男鹿半島西海岸の岩だらけの風景 ©男鹿なび

【秋田県・男鹿半島】古くからの伝説が語り継がれる西海岸の奇岩たち

男鹿半島の代表的な観光名所、ゴジラ岩大桟橋(だいさんきょう)などの奇岩の数々、その形も面白さが人気を呼んでいますが、これらは地球の歴史を目の当たりにできる貴重な岩なのです。ここではちょっと視点を変えて、奇岩ができている岩にスポットを当てて地球の息吹を感じてみようと思います。

男鹿半島西側の海岸線にはほとんど砂浜がありません。岩石海岸、磯などと呼ばれるゴツゴツとした岩だらけの海岸です。海岸にある岩はどれも何らかの不思議な形に見えます。

男鹿図屏風
江戸時代の始めに描かれたとされる左右二隻(そう=屏風の数え方)の屏風(びょうぶ)絵『男鹿図屏風』(作者不詳)の左隻。入道崎から戸賀湾・西海岸の中心部までが描かれている 所蔵:秋田県立博物館
男鹿図屏風
『男鹿図屏風』右隻。「大桟橋」から南端の潮瀬崎、南海岸が描かれている 所蔵:秋田県立博物館

『男鹿図屏風』にも描かれていますが、男鹿半島西側の海岸線にはほとんど砂浜がありません。しかも海岸にある岩はどれも何らかの不思議な形に見えます。


「日本の奇岩百景プラス」にも選ばれた17か所の奇岩

西海岸の「鹿落とし(ししおとし)」「鬼の俵ころがし」「鬼の隠れ道」「桜島」「大桟橋(だいさんきょう)」「舞台島」南海岸の「ガメラ岩」「ゴジラの尻尾岩」「ゴジラ岩」「双子岩」「帆掛島(ほかけじま)」「グリーンタフ」「ろうそく岩」「椿の白岩(つばきのしらいわ)」「鬼の洗濯岩」「小豆岩(あずきいわ)」、唯一山中にある「鬼の隠れ里」の17か所が日本の奇岩百景選定・編集委員会による「日本の奇岩百景プラス」に選定されています。「日本の奇岩百景プラス」には全国124の奇岩が選定されていますが、奇岩数では秋田県が第1位で、しかも秋田県では男鹿半島だけ。まさしく男鹿半島は日本一の奇岩天国なのです。

男鹿の島風
菅江真澄『男鹿の島風』に描かれた「大桟橋」(真澄は“大産橋”と書いている ©秋田県立博物館写本

ここでご紹介するのは西海岸にある代表的な奇岩です。江戸時代の紀行家菅江真澄(すがえますみ)も舟に乗って見学し、「大桟橋」などよほど印象に残ったのでしょう、詳細な図絵を残しています。


男鹿半島の代表的観光スポット入道崎にある「鬼の俵ころがし」

鬼の俵ころがし
ピンクぽい岩の間に米俵をころがしたような茶色い岩の道が挟まる「鬼の俵ころがし」 ©一般社団法人全国地質調査業協会連合会

「鬼の俵ころがし」は、入道崎から海岸沿いを少し南へ下った長久手岬にある奇岩です。ピンク色の岩が広がる岩場の真ん中を茶色っぽい道が海の方へ延びています。いかにも鬼が米俵を転がして運んだ跡のようです。

ピンク色の岩は約9,000万年前にマグマが地下深くでゆっくり冷やされて固まった花崗岩(かこうがん)で、男鹿半島で見つかっている最も古い岩石です。ピンク色の岩の上にある黒っぽい岩は約7,000万年前の火山角礫岩(かざんかくれきがん)といわれるマグマが急速に冷やされて小さな鋭く角張った岩に分解され、それがまたくっついて大きな塊になったもの。茶色い岩の道は約2,100万年前の玄武岩(げんぶがん)で、噴出したマグマが冷やされてできた岩石です。

「鬼の俵ころがし」では、日本列島がまだユーラシア大陸にあった頃の3時代にわたる岩石が1度に見られるという貴重な景観を目の当たりにできます。


石焼料理に使われている入道崎の「鹿落とし」の岩石

鹿落とし
多くなりすぎた鹿を追い落としたと伝わる急峻な岩の崖「鹿落とし」 ©一般社団法人全国地質調査業協会連合会

「鹿落とし」は入道崎海岸の東側にある断崖絶壁の岩場です。9,000万年前の花崗岩火山角礫岩溶結凝灰岩(ようけつぎょうかいがん)といった約7,000万年前の火山活動でできた岩石が含まれています。これらの岩石は緻密な構造をしていて硬いため、男鹿名物「石焼料理」に使われています。

石焼料理
石を真っ赤に焼き、鍋に投入して瞬時に沸騰させ、具材を煮込む名物「石焼料理」©旅東北

「鹿落とし」という呼び名は、かつて多くの鹿が生息していた男鹿で、増えすぎた鹿をこの崖から突き落としたからといわれています。

<鬼の俵ころがし・鹿落とし>INFORMATON

  • 施設名称:入道崎
  • 所在地:秋田県男鹿市北浦入道崎
  • 電話番号:0185-24-2100(男鹿市観光協会)
  • URL:入道崎
  • アクセス:
  • 鉄道/JR男鹿線男鹿駅からなまはげシャトルで約30分
  • 車/秋田自動車道昭和男鹿半島ICから約45分

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自然の力でできた石橋「大桟橋」

男鹿半島の西海岸南部、西海岸エリアと呼ばれる地域には、「大桟橋」「舞台島」と呼ばれるよく知られた奇岩があります。

大桟橋
波の浸食作用によってできた自然の石橋「大桟橋」(観光船から) ©一般社団法人全国地質調査業協会連合会

「大桟橋」は、波による長い間の浸食作用によって真ん中が通り抜けられるようになった石橋です。高さは10mあり、観光船もくぐり抜けることができます。今は陸続きになっていますが、江戸時代初期には海の中にあったとの記録(『男鹿図屏風』/秋田県指定文化財)があります。江戸時代の紀行家で、“男鹿の五風”と呼ばれる男鹿半島の紀行文(『男鹿の秋風』『男鹿の春風』『男鹿の鈴風』『男鹿の島風』『男鹿の寒風』)を残した菅江真澄も、『男鹿の島風』の中で大桟橋(菅江真澄の著書では“大産橋“)の絵図(えず/挿絵)を描いています。

男鹿図屏風
『男鹿図屏風』に描かれている「大桟橋」は、確かに陸から離れている。その後隆起して現在は陸続きに(『男鹿図屏風』の「大桟橋」部分を拡大) 所蔵:秋田県立博物館

「大桟橋」を形づくる岩は、門前層と呼ばれる3,600万年~2,900万年前に火山より噴出した玄武岩質スコリアが固まったもので、岩質自体がもろいため波の浸食作用によってくりぬかれたと考えられています。スコリアとは、マグマが上昇する際に急激に冷やされ、含まれていた揮発成分(主に水)が一気に気化し、多数の気泡を含むスカスカの岩片になって噴出したものです。軽石と同じですが、軽石は安山岩系が多く色が白いもの、一方玄武岩質スコリアは色が黒っぽいものとされています。


漢の武帝を歓迎する舞が行われていたとの伝説が残る天空の舞台「舞台島」

舞台島
海上から見た「舞台島」。何故こんな形になったのかどう考えても不思議 ©一般社団法人全国地質調査業協会連合会

「舞台島」は、島ではなく陸続きの断崖絶壁上に海に向かって舞台のようにそそり立つ巨大な岩で、海面からは60mの高さになっています。頂上部は平になっていて、“その昔、漢の武帝がこの地に降り立ったときに、巫女がこの上で舞った”との伝説があり、江戸時代にはすでに「舞台島」と呼ばれていました。遊覧船から「舞台島」を眺めるとまさしく“天空に浮かぶ舞台”のように見えます。

「舞台島」は「大桟橋」と同じ玄武岩質スコリアで形成されていて、もとは海中にありそれが隆起して陸続きになったといわれています。岩が海中にあったはじめの頃は、島のように頭部分を海上に出していました。それが波で削られて平面になり、隆起して現在のような形に収まったのです。3,600万年もかけて現在の形になった「舞台島」。地球が生きている証がここにあります。


西海岸の奇岩を海から堪能できる観光船

西海岸の奇岩めぐりは、門前漁港からの男鹿半島観光遊覧船西海岸クルーズだと、海上からの絶景を堪能できます。有名な「ゴジラ岩」も見られこれは絶対におすすめです。

<大桟橋・舞台島>INFORMATON

  • 施設名称:男鹿半島観光遊覧船
  • 所在地:秋田県男鹿市船川港本山門前祓川
  • 電話番号:0185-38-2050
  • 料金:西海岸周遊クルーズ おとな 2,500円 こども 1,250円
  • 運航期間:要問い合わせ(冬季休業)
  • URL:男鹿遊覧透視船
  • アクセス:
  • 鉄道/JR男鹿線男鹿駅からタクシーで約30分、男鹿駅近くにレンタカーあり
  • 車/秋田自動車道昭和男鹿半島ICから約70分

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西海岸の奇岩をご紹介しましたがいかがでしたか。地球が創り出した造形は、芸術的でもあり本当に面白いですね。男鹿半島には西海岸以外にも南端には「ゴジラ岩」などある潮瀬崎、南海岸の“秋田のウユニ塩湖”鵜ノ崎海岸や「グリーンタフ」といわれる地質学上重要な館山崎など、まだまだ奇岩、ビューポントがいっぱいあります。入道崎方面には温泉もあり、さらにナマハゲを見学できる「なまはげ館・男鹿真山伝承館」、絶品料理の「焼石料理」など、魅力がいっぱい。ゆっくり、のんびり旅してみませんか。

南海岸のスポットは別項で紹介しています。そちらも是非参考にしてください。

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