菊池雄星投手が全国区だと思っていた「きりせんしょ」とは?【岩手県】

「きりせんしょ」とは米粉を練って蒸した餅菓子で、岩手県の内陸中部でお祝い事に出されたり、田植えなど農作業時のおやつとして食べられたりする郷土菓子です。

先日、盛岡生まれのメジャーリーガー・菊池雄星投手が彼のXアカウントで、「全国区のお菓子だと思っていた」と紹介したことで話題になりました。

この記事では岩手で愛され続けてきた郷土菓子「きりせんしょ」についてご紹介します。


「きりせんしょ」とはどんなお菓子?

菊池雄星投手ご推奨の「とばせ園」の「きりせんしょ」 パッケージに書かれているのは「北上夜曲」の歌詞

岩手県内陸の水田地帯を中心に昔から行事食として食べられていて、農家を中心に各家庭でその作り方と味は、代々大切に伝えられてきました。

農林水産省公式サイトで紹介されている「きりせんしょ」 出典:農林水産省ウェブサイト

地域ごと家庭ごとに作り方や味や形が違い個性豊かで「標準」がなく、主材料はうるち米の米粉で味付けは砂糖(ザラメなど)と醬油、クルミと黒ゴマが使われているのが共通です。

「道の駅 遠野 風の丘 夢咲き茶屋」の河童の焼き印がある「きりせんしょ」、左の白は「ごま」右の茶は「醤油」

あんこ入りや黒蜜入りのものや饅頭のようなもの、関東や東北の「くるみゆべし」に似た「ゆべし」のようなもの、さらには醤油や砂糖の甘しょっぱい餡を絡めて食べる地方もあるなど、これが主流と呼べるスタイルのない庶民的で素朴なお菓子です。


「きりせんしょ」の名前の由来とは?

切り山椒と酉の市の袋 出典:Wikipedia(撮影者:李桃桃内、ファイル名:Kirizansho.jpg)

米粉に砂糖と山椒(さんしょう)を混ぜた生地を蒸した、「切山椒(きりざんしょう)」という江戸時代から続く和菓子があり、今でも毎年11月に浅草の鷲神社(おおとりじんじゃ)で開かれる酉の市(とりのいち)で、縁起物として売られています。

昔は岩手でも「きりせんしょ」が山椒を刻んで浸した汁で米粉を練って作られていたことから、「切り山椒(きりさんしょう)」と呼んでいましたが、それが訛って「きりせんしょ」になったという説が有力です。

やがて昭和の初めごろから山椒が使われなくなって現在の味になったとされていますが、盛岡市内では今でも「切山椒」の名前で「きりせんしょ」を販売しているお店があります。


同じ岩手県内でも地域によって違う「きりせんしょ」

左が北上で右が盛岡で売られている「きりせんしょ」と「ゆべし」、形も色もこんなに違います

「きりせんしょ」の形は箸で模様をつけた竹輪のような形や小判型、木の葉型のものなどのほか、型を使って花や舟の形にしたものなどさまざまなバリエーションがあります。

北上周辺に多いお花型の「きりせんしょ」

菊池雄星投手ご推奨の北上「とばせ園」の「きりせんしょ」

菊池投手がXで紹介していたのはこのタイプで、菊の花や梅の花に似た形で厚さは薄く、中にはなにも入っていません。

花巻周辺は小判型と饅頭型の「きりせんしょ」が混在

「道の駅はなまき西南」で販売されていた、作り手が異なる2種類の「きりせんしょ」

薄い小判型をしていて箸などで格子状の模様がつけられたものが多く、地域によっては饅頭(まんじゅう)のような形になっていて中に餡子(あんこ)が入っているものもあります。

また花巻では、ひな祭りに「花巻人形」と呼ばれるひな人形を飾り「きりせんしょ」をお供えする地域があります。

盛岡周辺に多いのは小判型で蜜入りの「きりせんしょ」

盛岡市門(かど)にある「手造りだんご畠山」の「きりせんしょ」は、甘い蜜入り

やや厚みのある「ちくわぶ」ような棒状のものや楕円形の小判型のものなどがあり、中に甘い蜜が入っているものもあって、「ゆべし」との間で明確な違いがほとんどありません。

なお、盛岡市内では蜜が入った「きりせんしょ」を作る餅菓子店が多いのですが、一般家庭では蜜をいれない「きりせんしょ」が多いと言われています。

「きりせんしょ」と「ゆべし」の違いとは?

「手造りだんごや畠山」の「きりせんしょ」(真ん中と左)と「ゆべし(右)」

どちらも「うるち米粉」や「もち米粉」をこねて蒸したお菓子で、モチモチした食感と砂糖と醤油による甘辛い味も良く似ていて、明確に区別できる特徴がありません。

この2つの違いの表現として「ゆべしは蜜なし、きりせんしょは蜜入り」とも言われていますが、盛岡では黒蜜が入った「きりせんしょ」があるほかに、蜜入りの「ゆべし」を作も多くみられその境界はとても曖昧です。


「きりせんしょ」の作り方

原材料はいたってシンプル、保存料などの添加物が入っていないものが多く日持ちしません

材料は水・米粉(うるち米の上新粉、さらにもち米粉を加える地域あり)・砂糖(三温糖や黒砂糖にザラメなど)を・醤油・サラダ油・クルミ・黒ゴマです。

お店や家庭によって材料の分量やこね方、蒸し時間などが違い個性さまざまですが、作り方は次の手順でほぼ同じようです。

  • 鍋に水・砂糖・醤油・サラダ油を入れ、かき混ぜながら沸騰させる
  • 鍋に米粉を入れて木べらで手早くかき混ぜ、火を止めてこねる
  • 白い粉が見えなくなったら、クルミと黒ゴマを混ぜてさらにこねる
  • 1個分の大きさにちぎり、形を整えて蒸し器で蒸す

いずれの地域でもおおよそこのように作られていますが材料を入れる順番が違っていたり、蒸してからこねる地域もあったり、手順だけでなく作り手によっても食感や味が異なります。


菊池雄星投手が大好物として紹介した「きりせんしょ」はこちら!

「とばせ園」のきりせんしょ

菊池投手がXで紹介した「きりせんしょ」は、北上市二子町にある「とばせ園」という障がい者施設で作られているものです。

工業団地にある「とばせ園」

きれいな花形をしていて、もっちりした食感と三温糖の優しい甘さが人気の「きりせんしょ」です。

北上市内「ハートフルショップまごころ」の売り場

「とばせ園」でつくられたお菓子は、「江釣子(えづりこ)ショッピングセンター・PAL(パル)」にある「ハートフルショップまごころ」など、北上市とその周辺のお店で購入できます。

とばせ園<Information>

  • 施設名称:とばせ園
  • 所在地:岩手県北上市二子町秋子沢214-5
  • 電話番号:0197-66-5050
  • URL:とばせ園 公式サイト

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ハートフルショップまごころ<Information>

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まとめ

ここまでご紹介したように、「きりせんしょ」は「これが標準」とご紹介できるものがなく、地域や個々の家庭でそれぞれの作り方と味が伝えられてきた手作りのお菓子です。

東北には「きりせんしょ」に似た「ゆべし」や「がんづき」などの素朴なお菓子が各地にあるので、旅行の際に立ち寄った先々でこれらを食べ比べてみてはいかがでしょうか。


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