秋田県の北部にある能代市(のしろし)には、大規模なロケット実験場『能代ロケット実験場』があります。市の西部、日本海に面した細長い敷地にロケットエンジンの開発や燃焼試験の施設、実験場が並んで建っていて、現在も活躍中の小型ロケット、イプシロンや液体水素ロケットエンジンの開発、燃焼などの研究実験が行われている最先端の宇宙開発施設です。さらには再使用ロケット実験機による離着陸試験やジェットエンジンの屋外燃焼試験など、未来を見据えての研究も進められています。
『能代ロケット実験場』は、1962年(昭和37年)に東京大学生産技術研究所(現JAXA宇宙科学研究所)の研究施設として誕生しました。目的はロケットエンジンの研究開発で、最大の成果はイプシロンロケットの開発、運用です。イプシロンは、日本の主力宇宙ロケットのひとつで、固定燃料を使った低コスト小型ロケットです。打ち上げは2013年に試験1号機が鹿児島県のJAXA内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。開発にはJAXAと民間のIHIエアロスペース社が共同で関わり、ロケットエンジンの試験は『能代ロケット実験場』で行われています。

イプシロンロケットは2021年までに観測衛星や探査衛星を乗せて5号機まで打ち上げられ、すべて成功しました。さらにイプシロンロケットを進化させ、2023年に打ち上げを計画しているイプシロンSロケットの燃焼試験も『能代ロケット実験場』で行われています。
さらに、2018年に小型実験機RV-Xを使った地上燃焼試験が行われるなど、打ち上げ用ロケットの再利用に関する研究・実験が始まっています。まだ、入り口段階の研究ですが、今後の実用化に向けて『能代ロケット実験場』の役割がますます重要になっています。『能代ロケット実験場』は予約すれば見学可能です。

能代市は宇宙で町おこし
能代市は、「宇宙平和の一翼を担い、人々の笑顔あふれるユートピアの創造を目指す」ことを目的としてJAXA(宇宙航空研究開発機構) の施設がある市町を中心に結成された “銀河連邦共和国”の一員です。能代市の国名は「ノシロ共和国」で、北海道大樹町(たいきちょう/タイキ共和国)、岩手県大船渡市(おおふなとし/サンリクオオフナト共和国)、宮城県角田市(かくだし)、神奈川県相模原市(さがみはらし/サガミハラ共和国)、長野県佐久市(さくし/サク共和国)、鹿児島県肝付町(きもつきちょう/ウチニウラキモツキ共和国)とともに活動しています。

能代市では、宇宙活動の一環として能代ロケット実験場を中心に、こどもたちが宇宙を学べる場として『サイエンスパーク・能代市子ども館』や『プラネタリウム』が開設され、『能代宇宙イベント』、能代宇宙イベント期間中に開催される『銀河フェスティバルin能代』など、日本最大級のイベントが開催されています。
楽しく宇宙を学べる「サイエンスパーク・能代子ども館」
『サイエンスパーク・能代市子ども館』は、こどもたちが自然科学や宇宙への夢と希望を育む手助けをする市立の科学館です。1階は「自然科学館」、2階が「宇宙館」になっています。

「宇宙館」はJAXAの協力でロケットや衛星の実物大模型が展示され、ロケットの原理や歴史などが学べます。ロケット実験場コーナーでは、能代ロケット実験場で行ってきた実験のビデオ映像が流れ、その役割や研究内容がいかに日本の宇宙開発に貢献してきたかが分かるようになっています。
衛星コーナーは能代ロケット実験場が開発に深く関わったM-Vロケットによって打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」が中心の展示です。「はやぶさ」とはやぶさが探査した小惑星「いとかわ」の模型が展示されています。
「宇宙館」にはプラネタリウムも設置され、休館日を除く毎日上映されています。

手作りロケットの打ち上げ「能代宇宙イベント」

『能代宇宙イベント』は、日本最大の宇宙イベントです。全国から大学生や高校生、中学生などのアマチュア宇宙ファンが集まり、手作りロケットや缶サット(空き缶サイズの模擬人工衛星)を打ち上げ、その高度や滞空時間などを競います。基本的には一般公開ではありませんが、期間中1日だけ公開日が設定されていて、缶サットや手作りロケットなどの打ち上げ実験が行われ、会場の「能代宇宙広場」は多くの観客で賑わいます。
打ち上げられるロケットは“モデルロケット”といって、本体は紙や木材(バルサなど)、プラスチックでできていて、本体の中にエンジン(ロケットモーター)を装着し打ち上げます。推進力は固体燃料(主に黒色火薬)で、100m以上打ち上がることもあるので、落下時の危険を回避するために必ずパラシュートが組み込まなくてはいけません。打ち上げには安全な打ち上げ台なども必要です。
打ち上げにはライセンスが必要で、ロケットは自作あるいはキットを購入します。ライセンスは日本モデルロケット協会などで取得できます。詳しくは日本モデルロケット協会オフィシャルホームページ(https://ja-r.net/)で。
期間中、能代市では「のしろ銀河フェスティバル」が開催され、能代ロケット実験場の特別公開やイメージキャラクター、ノシロイオンのショーなど、能代市中心街が宇宙一色になります。