中ノ沢こけし

【福島県】「土湯系の一部」という評価から脱却して発展する伝統こけし「中ノ沢こけし」

東北地方を代表する伝統工芸品の一つ「こけし」。

東北全県に最低一つは独自の系統が存在する、かなり広域にわたって波及した工芸品です。

今回はそんなこけしの中から、福島県の中ノ沢（なかのさわ）温泉を中心に発達した「中ノ沢こけし」を深掘りしてみました。

こけしとは？

こけしとは、主に山村に住み、轆轤（ろくろ）を使ってお椀やお盆などを作り生計を立てていた木地師（きじし）と呼ばれる職人が、自分の子供たちの遊び道具や、近くの温泉街の湯治客に土産物として売り歩くために作っていた木製の玩具の事です。

沢山の中ノ沢こけし
沢山の中ノ沢こけし

江戸時代の末期頃から発生したといわれ、一般的には産地や特徴から、以下の12系統に分けられます。

  • 津軽系（青森県弘前市・黒石市周辺）
  • 南部系（岩手県花巻市周辺）
  • 木地山系（秋田県湯沢市周辺）
  • 鳴子系（宮城県大崎市 鳴子温泉周辺）
  • 作並系（宮城県仙台市 作並温泉周辺）
  • 遠刈田系（宮城県刈田郡蔵王町 遠刈田温泉周辺）
  • 弥治郎系（宮城県白石市 鎌先温泉周辺）
  • 肘折系（山形県最上郡大蔵村 肘折温泉周辺）
  • 山形系（山形県山形市周辺）
  • 蔵王高湯系（山形県山形市 蔵王温泉周辺）
  • 土湯系（福島県福島市 土湯温泉周辺）
  • 中ノ沢系（福島県耶麻郡猪苗代町 中ノ沢温泉周辺）

様々な呼び名とその由来

こけしにはきでこ、でころこ、こげす、きぼこ、さらにはこげほうこ、きなきなぼっこ、おでこさま等、様々な別名が存在します。

そもそもの「こけし」という名前はどこからきたのか？というところも諸説あり、

  • 疫病よけ玩具の除子（よけし）の転化
  • こげ（木片）ほほこ（人形）の変化
  • こげ（木削）し（子）の意
  • 御芥子（おけし）という江戸時代に流行した小さな人形の訛り

など、複数の説が存在します。それぞれの説にある一定の説得力があり、前述した別名もそれぞれの由来をもとにした名前に、各地の訛りが加わって変化したものと考えられています。

このように各地で全く違う呼び名で呼ばれていたこけしでしたが、1940年（昭和15年）に東京こけし会が開催した「第1回現地の集り・鳴子大会」に、こけし工人や愛好家などの多くの関係者が集まり、「こけし」とひらがな3文字に統一することが決められ、以後どこの地域でも「こけし」と呼ばれるようになったそうです。

中ノ沢温泉で発達した中ノ沢系こけし

12系統の一つで、福島県耶麻郡猪苗代町の中ノ沢温泉周辺で発達したのが中ノ沢系こけしです。

栃木県出身の流れ木地師である岩本善吉という人物が1922年に中ノ沢温泉に移り住み、昭和元年（1926～1927年）頃から温泉土産としてこけしを作りだしたのが始まりとされています。

中ノ沢系こけし
中ノ沢系こけし

中ノ沢系こけしの特徴は、他の系統とは一線を画す独特な表情と周りを赤く染められた「目」です。

もともと人まねが嫌いな性格で独創的なものづくりを好む岩本善吉が作り出した大きな個性で、その見た目から「たこ坊主」の愛称で親しまれています。

こけしとしての形や構造は宮城県の「遠刈田系」や福島市の「土湯系」の影響を受けていて、胴には牡丹や桜が描かれるのが一般的です。

「土湯系の一部」という評価から、近年「独立系統」として認定される

長年に渡って「土湯系の一部」という分類をされてきた中ノ沢系こけしでしたが、その独自性から地元では独立系統として分類されることが望まれてきました。

そして2018年に「土湯系」より「中ノ沢系」として呼称する承諾を得て、2024年、宮城県白石市で開催された日本最大級のこけしの祭典「第66回全日本こけしコンクール」で「中ノ沢系こけし」として独立系統の伝統こけしに認定されました。

中ノ沢こけし＜Information＞

中ノ沢こけし発祥の地「中ノ沢温泉」

中ノ沢（なかのさわ）温泉は福島県耶麻郡猪苗代町にある、東は安達太良山、西は磐梯山、北は吾妻山系の山々に取り囲まれた山間の温泉地です。

中ノ沢温泉
中ノ沢温泉

猪苗代町と福島市を結ぶ国道115号線、そこから分岐し郡山市へとつながる県道24号線の合流地点にあり、近くには幕末の会津藩と新政府軍の激戦地の一つだった「母成峠古戦場」も存在します。

東北ろっけん雑学メディア：NEFT（ネフト）
関連記事
イメージ
【戊辰戦争時の福島県】会津・白河・棚倉・二本松…その他諸藩の決断とは？
https://jp.neft.asia/archives/10649
戊辰戦争では、朝敵とされた会津藩にまつわる悲話が数多く語られています。ただ、福島県ではほかの諸藩もまた列藩同盟として官軍に対抗し、二本松、白河口、浜通りなどの各地で激しい戦いが繰り広げられました。火中の栗を拾う忠義の心・会津藩鶴ヶ城（会津若松市）会津藩初代藩主の保科正之（ほしな・まさゆき）は、徳川第3代将軍・家光（いえみつ）の異母弟で、よく兄を助け幕府の重鎮として信頼の厚い存在でした。徳川一門として「親藩・御家門」とされ、第3代・正容（まさかた）の時、松平性に改めています。会津家家訓（かきん）1...
関連記事を読む

中ノ沢温泉自体が誕生したのは明治時代で、安達太良山の噴火口（沼ノ平）の近くにある源泉から中ノ沢まで直線距離で約7㎞引湯して開湯されました。

中ノ沢こけし発祥の地
中ノ沢こけし発祥の地

1913年には近隣の沼尻鉱山から産出される硫黄を運ぶ沼尻軽便鉄道も敷設され、観光客も鉄道に乗って温泉に来るようになり、当時は飲食店はもちろん芸妓屋や映画館までもが軒を並べ、湯治場として活気に満ちていたそうです。

火山性のお湯は酸性が強く高温で、古くから薬湯として親しまれていました。現在も８件ほどの温泉旅館が存在します。

中ノ沢温泉＜Information＞

Google Map

この記事と関連がありそうな記事

その他の記事