【福島県】福島駅で山形新幹線のアプローチ線増設工事が進行中
福島県の福島駅では、山形新幹線の列車のためのアプローチ線を増設する工事が進められています。
工事の内容と意義を、現地の写真を交えて解説します。
福島駅のアプローチ線とは?
山形新幹線こと「つばさ」号は1992年に運行を開始しました。
現在は主に東京駅と山形県の山形駅・新庄駅の間で運行されています。
「つばさ」は、東京駅から福島駅までの区間では東北新幹線の線路を走ります。
また、多くの「つばさ」が、この区間では東北新幹線の「やまびこ」号と連結して走ります。
やまびこは、主に東京駅~仙台駅・盛岡駅間で運行されています。
福島駅でやまびこを切り離すと、奥羽本線に乗り入れて山形駅または新庄駅へ向かいます。
「山形新幹線」とは、東北新幹線の東京駅~福島駅間と、奥羽本線の福島駅~山形駅・新庄駅間を総称した名前であり、この区間で運行される列車(つばさ)に対する通称でもあるのです。
山形新幹線が誕生した経緯についてはこちらの記事をご覧ください。
また、「つばさ」が走行する奥羽本線に関する記事もぜひご覧ください。
既に説明したように、下りの山形・新庄行きのつばさは東北新幹線の福島駅で停車した後、東北新幹線から奥羽本線に乗り入れます。
上りの東京行きのつばさについてはもちろんこの逆で、奥羽本線から東北新幹線の福島駅に乗り入れます。
やまびこと連結される列車については、福島駅で連結を行います。
「つばさ」が東北新幹線と奥羽本線の線路の間を行き来するための線路が「アプローチ線」なのです。
現状のアプローチ線はどこが問題なのか?
現在の東北新幹線の福島駅の配線を簡単に示した図がこちらです。
11番線は上り線のホームで、仙台方面から入線できる構造になっていますが、現状では基本的に使われていません。
12番線は上り列車用のホームで、「やまびこ」の中でも福島駅でつばさとの連結を行わない列車は、ここに停車することになります。
12番線と13番線の間にある2本の線路は、通過列車用です。
東北新幹線の「はやぶさ」や、秋田新幹線の「こまち」は福島駅に停車しないので、この線路を高速で駆け抜けてゆきます。
13番線は下り列車用のホームで、やはり主に「つばさ」との連結を行わない「やまびこ」が停車します。
そして14番線です。
詳細はこれから説明しますが、「つばさ」や、「つばさ」と連結して運行される「やまびこ」は、下り列車も上り列車も必ずこの線に停車する必要があります。
まず、下りの「やまびこ・つばさは」、14番線に停車したら切り離しが行われて、「つばさ」が先に出発し、現在のアプローチ線を通って奥羽本線の線路へと降りていき、山形方面へ向かいます。
その後で「やまびこ」が、仙台方面へ出発していきます。
問題は東京行きの上り列車です。
まずは「やまびこ」が、上り線から下り線をまたぐ形で14番線に入ります。
そしてそのあとで「つばさ」が、奥羽本線からアプローチ線をのぼって、14番線に入り「やまびこ」と連結します。
アプローチ線は14番線にしかつながっていませんから、「つばさ」は14番線にしか入ることができず、そのために「やまびこ」もわざわざ14番線へ入って、「つばさ」を待つ必要があるのです。
なお、「つばさ」との連結を行わない「やまびこ」は、14番線に入る必要はありませんから、12番線に停車します。
「やまびこ」と「つばさ」の連結が行われた後、列車は再び下り線をまたぐ形で上り線に移り、東京方面へ向かいます。
なお、上の図では「つばさ」が「やまびこ」と連結していますが、「つばさ」の中には「やまびこ」との連結を行わない列車もあります。
しかし、先ほど述べたように「つばさ」は14番線にしか入線できません。
したがって、上りの「つばさ」が福島駅を出発する時の下り線の横断は、上りの「つばさ」が走る限りは(やまびことの連結をしようがしまいが)発生することになります。
上りの「つばさ」が単独で運行される場合は1回、「つばさ」と「やまびこ」が連結して運行される場合は2回、列車が下り線をまたいでいます。
上り列車が下り線を横断している間は、当然のことながら下り列車が福島駅を通過したりすることはできません。
したがって福島駅のただ1か所が原因で、東北・山形新幹線のダイヤの設定には大きな制約が生まれます。
また、ダイヤが乱れた場合には、上り列車が下り線を横断しているのを下りの通過列車が待つ(高速で走る新幹線は、いったん停車するだけで5分所要時間が延びると言われています)、逆に下り列車の通過を上りの「やまびこ・つばさ」が待つ、14番線を下りと上りの「つばさ」が取り合うといった事態が発生して、ダイヤの乱れが更に拡大してしまいます。
そしてダイヤが大きく乱れてしまうと、その影響は東北新幹線や山形新幹線の中だけでは収まらなくなります。
東北新幹線の東京駅~大宮駅間の線路には、上越新幹線や北陸新幹線の列車も走っています。
ということは、東北新幹線や山形新幹線のダイヤが乱れて、そのダイヤの乱れが福島駅で増幅された結果、新潟行きや金沢・敦賀行きの新幹線のダイヤまで乱れるといったことにもなりかねないのです。
また、問題点がもう1つあります。
ここまで説明したように、上りの「やまびこ」は、「つばさ」との連結を行わない場合は12番線に停車し、「つばさ」との連結を行う場合は14番線に停車するのです。
福島駅から上りの「やまびこ」に乗って東京方面へ行きたいときに、列車によって行くべきホームが違います。
これがわかりにくいということに、特に異論はないでしょう
(東京駅や新大阪駅などの大きな駅を使う機会が多い人にとっては、当たり前のことかもしれませんが……)。
アプローチ線増設工事の内容
現在の福島駅では上りの「やまびこ・つばさ」が、下り線を2回横断することがネックとなっています。
そして2回横断する必要があるのは、現状のアプローチ線が、福島駅の14番線にしかつながっていないからです。
この状態を解決する方法を、考えつくこと自体は容易でしょう。
上の図のように、現在のアプローチ線は下りの「つばさ」専用にして、上りの「つばさ」のための福島駅の上りホームにつながるアプローチ線の新設工事を行えばよいのです。
このような配線であれば、上り・東京行きの「やまびこ」が先に11番線の東京側に停車して「つばさ」を待ち、上りの「つばさ」は新アプローチ線を通って奥羽本線から福島駅の11番線に入線し、やまびこと連結を行えます。
「やまびこ」が福島駅に進入する際に、下り線をまたぐ必要がなくなります。
やまびこ・つばさが福島駅から進出する際にも、下り線をまたぐことはありません。
上り列車が一切下り線を横切らなくなるので、ダイヤ設定の柔軟性が大きく向上し、ダイヤの乱れが福島駅で拡大する事態の発生も減らすことができます。
また、既設のアプローチ線は1本しかないので、福島駅で下りのつばさの出発と、上りのつばさの到着を同時に行うことができませんでしたが、これが同時にできるようになることもポイントです。
新アプローチ線の完成後に、これまでの制約条件がなくなることで、つばさが増発されるということもあるかもしれません。
そして上りのやまびこの停車番線は、つばさとの連結を行う列車は11番線、行わない列車はこれまでと同じ12番線ということになるでしょう。
やまびこが停車するホームを確認してからホームに上がるというわずらわしさも解消されるのです。
アプローチ線の増設という、福島駅の局所的な工事が、東日本の広範囲を走る新幹線の利便性と安定性の向上に貢献するのです。
実現に時間がかかった新アプローチ線
上りのつばさ専用のアプローチ線の必要性自体は、遅くとも2005年頃には、新幹線の運行を行っているJR東日本の社内で認識されていたようです。
しかし、新アプローチ線の工事は難工事となることが容易に想像でき、検討に時間をかけたり、工事の技術の進歩を待ったりする必要があったので、実現に時間がかかることとなったのです。
筆者が作った図にも示されているように、新しいアプローチ線は、東北新幹線の下をくぐったうえで、急カーブを描いて福島駅の高架ホームに乗り付けなければなりません。
そして図には描かれていませんが、地上を走る在来線の邪魔をしないようなルートを通らなければなりません。
更には、駅の北側(図で言えば右側)には、福島県道310号庭坂福島線の西町こ線橋という、在来線の線路をまたいでいる道路橋があります。
ここを通る自動車を阻害しないような余裕のある高さで、新アプローチ線は庭坂街道こ線橋を越える必要があります。
結果として新アプローチ線は、カーブどころか上り坂も急なものとなりました。
その勾配は33‰(パーミル)、水平方向に1kmと進むと33m上がるというもの(タンジェントが0.033になる角度)で、角度で表すと1.89度です。
自動車ならともかく、鉄道にとっては結構な急勾配なのです。
もっとも、上りの「つばさ」は福島駅に到着するまでにも、米沢駅~福島駅間で「板谷峠」という平均勾配が33‰の峠を越えてきているので、今更33‰の上り坂が1つ追加されても、登れないということは全くないはずです。
板谷峠の鉄道に関してはこちらの記事をご覧ください。
急カーブに急勾配ということで、新アプローチ線は、都市高速道路のジャンクションを思わせるような線路となりました。
実際にご覧いただくのが早いので、ここからは写真付きの解説になります。
アプローチ線増設工事の現状
以下、筆者が2024年8月上旬に現地で撮影した写真をもとに、アプローチ線増設工事の現状を紹介します。
なお、写真の撮影は公道の上や歩道の上、プラットホーム上などから行っています。
一般人の立ち入りが制限されている箇所での撮影は行っておりません。
奥羽本線の上り線から分岐した新アプローチ線は、福島駅の近くにある三河踏切を過ぎると、福島駅に向けて高度を上げ始めます
(三河踏切は現在奥羽本線の普通列車しか通過しませんが、新アプローチ線の供用開始後は、上りのつばさも通過することになります)。
この航空写真の中心にあるのが三河踏切です。
南東方向にある福島駅へ延びる新アプローチ線が、この記事を作成した2024年9月の現時点で既に写っています。
新アプローチ線の線路は既に敷かれていますが、車両に電気を送る架線はまだ設置されていません。
おそらくこれから電気設備の工事が行われるのでしょう。
新アプローチ線の上を通る高架橋は東北新幹線の線路です。
なお、この高架線は現在のアプローチ線です。
現在のアプローチ線は、山形方面に向かって緩やかに下っていきます。
新アプローチ線はぐんぐん高度を上げながら、東北新幹線の高架橋の下をくぐります。
曽根田(東)踏切という、東北本線・福島交通飯坂線・阿武隈急行線の踏切の辺りで、東北本線に最接近します。
ここから更にカーブを描いて、いったんは潜り抜けた東北新幹線の線路に近づいていきます。
奥に小さく見えるクリーム色の橋は、庭坂福島線西町こ線橋の上をまたいでいる部分です。
なお、曽根田(東)踏切という名前から想像がつく通り、この踏切を渡るとすぐそこに、飯坂線の曽根田駅があります。
西町こ線橋の上から、こ線橋をまたぐ部分を撮影。
そして福島駅に向かっていき……
東北新幹線の線路につながる部分がこちら(新アプローチ線は右端の線路)。
現時点では金網のゲートが設けられています。
そして現在はまだ予備のホームである11番線へ、線路が続いています。
なお、この頃(8月上旬)山形新幹線は7月下旬の豪雨災害の影響で部分的に運休しており、新庄行きになるはずだったつばさは「大石田行き」という、普段は見られない行き先を掲示していました。
また、筆者が福島駅から新幹線に乗る予定だった日は、奥羽本線内で発生した信号装置トラブルの影響で山形新幹線が大幅に遅れており、その遅れが東北新幹線にも波及して混とんとしていました。
新アプローチ線の必要性を、身をもって経験することになりました。
まとめ
新アプローチ線の高架橋や線路の工事は既にだいぶ進んでおり、今にも列車が走れそうな様相ではありますが、電気設備などの工事はまだこれからで、完成後も入念な試運転などが必要になることでしょう。
新アプローチ線の使用開始は、2026年度末の予定と発表されています。
おそらくは2027年3月のJRグループのダイヤ改正のその日から、上りの「つばさ」の営業列車がこの新しい線路を走ることになると思われます。
このわずか数百メートルの線路が、今後の東日本の新幹線の利便性と運行の安定性を、大いに高めてくれることでしょう。