【宮城県白石市・七ヶ宿町】怖い話や少し悲しい物語。語り継がれる物語が残る「みちのくおとぎ街道」

「みちのくおとぎ街道」は、宮城県白石市(しろいしし)・七ヶ宿町(しちかしゅくまち)と山形県南陽市(なんようし)・高畠町(たかはたまち)を結ぶ、民話や昔話が残る懐かしさいっぱいの街道(国道113号)です。

ここでは宮城県白石市と七ヶ宿町に伝わるお話と、あわせて両市町の観光名所をご紹介しましょう。


人気アニメのモデル!? 白石市の姉妹“みやぎの/しのぶ”による敵討ち物語

白石市に伝わるお話は、“おとぎ街道”とはちょっと異質な“姉妹による敵討ち”の物語です。

『寛永13年(1636)百姓与太郎は二人の娘と共に、この地八枚田で田の草取りの最中、たまたま通りがかりの白石城下剣道指南浪人志賀団七の袴に泥がかかったので、これを怒った浪人が与太郎と娘の心からの謝罪も聞き入れず、与太郎を斬り捨てました。二人の娘は家に逃げ帰ったがこの悲しみで母は絶命したといわれています。姉妹二人は悲嘆にくれたが心に期するところがあり、上京し武芸者として知られた由井正雪(ゆい しょうせつ)の門をたたき、事の次第を詳しく語り、その同情により武道の修練を積み、寛永17年2月白石城下西郊六本松河原において、姉は鎖鎌、妹は薙刀を持って志賀とわたりあい、見事敵を討って本懐をとげた』

引用:白石商工会「白石女敵討」より・原文まま

という物語で、実際にあった話といわれています。

与太郎を斬り捨てられた八枚田近くにある「孝子堂」 ©白石市
与太郎を斬り捨てられた八枚田近くにある「孝子堂」 ©白石市

最初に事件が起きた八枚田(はちまいだ)は、東北新幹線白石蔵王駅の南東300mくらいのところにある田んぼで、現在でも保存会の人々によって稲作が行われています。近くには大正時代に建てられた『孝子堂』があり、父親と姉妹が祀られています。

八枚田/孝子堂<Information>

  • 施設名称:奥州白石囃発祥の地 八枚田/孝子堂
  • 住所:宮城県白石市大鷹沢三沢八枚田
  • 電話番号:0224-22-1321(白石市観光協会)

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江戸で浄瑠璃や歌舞伎にもなり人気を博した「白石女敵討の物語」

明治時代に出版された『白石噺孝女の仇討』。伊藤倉三 編『白石噺孝女の仇討』金盛堂 明21年刊 所蔵;国立国会図書館
明治時代に出版された『白石噺孝女の仇討』。伊藤倉三 編『白石噺孝女の仇討』金盛堂 明21年刊 所蔵;国立国会図書館

この姉妹による敵討ちの物語は『白石女敵討』(しろいしめがたきうち/奥州白石女敵討)として江戸に伝わり、1780年にはこの話を題材に、姉妹が教えを受けた兵法家で江戸幕府の転覆を狙ったことで知られる由井正雪の物語とした浄瑠璃(じょうるり/三味線を伴奏にして物語を語る舞台芸能)『碁太平記白石噺(ごたいへいきしろいしばなし)』が上演されました。

その後歌舞伎や文楽にも脚色されて「白石噺」「宮城野信夫(みやぎのしのぶ)」などと呼ばれて、江戸町民に大人気となったのです。

『白石噺孝女の仇討』から仇討ちの場面 所蔵:国立国会図書館
『白石噺孝女の仇討』から仇討ちの場面 所蔵:国立国会図書館

『碁太平記白石噺』は、現在でも歌舞伎や文楽の演目になっています。長い物語なので全段を上演することはほとんどありませんが、2022年9月には51年ぶりに文楽で通し上演が行われました(2022年9月3日~20日国立劇場)。

また、ご存じの方も多いと思いますが、“しのぶ”という登場人物がいる大人気アニメのエピソードにもこの物語が題材になっていると噂になっています。


江戸時代を通じて伊達藩の領地だった白石市

『白石女敵討』の舞台となった白石市とはどのような歴史があるのでしょう。

白石市周辺は縄文弥生時代の遺跡が数多く見つかっていて、古くから人々が暮らしていました。奈良時代には陸前国(りくぜんのくに)柴田郡(しばたぐん)として大和朝廷の支配下となり、後に刈田郡(かったぐん)として独立したエリアとなっています。

平安時代後期には源頼朝(みなもとのよりとも)と奥州藤原氏の戦いの舞台となり、頼朝軍が勝利し、頼朝による奥州支配の足がかりとなりました。

鎌倉時代に刈田氏により白石城(別名:益岡城・桝岡城)が築かれたと伝わっています。室町時代以降の群雄割拠の時代に城主は何人か変わり、豊臣秀吉の時代になり蒲生氏(がもうし)次いで上杉氏の支配下となります。

1995年に復元された白石城 ©宮城県
1995年に復元された白石城 ©宮城県

関ヶ原の戦い(1600年10月21日)の直前、同年7月に伊達政宗(だてまさむね)が白石城を攻め落とします。この戦い以降白石城は伊達藩家臣の片倉氏の居城となり、白石地方は明治維新まで伊達領でした。

「白石城」は、1874年(明治7年)に解体されてしまいましたが、1995年(平成7年)に天守をはじめとするいくつかの建物が復元され、天守のある桝岡公園(ますおかこうえん)内には「白石城歴史探訪ミュージアム」が開設されています。

白石城のある益岡公園は桜の名所として市民の憩いの場所となっている ©宮城県
白石城のある益岡公園は桜の名所として市民の憩いの場所となっている ©宮城県

白石城・歴史探訪ミュージアム<Information>

  • 施設名称:白石城・歴史探訪ミュージアム
  • 住所:宮城県白石市益岡町1-16(益岡公園内)
  • 電話番号:0224-24-3030
  • 開館時間:
  •    4月~10月/9:00~17:00
  •    11月~3月/9:00~16:00
  •    ※入館は閉館の30分前まで
  • 休館日:12月28日~12月31日
  • 入館料:一般 400円、小中高校生 200円、未就学児 無料
  • URL:益岡公園・白石城

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自然が創った造形美。天然記念物「小原の材木岩」

高さ65m、長さ100m以上の柱状節理が続く「小原の材木岩」。国の天然記念物 ©宮城県
高さ65m、長さ100m以上の柱状節理が続く「小原の材木岩」。国の天然記念物 ©宮城県

「小原の材木岩」は、白石川上流、七ヶ宿ダムの東側に位置し、巨大な材木を並べたような岩壁(柱状節理/ちゅうじょうせつり)が約100mに渡って続く自然が創り出した絶景です。高さは65mほどにもなり、国の天然記念物に指定されています。

ダム湖に沈んでしまった旧上戸沢宿にあった建物を移築した「旧上戸沢検断屋敷木村家住宅」 ©白石市
ダム湖に沈んでしまった旧上戸沢宿にあった建物を移築した「旧上戸沢検断屋敷木村家住宅」 ©白石市

小原の材木岩一帯は、「水と石の語らいの公園 材木岩公園」として整備され、農家レストランでは「小原の材木岩」を眺めながら手打ちそばなどが味わえます。また、公園内には江戸時代に材木岩近くを通っていた旧七ヶ宿街道(羽州街道)上戸沢宿(かみとざわしゅく)の検断役(けんだんやく/警備・警察・裁判などを行う職務)だった「旧上戸沢検断屋敷木村家住宅」が移築復元されています。

「小原の材木岩」を眺める公園として整備されている「水と石の語らいの公園 材木岩公園」 ©白石市
「小原の材木岩」を眺める公園として整備されている「水と石の語らいの公園 材木岩公園」 ©白石市

小原の材木岩<Information>

  • 施設名称:小原の材木岩/水と石の語らいの公園 材木岩公園/旧上戸沢検断屋敷木村家住宅
  • 住所:宮城県白石市小原字上台
  • 電話番号:0224-22-1321(白石市観光協会)
  • 営業時間:9:00~16:30
  • 休館日:12月1日~2月末頃
  • 入園料:無料
  • URL:材木岩公園

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7つの宿場があった旧羽州街道沿いの町七ヶ宿町

「みちのくおとぎ街道」(国道113号線)は、白石市中心部から西に向かい、「小原の材木岩」付近で福島県の桑折町(こおりまち)から北に上がってくる旧羽州街道(うしゅうかいどう)と合流して七ヶ宿町へ入り、山形県高畠町方面へ向かいます。

旧七里ヶ宿街道(羽州街道)。七里ヶ宿町には7つの宿場があった ©宮城県
旧七里ヶ宿街道(羽州街道)。七里ヶ宿町には7つの宿場があった ©宮城県

羽州街道は、江戸時代に桑折で奥州街道から分かれて山形、秋田を経由して青森県方面へ向かう街道です。街道は参勤交代で江戸と行き来する出羽国(でわのくに/山形県、秋田県)の殿様たちや行商人たちで賑わっていたといわれています。

七ヶ宿は、山形へ入る二井宿峠(ふたいしゅくとうげ)の手前にあった7か所の宿場の総称で、羽州街道は別名“七ヶ宿街道”と呼ばれていました。現在の七ヶ宿町は当時の7つの宿場(上戸沢、下戸沢、渡瀬、関、滑津、峠田、湯原)がひとつの町になりつけられた町名です。


「振袖地蔵」伝説が語り継がれる七ヶ宿町

七ヶ宿町には「振袖地蔵」と呼ばれるお地蔵様があります。このお地蔵様は何故「振袖地蔵」と呼ばれるようになったのか。それには江戸時代から伝わる民話からきています。

恋する関の地蔵を向いて立ち続けている「振袖地蔵」©宮城県
恋する関の地蔵を向いて立ち続けている「振袖地蔵」©宮城県

『その昔、秋田藩の殿様が参勤交代で江戸に向う途中、この地で1人の美しい娘を見染めました。殿様は、その後もこの娘を忘れられず、帰国の際、侍女に召そうとしたが娘はすでに病死していました。殿様はこれを深く悲しみこの娘の供養のためにお地蔵様を建てたといわれています。このお地蔵様の建てられたのは享保20年(1735年)で約2メートルの高さがあり、器量良く、衣の袖も振袖のように刻まれているのは、娘に似せて刻ませたためであるといわれています。なお、関宿の西はずれに坐像のお地蔵様が西(滑津)向きに建てられていますが、振袖地蔵と互いに向き合って立っていて、恋仲といわれ、向きを変えてもいつの間にか元にもどると言われています。』

七ヶ宿町教育委員会・原文まま

「振袖地蔵」は、七ヶ宿町の旧宿場町滑津(なめつ)の景勝地「滑津大滝」近くにあり、東を向いて立っています。その目は4kmほど離れた今は七ヶ宿町の中心街となっている旧宿場町関にある「関の地蔵」と向かっているといわれています。

振袖地蔵<Information>

  • 施設名称:振袖地蔵
  • 住所:宮城県刈田郡七ヶ宿町滑津
  • 電話番号:0224-37-2177(七ヶ宿町ふるさと振興課)
  • 施設名称:関の地蔵
  • 住所:宮城県刈田郡七ヶ宿町諏訪原
  • 電話番号:0224-37-2177(七ヶ宿町ふるさと振興課)
  • URL:振袖地蔵

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高さ10m、幅30mの二階滝「滑津大滝」

2段に分かれて流れ落ちる「滑津大滝」。川幅が広く水量が多いので迫力満点 ©宮城県
2段に分かれて流れ落ちる「滑津大滝」。川幅が広く水量が多いので迫力満点 ©宮城県

「滑津大滝」は七ヶ宿町を縦断する白石川にある滝で、高さ約10m、幅約30m。川幅いっぱいに2段になって流れ落ち、“二階滝”とも呼ばれています。四季折々に全く違う表情を見せてくれますが、特に紅葉の時期がおすすめで、まわりの木々とともにライトアップされた風景は格別です。

紅葉に彩られた「滑津大滝」 ©宮城県
紅葉に彩られた「滑津大滝」 ©宮城県

滑津大滝<Information>

  • 施設名称:滑津大滝
  • 住所:宮城県刈田郡七ヶ宿町滝ノ上
  • 電話番号:0224-37-2177(七ヶ宿町ふるさと振興課)
  • URL:滑津大滝

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「みちのくおとぎ街道」は白石川沿いを上流へと向かい、二井宿峠(二井宿トンネル)を境に山形県に入ります。山形県高畠町、南陽市の“おとぎ話”はまた次の機会にご紹介します。

みちのくおとぎ街道<Information>


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