伊勢堂岱遺跡の模型(伊勢堂岱縄文館)

【秋田県北秋田市】環状列石4個が1か所に。世界遺産に登録されている神秘の遺跡、伊勢堂岱遺跡  

伊勢堂岱遺跡(いせどうたいいせき)は、秋田県北秋田市にある縄文時代の遺跡です。最大の特徴は4つの環状列石(ストーンサークル)が存在することで、遺跡の保存状態が良いため国の史跡に指定されるとともに、世界文化遺産『北海道・北東北の縄文遺跡群』のひとつに登録されています。


環状列石は世界共通、集落の中心にあった祈りの場所

伊勢堂岱遺跡の大きな特徴は、同じ広場に4つの環状列石が造られていたことです。このように同一場所に4つも見つかったのは日本ではここだけです。

環状列石とは、石を丸い形に置いたもので、世界中に同じ様なものが存在し、世界的に有名なイギリスのストーンヘンジもその1つです。日本では東北地方から南北海道に多く見つかっており、直径30m以上の大きなものも20か所以上あります。最も大きく有名なのが大湯環状列石を構成する直径52mの万座環状列石(秋田県鹿角市)です。

環状列石は何のために造られたのでしょうか。住居を環状に並べたものや墓地説、天体に関わるもの(日時計など)など多くの説があるのですが、祈りを捧げたり、冠婚葬祭を実施したりする場所であるとともに、お墓だったのではないかとの説が有力になっています。


約4,000年前、人が住むには適していた遺跡周辺

伊勢堂岱遺跡は、縄文時代後期の比較的早い時期(後期前葉)に造られたことが分かっています。縄文時代は、旧石器時代が終わる約1万5,000年前から約2,400年前まで、1万年以上も続きました。この1万年の間は草創期(約1万1,000年前まで)、早期(約7,000年前まで)、前期(5,000年前まで)、中期(約4,000年前まで)、後期(約3000年前まで)、晩期(約2,400年までまで)と時代分けされていて、その後農耕生活が中心の弥生時代へと引き継がれていきます。

伊勢堂遺跡が造られた縄文時代後期前葉は、縄文時代を通じて氷河期、温暖化期など大きな気候変動があった中でも、現在の気温に近く暮らしやすい時代でした。遺跡周辺には落葉広葉樹林が広がり、米代川などからは鮭などの魚が獲れ、秋になると主食となっていた栗やどんぐりなどが採集できました。また冬には落葉するために見通しが良くなって、動物を狩猟するにも適しているのです。冬は寒く雪が多いにもかかわらず、食料には困らなかったと考えられています。


伊勢堂岱遺跡の発見は平成になってから

伊勢堂岱遺跡は、秋田県北部を流れる大河、米代川の標高42~45mほどの河岸段丘上にあります。伊勢堂岱は伊勢堂の丘(岱)という意味の地名で、いつの時代かは不明ですが付近には伊勢堂という神社があったといわれています。

発掘調査中の環状列石(2006年) ©北秋田市

伊勢堂岱遺跡は、1998年(平成10年)に開港した大館能代空港のアクセス道路計画地を調査中の1992年(平成4年)に発見され、1994年(平成6年)から始まった本格的調査で、翌年に環状列石AとBが、1996年には環状列石Cが発掘されました。そのため遺跡保存を求める地域住民や県民の声に押され、アクセス道路の迂回が決定されたのです。

その後は発掘調査が継続され、掘立柱建物(ほったてばしらたてもの)跡(基礎の上に柱を立てるのではなく、土の中に直接柱を埋め込んだ建物)、土坑墓(土に直接穴を掘り埋葬した墓)、柱穴などが見つかりました。さらに2000年(平成12年)には4つめの環状列石(環状列石D)が確認されています。

©北秋田市

200年かけても未完成な環状列石A

4つの環状列石はすべて直径30m以上あり、並べられた石は少し離れた河原から持ち込まれ、大きな円を描くように置かれています。

最も北側にある環状列石Aは少し楕円形をしていて、長径は32mあります。並べられている石は1,272個で、石の種類は20以上あり色もさまざまです。外側を2重の石列で囲む予定だったと思われる一部の組石があり、未完成だったともいわれています。

河原のさまざまな石が並べられている環状列石 ©北秋田市

一部だけ発掘された環状列石B

環状列石Bは、約15mの円の一部(円弧)だけが発見されています。発掘調査の結果、削り取られた後がなく何らかの事情で一部しか造られなかったと考えられています。


直径が45mある4つの中で最大の環状列石C

直径が45mある環状列石C。下半分は未発掘 ©北秋田市

今後の発掘調査に期待がかかる環状列石D

環状列石Dは最も南に位置し、長径約36mの楕円形です。列石は2重だったとみられていますが、原形をとどめていない部分も多く、環状列石Cと同じように人工的に整地された土地に造られています。北半分のみ発掘調査済みです。


200年で放棄か。謎が多い伊勢堂岱遺跡

伊勢堂岱遺跡の環状列石はまだまだ多くの謎に包まれています。そのひとつに、4個の中に未完成なものがあるということです。環状列石は一度に造ってしまう訳ではなく、長い年月をかけて完成させていくものなのですが、未完成なまま放棄されているということは人々がこの地域から離れていったことを表しています。発掘調査の結果、その期間は約200年ともいわれています。まだまだ分からないことだらけの縄文時代、今後の研究に期待がかかります。


遺跡からは1万3,000点以上の遺物を発掘。一部は秋田県の有形文化財に

祭りに使用されたと考えられる出土品 ©北秋田市

環状列石内や周辺からは多くの土器や土偶、石器などが発見されています。破片を除いた出土品は1万3088点で、そのうちの原形をとどめるもの280点が秋田県の有形文化財に指定されました。

唯一完全な形に復元できた板状土偶 ©北秋田市

出土品の中で環状列石Bの土坑墓の中からは無数の土偶破片が発見され、その中で唯一板状土偶(ばんじょうどぐう)が、完全な形に復元できました。その最大高は18.8cm、最大幅13.0cm、最大厚1.5cmで、「伊勢堂岱縄文館」に展示されています。

「伊勢道岱縄文館」の板状土偶を中心とした展示 ©旅東北

伊勢堂岱遺跡には「伊勢堂岱縄文館」が建てられ、多くの出土品が展示されています。また、ガイダンス映像も上映されていて、遺跡とあわせて見学することで、世界遺産伊勢堂岱遺跡への理解がより深まることでしょう。

「伊勢道岱縄文館」で出迎えてくれる板状土偶の大きなレプリカ

伊勢堂岱遺跡<Information>

  • 施設名称:伊勢堂岱遺跡・伊勢堂岱縄文館
  • 所在地:秋田県北秋田市脇神字小ヶ田中田100-1
  • 電話番号:0186-84-8710
  • 開館時間:
    • 伊勢堂岱遺跡/9:00~16:30
    • ※環状列石の保存のため、11月から4月中旬まで冬季閉鎖
    • 伊勢堂岱縄文館/9:00~17:00
  • 休館日:月曜日(祝休日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
  • 入館料・展示観覧料:無料
  • URL:伊勢堂岱縄文館
  • アクセス:
    • 鉄道/秋田内陸縦貫鉄道線 縄文小ケ田駅から徒歩で約5分
    • 車/秋田自動車道伊勢堂岱ICから約10分

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