【秋田県】明治時代にタイムスリップした町「小坂町」。小坂鉱山が残した文化遺産

小坂町(こさかまち)は、秋田県北東部に位置し、青森県に接した町です。町の中心部には東北自動車道や国道282号線が通っています。

国道282号線は、古くは津軽街道(歌にある津軽街道とは違う街道です)や南部道鹿角(かづの)道濁川(にごりがわ)街道などと呼ばれていて、奥羽街道と弘前藩(陸奥国/津軽藩/青森県)を結ぶ重要な街道でした。また、十和田湖の湖岸の1/4ほどが小坂町になっている山深い町でもあります。


小坂鉱山の発見で大きく発展した小坂

小坂町付近には江戸時代頃から有望な鉱山が見つかっていて、藩境を接していた南部藩(陸奥国・福島県、青森県、宮城県)、久保田藩(出羽国/秋田藩/秋田県)、弘前藩との境界をめぐる争いが絶えなかったようです。

小坂は南部藩に属していて、1820年代に鉱山が発見され、1861年からは南部藩が本格的に銀の採掘を始めた小坂鉱山によって町は大きく発展することになります。


明治時代になって秋田県に編入

幕末から明治に移り変わる時に勃発した戊辰(ぼしん)戦争(1868年~1869年)で、旧幕府側の南部藩は新政府側に寝返った久保田藩に攻め込みます。この戦いでは両藩とも多くの犠牲者を出してしまいました。戊辰戦争は新政府軍の勝利に終わり、小坂を含む鹿角郡は秋田県に編入されます。

小坂鉱山も南部藩の経営から離れ、明治政府の直轄鉱山になりました。その後1884年(明治17年)には民間企業に払い下げられ、さらなる発展を遂げます。


藤田組によって日本屈指の銅鉱山に成長した小坂鉱山

旧小坂鉱山のジオラマ ©小坂まちづくり(株)

1884年に明治政府から経営を任された藤田組 (現DOWAホールディングス/旧会社名同和鉱業株式会社)は、鉱山の近代化を図り、最新の製錬技術を導入。1907年(明治40年)には生産量日本一の鉱山になったのです。その金額は当時の秋田県歳入決算額の8倍以上だったといわれています。

藤田組の創業一族藤田家は、幕末に長州藩(山口県)の萩から大阪へ進出した実業家で、小坂鉱山をはじめ愛媛、島根、岩手、岡山などでも鉱山経営に携わりました。


小坂鉱山近代化の基礎を創った久原房之助

藤田組には2人の優秀な経営者がいました。ひとりは藤田家の親族で、1891年(明治24年)22歳で藤田組に入社、小坂鉱山に配属された久原房之助(くはらふさのすけ/1869年~1965年)です。房之助は、入社当時経営不振に陥っていた小坂鉱山を立て直すため、黒鉱(銅や鉛が含まれる複雑鉱)の新しい製錬技術の開発に心血を注ぎます。1900年(明治33年)には31歳で所長に就任し、新技術の成功とともに小坂鉱山に新しい光を灯しました。

久原房之助 「近代日本人の肖像」より 所蔵:国立国会図書館
 

房之助は技術ばかりでなく、従業員の福利厚生の充実や地域社会への貢献を最優先の課題とし、鉱山内には郵便局や消防隊を創設し、鉱山用の発電所を建設しました。また、小学校には房之助寄贈による「小坂文庫」や、鉱山にも奨学会が創設されています。

1905年(明治38年)には、小坂鉱山のシンボルとして木造3階建てのルネッサンス風な鉱山事務所(小坂鉱山事務所/国指定重要文化財)が完成しています。


久原房之助は藤田組退社後、国会議員として活躍

房之助は、1905年(明治38年)藤田家の家督争いから藤田組を辞めてしまい、小坂鉱山の所長は藤田組の創業者で社長だった藤田伝三郎(ふじたでんざぶろう/1841年~1912年)が引き継ぎます。

久原房之助は、藤田組退社後茨城県日立市の鉱山を買収し、日立鉱業を興します。人望があった房之助には、小坂鉱山の優秀な人材が多くついて行きました。その中に電気技師だった小平浪平(おだいらなみへい/1874年~1951年)がいて、15年後日立製作所を創業しています。房之助は、第1次世界大戦後政界に進出し、衆議院議員となり立憲政友会総裁を歴任、第2次大戦後も衆議院議員として日中・日ソ関係復興に尽力しました(参照:近代日本人の肖像 国立国会図書館)


福利厚生、教育、インフラ、都市計画まで整備した藤田伝三郎

小坂鉱山の経営に本格的に取り組んだ藤田伝三郎は、久原房之助の理念を受け継ぎ鉱山を大きくするだけでなく、小坂を秋田県第2位の人口を有する町にまで発展させました。伝三郎の改革は、従業員の待遇改善から衛生面の充実など鉱山内部の問題だけでなく、小学校の増築、幼稚園「聖園マリア園(みそのまりあえん)」の開設、教育用品の寄付など多岐にわたっています。また、都市計画による商店街や歓楽街の構築、上水道敷設、道路改良、大館・小坂間の鉄道敷設、当時秋田県一といわれた総合病院も開設し、町のインフラ整備にも力を入れました。

藤田伝三郎 「近代日本人の肖像」より 所蔵:国立国会図書館

従業員の福利厚生にも力を入れ、1910年(明治43年)に芝居小屋「康楽館(こうらくかん)」(国指定重要文化財)をオープンしています。「康楽館」では歌舞伎や演劇、音楽会などが催され、従業員やその家族、地域住民にとって最高の楽しみになりました。(参照:鉱山経営と経営信条 -藤田組における小坂鉱山の事例から(1884-1925) 高橋清美著 経営論集)


小坂鉱山の閉山と小坂鉄道の廃止

昭和初期の小坂駅舎 ©小坂町

小坂鉱山は、鉱石の枯渇により1990年(平成2年)に閉山となりました。さらに、1994年(平成6年)には小坂鉄道の旅客扱いが停止され、2009年(平成21年)には小坂鉄道が廃止されます。

小坂鉱山は、鉱物の採掘は行われなくなりましたが、小坂製練(株)と名称を変え存続、最近では、金、銀、銅、鉛など20種類ほどの金属を家電などから取り出す世界一のリサイクル製錬所として活動の場を広げています。


明治百年通りを整備して観光地として再出発した小坂町

すっかり寂しくなった小坂町ですが、残された小坂鉱山の遺産を利用して、町を整備する計画が立ち上がりました。まずは、1985年(昭和60年)に芝居小屋「康楽館」の大規模改修です。翌年には閉館していた「康楽館」を再開しています。

1990年(平成2年)からは5年をかけて「康楽館」の前面道路を、石畳やレンガ張り、ガス灯風街路灯などが設置された明治の香りが漂う道として整備、この通りは明治百年通りと名付けられました。2001年(平成13年)には、旧小坂鉱山事務所が明治百年通り沿いに移築・復原されています。

桜満開の季節の明治百年通り ©小坂まちづくり(株)

明治百年通り<Information>

  • 名 称:明治百年通り
  • 所在地:秋田県鹿角郡小坂町小坂鉱山
  • アクセス:
    • 鉄道/JR奥羽本線大館駅より秋北バス、またはJR花輪線鹿角花輪駅または十和田南駅から秋北バス小坂町方面行きを利用
    • 車/東北自動車道小坂ICから約4分

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明治時代から続く芝居小屋「康楽館」

©旅東北

康楽館は、1910年(明治43年)に小坂鉱山の福利厚生施設として創設された木造の芝居小屋で、1986年(昭和61年)には一時中止されていた一般興行が再開されました。

明治百年通りの中心施設として4月下旬から11月上旬の常打芝居やレビュー公演、松竹大歌舞伎などが上演されています。建物内部の見学が可能です。建物は国の重要文化財に指定されています。

康楽館<Information>

  • 施設名称:明治の芝居小屋・康楽館
  • 所在地:明治百年通り
  • 電話番号:0186-29-3732(康楽館)
  • 観劇料:
  • 常打芝居(施設見学込)/おとな (高校生以上)2500円、こども(小中学生) 1250円
  • 松竹大歌舞伎/別料金(開催日・料金などは要問い合わせ)
  • 見学料(ガイド付き):個人700円
  • 見学時間:9:00~17:00
  • 定休日:年末年始
  • URL:康楽館

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国指定重要文化財の「小坂鉱山事務所」

©旅東北

小坂鉱山事務所は、1905年(明治38年)に建てられ、2001年(平成13年)に小坂鉱山敷地内から明治百年通りに移築、復原されました。建物は奥にも部屋が続く大きな木造3階建てで、ヨーロッパルネッサンス風の華麗な外観からは小坂鉱山の隆盛ぶりがうかがわれます。

館内は見学が可能で、3階は明治期の小坂鉱山設備を紹介する資料館になっています。建物は国指定重要文化財及び近代化産業遺産です。

小坂鉱山事務所<Information>

  • 施設名称:小坂鉱山事務所
  • 所在地:明治百年通り
  • 電話番号:0186-29-5522(小坂鉱山事務所)
  • 開館時間:9:00~17:00
  • 入館料:おとな 380円、こども 200円
  • 休業日:年末年始
  • URL:小坂鉱山事務所

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小坂鉱山が創設した幼児教育施設「聖園マリア園」

©小坂まちづくり(株)

聖園マリア園は1932年(昭和7年)に創設された小坂鉱山従業員のためのカトリック系幼児教育施設で、明治百年通り沿いにあります。現在は建設当時の建物に復原され、「天使館」として地域の集会や交流の場として利用されています。見学可能で、国登録有形文化財です。

聖園マリア園<Information>

  • 施設名称:多目的ホール「天使館」(聖園マリア園)
  • 所在地:明治百年通り
  • 電話番号:0186-29-5522(小坂鉱山事務所)
  • 見学無料

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もとは小坂鉱山配電所だった「赤煉瓦倶楽部」

©小坂まちづくり(株)

赤煉瓦倶楽部は、もともと電気を供給する配電所(旧小坂鉱山工作課原動室)として1904年(明治37年)に建てられたもので、明治百年通りの小坂鉱山事務所と康楽館の間にある国際交流広場に移築・復原されました。骨組みは木造でありながら壁はレンガで覆われている木骨煉瓦造りという富岡製糸場(世界遺産・国宝/群馬県富岡市)と同じ造りの特徴的な建物になっています。カフェとして利用されています。赤煉瓦倶楽部は国登録有形文化財です。

赤煉瓦倶楽部<Information>

  • 施設名称:小坂町赤煉瓦にぎわい館「赤煉瓦倶楽部」
  • 所在地:明治百年通り
  • 電話番号:0186-25-8225(赤煉瓦倶楽部)
  • 営業時間:10:00~16:00
  • 定休日:木曜日、冬季休業
  • URL:赤煉瓦倶楽部

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旧小坂鉄道廃線跡を利用した鉄道ワールド「小坂鉄道レールパーク」

国登録有形文化財の旧小坂駅舎とプラットホーム ©小坂町

小坂鉄道レールパークは、旧小坂鉄道の小坂駅跡に整備された鉄道のテーマパークです。開業(1909年)当時の駅舎(旧小坂鉄道本屋)とプラットホーム(ともに国登録有形文化財)を中心に、1962年(昭和37年)に建てられた機関車庫(国登録有形文化財)や引き込み線などの既存施設を利用し、小坂鉄道で活躍したDD130形ディーゼル機関車やブルートレインあけぼの、ラッセル車、11号蒸気機関車などが展示されています。またレールバイクや廃線跡を巡る観光トロッコなどの体験は、ファミリーや鉄道マニアに大人気です。

ブルートレインあけぼのでの宿泊は2023年現在車両整備のため休止になっています。2024年春の再開に向けて準備中です。また、ふるさと納税制度を活用したクラウドファンディングも予定しています(詳細は要問い合わせ)。

小坂鉄道レールパーク<Information>

  • 施設名称:小坂鉄道レールパーク
  • 所在地:秋田県鹿角郡小坂町小坂鉱山字古川20-9
  • 電話番号:0186-25-8890
  • 営業期間:4月1日~11月23日
  • 営業時間:9:00~17:00(最終入場16:30)
  • 乗物休止日:火曜日・水曜日(祝日はその限りでない))
  • 入園料:おとな 600円、こども 300円、幼児無料(保護者同伴に限る)
  • 体験料、営業日、乗物休止日等に関してはオフィシャルホームページまたは要問い合わせ
  • URL:小坂鉄道レールパーク

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建設同時は秋田県一の総合病院だった「小坂鉱山病院」の遺構

1949年の火災で唯一残った記念棟 ©小坂町

旧小坂鉱山病院記念棟は、1908年(明治41年)に開設された総合病院「小坂鉱山病院」の唯一残る遺構です。病院は1949年(昭和24年)の火災で焼失し、その後再建されましたが、昔のまま残ったのがこの記念棟です。国登録有形文化財。

創建当時の「小坂鉱山病院」 ©小坂町

旧小坂鉱山病院記念棟<Information>

  • 施設名称:旧小坂鉱山病院記念棟
  • 所在地:秋田県鹿角郡小坂町小坂鉱山字古館48-2
  • 電話番号:0186-29-5522(小坂鉱山事務所)

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