【福島県郡山市】悲恋の物語「采女伝説」とは?現代も残る言い伝えの影

市街地に東西にのびる幹線道路「うねめ通り」や、毎年8月に行われる夏の風物詩「うねめ祭り」など。福島県郡山市の暮らしの端々に現れる「うねめ」というワードは、この地に残される采女伝説(うねめ伝説)に由来しています。

今回は福島県郡山市に伝わる采女伝説についてご紹介します。

「采女伝説」とはどんな物語?

采女とは、古代朝廷で働く女官のことです。天皇や皇后に使えて、食事や身の回りの世話をするのが仕事でした。都からほど遠い東北・福島の地に、なぜ采女の名がつく伝説が残ったのか。不思議ですよね。

物語の中身は、このようなものです。

約千三百年前、陸奥の国安積の里(現・郡山市)は冷害が続き朝廷への貢物ができないほどだった。
このため奈良の都から巡察使葛城王が訪れた。
里人たちは窮状を訴え貢物の免除をお願いした。しかし、その願いは聞いてくれなかったという。

その夜、王をもてなす宴が開かれ、王は里長の娘、春姫を見そめた。春姫は心から王をもてなし、

安積山影さえ見ゆる 山の井の 浅き心を我が思わなくに
どうしてご機嫌が悪いのですか。安積山のふもとに山の井の清水があります。
安積山の影を水面に映し、浅い井戸のように思われますが、どうして、どうして、とても深い清水です。
それと同じで私たちが王をお慕いしている気持ちはとても深いものです。どうかご機嫌を直して下さい。

「安積釆女とその時代」より(今泉正顕氏著)

と詠み献上した。

王は大変喜び、春姫を帝の采女として献上することを条件に、貢物を三年間免除することになった。春姫には、次郎という相思相愛の許嫁がおり、悲しみをこらえて別れた。

都での春姫は、帝の御寵愛を受けていたが、仲秋の名月の日、次郎恋しさに猿沢の池畔の柳に衣をかけ、入水したように見せ、愛する次郎の待つ安積へ向かった。

里へたどりついた春姫は、次郎の死を知り、雪の降る夜、あとを追って次郎と同じ山の井の清水に身を投じた。やがてみちのく安積の里にも春が訪れ、山の井の清水のまわり一面に名も知れぬ薄紫の美しい可憐な花が咲き乱れていた。
だれ言うともなく、二人の永遠の愛が地下で結ばれ、この花になったのだと噂をした。

(引用元:郡山うねめまつり実行委員会ホームページ

王に見初められた春姫は、里を守るために、婚約者・次郎と泣く泣く別れて采女になります。しかし次郎のことが忘れられない春姫は、猿沢池へ入水したと見せかけて、やっとの思いで故郷へ。そこで次郎の死を知り、悲しみに暮れた春姫は、清水に身投げをしてしまうといったストーリーです。

2人の悲しい恋を伝える物語ですが、実はこの物語は、遠く離れた都・奈良市にもう1つの顔を残しています。

采女伝説は奈良市にも存在

前記した春姫と次郎の悲恋を伝える采女物語は、福島県郡山市で語り継がれているもの。しかし古代の都があった奈良市にも、同じく「采女伝説」と呼ばれる物語が残されているのです。それは平安時代に書かれた大和物語につづられています。

奈良の采女伝説は、天皇の寵愛をうけていた采女が、天皇の心変わりを嘆き、猿沢池のほとりにある柳の木に衣をかけて、身を投げてしまったというもの。

この物語を象徴するかのように、奈良の猿沢池のほとりには、采女を慰めるために建てられたとされる采女神社があります。奈良の采女神社は一般的な神社と比べて変わっており、鳥居を背にするように反対向きに建てられています。これには采女の霊が、自分が身を投げた池を見るのは忍びないと思い、一晩で社殿を反対向きにしてしまったとする言い伝えが残っているそうです。

郡山と奈良、遠く離れた2つの地にそれぞれ残されていた采女伝説。すべてが一致するわけではありませんが、共通する点も多いのが興味深いですね。

これらの采女伝説が縁となり、郡山市と奈良市は昭和46年に姉妹都市を締結。二都市が親交を深めるきっかけとなりました。郡山市の夏の風物詩「うねめまつり」には、奈良市から親善使節団が郡山市を訪れます。また奈良市の猿沢池では、采女が身投げしたとされる中秋の名月の日に例大祭が行われ、郡山市から親善使節団が奈良市を訪問しているそうです。

采女伝説発祥の地「山ノ井農村公園(うねめ公園)」

福島県郡山市の西部に位置する片平町。自然豊かな山々の裾にゆったりと田畑が広がる、田園風景が続くエリアです。采女伝説の舞台とされる山の井に設置された「山ノ井農村公園」内で、伝説の影を見ることができます。

まずは、物語のラストで春姫が入水したと伝えられる「山の井の清水」です。小さな清水ですが、澄んだ水面を携える姿はどこか神秘的。長い期間、世の中の移ろいを移してきたような佇まいです。

近くには春姫を祀る采女神社があります。

また、万葉集に残される「安積香山影さへ見ゆる山の井の浅き心を吾が思はなくに」という歌は、山ノ井の清水を指しているという説があり、公園内には歌碑があります。

そのほか園内には、大きな池をぐるりと囲むような散策コースが設置されています。大きな道路がなくとても静かで、藤や蓮などの季節ごとの花が楽しめますので、ゆっくりと散歩するのがおすすめです。

INFORMATION

  • 施設名 山ノ井農村公園(うねめ公園)
  • 所在地 福島県郡山市片平町字山ノ井11-1
  • お問合せ番号 024-951-5080(片平行政センター)

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まとめ

今回は福島県郡山市の言い伝え、采女伝説について紹介しました。

郡山市で受け継がれる采女伝説は、春姫と次郎の悲しい恋のストーリー。一方で遠く離れた都の地、奈良市にも同じ名前を冠する物語が残されていることにおもしろさを感じますね。

采女伝説の発祥の地には、今も伝説に関するスポットが残されています。その後2人の恋が実ったことを祈りつつ、訪れてみてはいかがでしょうか。

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