ上へと伸びた姿は壮観です。

[きみまち杉]は、樹高58m、幹周り5.15m、推定樹齢約250年で、日本一背の高い天然秋田杉です。周辺には[もっくん杉]や[恋文杉][秋田美人杉][田代杉]などの名前の付いた[きみまち杉]に匹敵するような巨大な天然秋田杉の古木があり、保護林内には30分ほどで歩ける散策路が整備されています。
[きみまち杉]は、<森の巨人たち100本>に選ばれています。
日本一高い天然秋田杉[きみまち杉]Information
- 名称:きみまち杉
- 樹齢:250年(推定)
- 樹高:約58m
- 幹周り:5.15m
- 所在地:秋田県能代市二ツ井町田代水沢
- 問い合わせ先:二ツ井町観光協会
- 電話番号:0185-73-5075
- 散策自由
- クマやシカなどの動物に要注意
- URL:きみまち杉
- アクセス:
- 公共交通機関/JR奥羽本線二ツ井駅からタクシーで約15分
- 車/秋田自動車道能代南ICから約20分、途中案内板あり
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秋田県内で最も古いのは巨大なコブが目印の[コブ杉」

[コブ杉]は、上小阿仁村(かみこあにむら)にある「上大内沢(かみおおないざわ)自然観察教育林」内にあり、樹齢は200〜300年と推定されています。
[コブ杉]の特徴はなんといっても、ヒトの目の高さぐらいから上へぷっくら膨らんでいる大きな瘤(コブ)。コブはその部分だけに付いていて、そのほかは普通のスギ。といっても樹齢は200~300年と推定されていて、幹回り3.8m、高さ40mで、2000年(平成12年)に「森の巨人たち百選」に選定された古木です。これは秋田県内で最も古いとされる天然秋田杉のひとつになっています。
コブは最長部分で2.2m、最大幹回りは6.6mになっていて、周りのスギ林はまっすぐ伸びる50m級の古木ばかりで、コブが付いているものはこれ1本。なんとも神秘的な佇まいです。
このコブができた原因ははっきりしていません。一般に樹木にコブができる原因としては、病気によるもの、傷を守るためのものなどいくつかあるのですが、診察した樹木医も特定できなかったようです。
「上大内沢自然観察教育林」はスギなどの調査のために間伐・保存されてきた森

[コブ杉]のある「上大内沢自然観察教育林」は、1924年(大正13年)に天然林収穫試験地に設定され、天然スギの生育状況などが観察調査されてきたもので、1988年(昭和63年)に、天然スギの美しい姿を保存し、村民の憩いの場、森林環境教育の場として活用するため「自然観察教育林」に指定されました。教育林の中には樹齢200年~300年の天然秋田杉が700本以上あり、[コブ杉]のほか、高さ56mの[二股の木]などの50m越えの巨木も多くあります。「上大内沢自然観察教育林」手前の「山村広場」にあるスギ林は、樹齢50~80年の人工林で、自然林との違いがよく分かります。
[コブ杉]まではトイレのある「山村広場」の駐車場に車を止めて、遊歩道を歩きます。[コブ杉]は、<森の巨人たち100本>に選ばれています。
※注意
「山村広場」「大内沢自然観察教育林」[コブ杉]までは、能代市二ツ井町中心部から、元森林鉄道跡の村道を行くのですが、2024年の豪雨での路肩損壊のため2025年7月現在通行止めになっています。開通は2026年3月予定です。行く前には必ず上小阿仁村(電話番号:0186-77-2221)へ問い合わせてください。
コブ杉 Information
- 名称:コブ杉(「山村広場」「大内沢自然観察教育林」)
- 樹齢:200~300年(推定)
- 樹高:約40m
- 幹周り:通常部 3.77m/コブ部 6.6m
- 問い合わせ先:上小阿仁村
- 電話番号:0186-77-2221
- 所在地:秋田県北秋田郡上小阿仁村大林字上大内沢 国有林内
- 散策自由
- クマやシカなどの動物に要注意
- URL:コブ杉
- アクセス:
- 公共交通機関/JR奥羽本線鷹ノ巣駅から車で約45分
- 車/秋田自動車道五城目ICまたは八郎潟ICから約35分
分岐した2本の幹が寄り添うように上へ伸びた[めおと杉]

[めおと杉]は、根元から分かれた2本の幹が、仲むつまじく寄り添って立っているスギの木で、樹齢は200年~300年、幹周り12m、樹高36mの天然秋田杉です。
[めおと杉]のある「仁別(にべつ)自然休養林」は、秋田市の東にそびえる標高1170mの太平山(たいへいざん)を中心に秋田市・五城目町・上小阿仁村の3市町村にまたがる<太平山県立自然公園・仁別国民の森>の中にあります。このスギ林は、もともと佐竹藩の御直山(おじきやま)として江戸時代より大切に守られてきたもので、現在は自然休養林として保護されています。

[めおと杉]は<森の巨人たち100選>にも選ばれています。
森を学べる「仁別森林博物館」は、「仁別自然休養林」散策の拠点としても最適

「仁別自然休養林」内の<仁別森林博物館>は、秋田スギのことや仁別の森が学べる施設です。また、過去にあった仁別森林鉄道や木材の筏(いかだ)流しの風景なども展示されています。[めおと杉]や天然秋田杉の森を散策するには、<仁別森林博物館>の駐車場を利用するのが便利です。
※注意
2025年7月現在、<仁別森林博物館>手前の林道が、2024年の大雨による障害により通行止めになっているため2025年現在<仁別森林博物館>は休館中です。[めおと杉]「仁別自然休養林」へは「太平山県立自然公園」内の歩道を歩いて行くことはできますが、本格的登山装備が必要で、おすすめできません。なお、現在復旧工事中で2027年度には開通予定です。問い合わせは東北森林管理局 電話番号:018-882-2417へ
めおと杉 Information
- 名称:めおと杉(仁別自然休養林内)
- 樹齢:200~300年(推定)
- 樹高:約36m
- 幹周り:約12m
- 問い合わせ先:東北森林管理局
- 電話番号:018-836-2214
- 所在地:〒010-0824 秋田県秋田市仁別字務沢国有林
- 散策自由
- クマやシカなどの動物に要注意
仁別森林博物館
- 施設名称:仁別森林博物館
- 所在地:秋田県秋田市仁別字務沢国有林22林班
- 開館日:5月上旬~11月上旬
- 開館時間:
- 5月~9月/10:00~17:00
- 10月・11月/10:00~16:00
- 休館日:火曜日・水曜日・木曜日(祝休日を除く)
- URL:仁別森林博物館
- アクセス:
- 公共交通機関/秋田新幹線・JR奥羽本線、羽越本線秋田駅から車で約50分
- 車/秋田自動車道秋田中央ICから約50分
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推定1000年、秋田県一の幹周りを持つ[オブ山の大杉]
[オブ山の大杉]は、大仙市(だいせんし)、美郷町(みさとちょう)にまたがる秋田県東部の山岳地帯に広がる「真木真昼(まきまひる)県立自然公園」内、川口渓谷沿い標高450mの急斜面にそそり立つ樹齢1000年以上(未確認)ともいわれる天然秋田杉です。
幹周りは12.4mで、秋田県内一の太さがあります。さらに周辺には幹周り8mを超える天然の大スギが2本あり、併せて<オブ山の大杉群落>として大仙市の天然記念物に指定されています。

[オブ山の大杉]へは。公共交通機関利用だとJR大仙駅から「真木真昼県立自然公園」内の川口渓谷にある川口温泉「奥羽山荘」まで羽越交通の路線バスで行って、そこから歩きます(片道45分程度)。車だと、「奥羽山荘」から少し手前の川口渓谷入り口に車を止めて、約60分の道のりです。「奥羽山荘」には天然温泉(ナトリウム・カルシウム硫酸塩泉)があり、日帰り入浴(おとな600円)も可能なので、車でも温泉利用をスケージュルに入れ、「奥羽山荘」の駐車場を利用する方法がおすすめです。
オブ山の大杉 Information
- 名称:オブ山の大杉
- 樹齢(推定):1000年以上
- 樹高:34m
- 幹周り:12.4m
- 所在地:大仙市太田町太田ほか
- 問い合わせ先:大仙市太田支所市民サービス課
- 電話番号:0187-88-1111
- 散策自由
- クマやシカなどの動物に要注意
- URL:オブ山の大杉/真木真昼県立自然公園
- アクセス:
- 公共交通機関/秋田新幹線・JR奥羽本線・田沢湖線大曲から川口渓谷入り口まで車で約25分、駐車場からは徒歩で約60分、または羽後交通奥羽山荘行き路線バスで終点下車、徒歩で約45分
- 車/秋田自動車道大曲ICから川口渓谷入り口まで車で約30分、駐車場からは徒歩で約60分
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1本の木から8本も分かれて立っていた[法内の八本杉]

[法内の八本杉]」は、鳥海山麓の由利本荘市の東部、東由利法内の標高120mほどの森林地帯にあり、発見当初は1本のスギが途中から8本の幹に分かれていたことから[法内の八本杉]と呼ばれています。現在は、地上3m付近から分岐した幹6本と、枯死した1本が残り、7本となっています。[法内の八本杉]は秋田県指定天然記念物です。根元には江戸時代からあったと伝わる祠(ほこら)があります。地元民にとっての大切なご神木で、代々大切に保護されてきました。
幹周りは11.50m、樹高40mで推定樹齢は700年とも、500年、300年と評価が分かれていますが、天然秋田杉の古木であることは間違いないようです。幹周りが大きいため、幹が分岐する場所は畳3枚分のスペースがあり、地域の人たちはそこで酒盛りをしていた、という嘘とも、本当ともつかない話があります。
[法内の八本杉]は、<森の巨人たち100本>に選ばれています。
法内の八本杉 Information
- 名称:法内の八本杉
- 樹齢(推定):300年~700年
- 樹高:約40m
- 幹周り:約11.50m
- 所在地:秋田県由利本荘市東由利法内
- 問い合わせ先:由利本荘市東由利総合支所 産業建設課
- 電話番号:0184-69-2116
- URL:法内の八本杉
- アクセス:
- 公共交通機関/JR羽越本線羽後本荘駅から羽後交通路線バス東由利線または本荘・横手線で約45分、蔵バス停下車徒歩で約40分、あるいは車で約50分
- 車/日本海自動車道本荘ICから約30分
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乱伐からかろうじて生き延びた天然秋田杉。ここまで数少ない天然秋田杉の森やその中に何百年も生きてきた1本杉を紹介してきました。でも有名な1本杉はないけれど、「七座山」や「矢立峠」など紹介しきれなかった天然秋田杉の森があります。それは『天然秋田杉を見に行こう2』で紹介していますので、是非そちらもご覧ください。