
果たして実現するのか?奥羽・羽越新幹線
東北地方を通っている代表的な新幹線といえばやはり、東京駅と新青森駅を結ぶ「東北新幹線」でしょうか。
東北新幹線と在来線を直通(ミニ新幹線方式といいます)して、東京駅と山形駅・新庄駅を結ぶ「山形新幹線」や、東京駅と秋田駅を結ぶ「秋田新幹線」も、東北地方のアクセス向上に大きな役割を果たしています。
東北新幹線と直通運転している「北海道新幹線」は、現在は新青森駅から北海道の新函館北斗駅までの路線ですが、将来は札幌駅まで延伸する予定です。延伸後は、東北地方と北海道の間のアクセスに大きな変化をもたらすでしょう。
ところで「奥羽(おうう)新幹線」や「羽越(うえつ)新幹線」はご存知でしょうか?これらの新幹線は、現在の日本の鉄道路線図や地図には全く存在しません。今のところ、建設するべきだ、という計画だけが存在する新幹線なのです。
そんな新幹線に現実味があるの? と思うかもしれません。しかし、少なくとも1973年の時点では今後の日本に必要だと国が考えていた路線であり、何のよりどころもない荒唐無稽な計画ではないのです。
奥羽新幹線とは?
奥羽新幹線は、福島県福島市から、山形県山形市付近を経由して、秋田県秋田市までを結ぶ新幹線の計画路線につけられている名称です。
現在、福島市から秋田市までの間には、福島駅・山形駅・新庄駅・秋田駅を経由して、最終的に青森駅に至る奥羽本線が通っています。
奥羽新幹線が実現するならば、福島駅を起点、秋田駅を終点として、奥羽本線に概ね並行する路線になると考えられます。
また、奥羽新幹線の列車は、南側では福島駅で折り返すのではなく、東北新幹線に乗り入れて東京駅を目指すことになる(現在、山形新幹線の「つばさ」がしているのと同じように)でしょう。
なお、奥羽本線の福島駅~新庄駅間には山形新幹線の「つばさ」が走っていて、大曲駅~秋田駅間には秋田新幹線の「こまち」が走っています。しかしながら、奥羽新幹線は山形・秋田新幹線とは基本的には別物の計画です。最高時速130kmの在来線を走行する区間がある山形・秋田新幹線と異なり、奥羽新幹線は列車が時速200km以上の高速で走れる路線になることが期待されてきました。
奥羽新幹線が実現すれば、東京~米沢間が1時間30分程度、東京~山形間が1時間40分程度、東京~新庄間が2時間30分程度で結ばれると試算されています。現在の「つばさ」はそれぞれ、2時間10分程度、2時間45分程度、3時間半程度かかっているので、時間短縮効果があることは間違いありません。
また、東京駅~秋田駅間についても、停車駅を絞った列車を奥羽新幹線に走らせることで、2時間半程度で結ばれると試算されています。現在は秋田新幹線の「こまち」で4時間程かかるので、秋田と東京がかなり近くなる印象です。
山形駅~秋田駅間の移動に、奥羽本線経由で現状約3時間半かかっているところが40分程度にまで短縮されることも、東北地方内の交通の革新という点で重要でしょう。
仮に奥羽新幹線が実現すれば、秋田県と山形県にも、ミニ新幹線ではない新幹線が通ることになり、既に東北新幹線が通っている青森・岩手・宮城・福島の各県と合わせて、東北地方の6県全てが新幹線網に組み込まれます。
羽越新幹線とは?
羽越新幹線は、富山県富山市から、新潟県新潟市付近・秋田県秋田市付近を経由して青森県青森市までを結ぶ新幹線の計画路線につけられている名称です。
計画段階の路線なので、駅がどこに設置されるのかは正式に決まっていませんが、富山市の駅とは富山駅、青森市の駅は新青森駅になると考えられています。また、富山駅から長野県の上越妙高駅までは、既に開業している北陸新幹線の線路を通り、新潟県の長岡駅から新潟駅までは、同じく既に開業している上越新幹線の線路を通るものと想定されています。したがって、羽越新幹線を実現するのであれば、上越妙高駅から長岡駅までと、新潟駅から新青森駅までの区間に、新たに新幹線の線路を敷設する必要があります。
新潟駅から新青森駅までの新線区間は、新潟駅から秋田駅までは、在来線の白新線と羽越本線と並行するようなルートとなり、秋田駅から新青森駅までは、奥羽本線に並行するようなルートが想定されるでしょう。
新潟駅から上越新幹線に乗り入れれば、東北地方の日本海側の駅と、東京駅などの首都圏の駅との間を、従来よりも短時間で移動できるようになります。東京~酒田間の所要時間が約2時間40分になると見込まれています。現在は上越新幹線の「とき」と、白新線・羽越本線の特急「いなほ」を乗り継いで4時間から4時間半程度かかっているので、かなりの時短効果があります。
秋田駅と新青森駅の間の所要時間は50分程度と試算されています。現在の特急「スーパーつがる」は2時間半程度かかっていますが、半分未満の所要時間になるのです。
また、北陸新幹線に乗り入れて石川県の金沢駅や、福井県の敦賀駅、新大阪駅(延伸開業していることが前提)まで直通運転することや、あるいは新青森駅から北海道新幹線に乗り入れて新函館北斗駅や札幌駅(同上)まで直通することも、可能性としてはありえます。
そもそも基本計画路線とは?
奥羽新幹線や羽越新幹線のような、現在計画だけが存在する新幹線の路線は「基本計画路線」と呼ばれています。基本計画路線とは、今から55年以上前の1970年6月に施行された「全国新幹線鉄道整備法」、略称:全幹法(ぜんかんほう)に基づいて、計画が定められた路線です。
全幹法が定められた背景には、1964年10月に開業した東海道新幹線(東京駅~新大阪駅)が、事前の想定以上の大成功を収めたことがあります。新幹線の恩恵を全国に広めることを目的として、全幹法が作られたのです。なお、全幹法が施行された当時、東海道新幹線は既述の通り開業していて、山陽新幹線(新大阪駅~博多駅)は建設中でした。
全幹法に基づき、翌1971年1月18日の運輸省(※)告示第17号および、1972年7月3日の運輸省告示第242号で、東北新幹線・上越新幹線・成田新幹線の3路線が「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として、下の表1の通り告示されました。新たな路線が日本の新幹線網に加わることになったのです。
※運輸省:現在の国土交通省の前身の1つ
表1 1971年から運輸省によって告示された路線
| 路線名 | 起点 | 終点 | 主要な経過地 |
| 東北新幹線 | 東京都 | 青森市 | 宇都宮市付近、仙台市付近、盛岡市 |
| 上越新幹線 | 東京都 | 新潟市 | |
| 成田新幹線 | 東京都 | 成田市(千葉県) |
表1の路線は、着工したものの建設が凍結された成田新幹線以外は、既に開業しています。
ただし、東北新幹線については、盛岡市(盛岡駅)~青森市(新青森駅)の建設が盛岡駅以南よりも後回しにされました。
盛岡駅以北の区間は、この後の表2で登場する路線と合わせて「整備新幹線」と呼ばれています。
続いて1972年7月3日の運輸省告示第243号、12月12日の運輸省告示第466号および1973年11月15日の運輸省告示第465号によって、下の表2の通り、4つの路線の基本計画が告示されています。
表2 1972年から運輸省によって告示された路線
| 路線名 | 起点 | 終点 | 主要な経過地 |
| 北海道新幹線 | 青森市 | 旭川市(北海道) | 函館市付近、札幌市 |
| 北陸新幹線 | 東京都 | 大阪市 | 長野市付近、富山市付近 |
| 九州新幹線(鹿児島ルート) | 福岡市 | 鹿児島市 | |
| 九州新幹線(長崎ルート)※ | 福岡市 | 長崎市 |
表2の4路線(ただし北海道新幹線の札幌市~旭川市間を除く)と、東北新幹線の内の盛岡駅~新青森駅間は、1973年中に整備計画が定められました。まとめて「整備新幹線」と呼ばれます。
整備新幹線も大部分の建設・開業が済んでいますが、北海道新幹線の新函館北斗駅~札幌駅間が建設中、北陸新幹線の敦賀駅(福井県)~新大阪駅間と西九州新幹線の新鳥栖駅~武雄温泉駅(いずれも佐賀県)間が未着工です。また、北海道新幹線の札幌市~旭川市間の整備計画は現在未策定なので、整備新幹線区間ではありません。
1973年11月15日の運輸省告示第466号では表3の11路線が基本計画路線として位置付けられました。現在の「基本計画路線」とは、表3の11路線と、北海道新幹線の札幌市~旭川市間の総称なのです。この基本計画路線に含まれているのが奥羽新幹線と羽越新幹線です。
表3 1973年に運輸省によって告示された基本計画路線
| 路線名 | 起点 | 終点 | 主要な経過地 |
| 北海道南回り新幹線 | 北海道山越郡長万部町 | 札幌市 | 室蘭市付近 |
| 羽越新幹線 | 富山市 | 青森市 | 新潟市付近、秋田市付近 |
| 奥羽新幹線 | 福島市 | 秋田市 | 山形市付近 |
| 中央新幹線(建設中) | 東京都 | 大阪市 | 甲府市付近、名古屋市付近、奈良市付近 |
| 北陸・中京新幹線 | 敦賀市(福井県) | 名古屋市 | |
| 山陰新幹線 | 大阪市 | 下関市(山口県) | 鳥取市付近、松江市付近 |
| 中国横断新幹線 | 岡山市 | 松江市 | |
| 四国新幹線 | 大阪市 | 大分市 | 徳島市付近、高松市付近、松山市付近 |
| 四国横断新幹線 | 岡山市 | 高知市 | |
| 東九州新幹線 | 福岡市 | 鹿児島市 | 大分市付近、宮崎市付近 |
| 九州横断新幹線 | 大分市 | 熊本市 |
基本計画路線は、中央新幹線のみ2011年に整備計画が決まりました。最高時速500kmで走る超電導リニアモーターカーを採用する新幹線として、建設が進められています。
しかし、中央新幹線以外の路線については、基本計画の告示から50年以上経った現在も具体的な整備計画はなく、実現のめどは立っていません。
表1~表3などで示した内容が視覚的にわかりやすいようにまとめられている図を国土交通省が作成しているので、引用します。図の中で白線で表されているのが基本計画路線(中央新幹線のみ茶色の線で表示)です。白線の路線が全て実現した社会はなかなか想像がつきませんが、少なくとも1970年代の運輸省の告示した計画では、そのような世の中になることを想定していたことになります。
奥羽・羽越新幹線が実現するのかは不透明
奥羽新幹線・羽越新幹線は果たして実現するのでしょうか?
既に説明したように、奥羽・羽越新幹線に現在整備計画はありません。実現に向けて前進するためには、整備計画が決められること、つまり北海道新幹線などと同格の、整備新幹線に格上げされることが必要でしょう。
しかし、現在の整備新幹線も、1973年に整備計画が定められていながら、50年以上経った今でも未開業・未着工の区間が存在する状態です。この状態で、基本計画路線が整備新幹線に格上げされることがあるとは思えません(中央新幹線が建設されることになったのは例外中の例外です)。奥羽・羽越新幹線の整備計画が定められることがあるとしても、それは少なくとも整備新幹線の未着工区間の着工後、あるいは開業後になることでしょう。
特に北陸新幹線の未着工区間は、着工してから開業まで30年近くかかると見込まれています。仮に既存の整備新幹線の全線開業を待たなければならないのであれば、奥羽・羽越新幹線などの基本計画路線に順番が回ってくるのは相当先のことになってしまうのです。
どうにか基本計画路線に順番が回ってきたとしても、奥羽・羽越新幹線の整備計画が具体化するかは不透明です。新幹線の建設には多大な費用がかかり、開業後の運行や維持についても同様です。沿線の人口が少なく、開業しても旅客からの運輸収入では到底路線を維持できないと考えられれば、建設されることはないでしょう。
仮に奥羽・羽越新幹線が実現するとしても、課題はあります。並行在来線の問題です。
整備新幹線が開業するときには、新幹線に並行して走っていたJRの路線は、大部分が別の会社に経営移管されるか、あるいは廃線になりました。新幹線の開業に伴って旅客が新幹線に転移することに伴い、並行する在来線は経営が悪化します。JRはそのような在来線を手放すことが認められています。JRにとってあまりに都合のよい話に思えるかもしれませんが、JRの前身にあたる国鉄の経営が破綻したことへの反省などから、経営分離できるというルールが定められているのです。
並行在来線の経営が別の会社に移管される場合は、地元の自治体や沿線の民間企業などが出資して設立される第三セクター方式の会社によって運営されることになり、地元自治体などに費用負担が発生します。
奥羽新幹線が建設される場合は奥羽本線の福島駅~秋田駅間が並行在来線となり、羽越新幹線が建設される場合は白新線・羽越本線・奥羽本線の秋田駅~新青森駅間が並行在来線とみなされると思われます。
そして、これらの路線の現在の輸送状況や、普通列車(新幹線が開業すれば特急列車の利用者が新幹線に転移するので、特急列車は消滅します)の運行本数から考えると、大部分の並行在来線はJRから経営分離されることでしょう。筆者の予想では「新潟駅から村上駅(新潟県)まではJR線として存続する」可能性が3割、「新潟駅から新青森駅までの全区間が経営分離される」可能性が7割といったところです。並行在来線問題が避けて通れないということになります。
部分的に実現する可能性はある?
奥羽・羽越新幹線を建設しないという決定は今のところされていないものの、実現に向けた明るい材料がないのも確かです。また、詳細は割愛しますが、2025年6月には当時の石破内閣が発表した、いわゆる「骨太の方針」に、基本計画路線を新幹線(時速200km以上で走行できる鉄道)として建設することにはこだわらないとほのめかす表現が盛り込まれました。
参考:(「(石破内閣は)新幹線一辺倒の路線から政策転換をしたことを意味します」という解説が記されている)
ご存知のように石破内閣は既に退陣しているので、今後別の方針が示される可能性はゼロではありません。しかし、少なくとも「基本計画路線は全区間新幹線とするべきだ」と、あえて提唱する内閣が今後登場するとは思えません。奥羽・羽越新幹線を、1973年の運輸省の告示通りに整備するのは、相当ハードルが高くなったと思います。
ただし「部分的に」ならば可能性はあります。
現在の山形新幹線「つばさ」は、福島県と山形県の県境に横たわる「板谷峠(いたやとうげ)」を通っています。
板谷峠は昔から難所として知られており、現在の山形新幹線も、JR東日本の路線の中で一番の急な勾配を越え、自然環境に起因するトラブルにも見舞われがら走っています。山形新幹線の雨、雪、動物との衝突などによる列車の運休や遅延の内、実に4割は板谷峠を含む福島駅~米沢駅間で発生しているのです。
そこで、およそ23kmもの長大トンネルを掘って、板谷峠の難所を解消することが検討されています。トンネルには米沢トンネルという仮称がつけられています。トンネル工事にはおよそ19年の工期と2,300億円の事業費が見込まれていますが、「つばさ」の峠越えの所要時間が10分強短縮されることと、列車運行の安定性向上が見込まれます。
「つばさ」は福島駅~新庄駅間の奥羽本線区間では、最高速度が時速130kmに抑えられていますが、東北新幹線内では時速300km(最新型のE8系の場合)で走る車両が使用されています。福島駅~新庄駅間であっても、高速で走れる線路さえ用意すれば高速走行が可能なはずなのです。そこで「つばさ」が高速で通過できるように、米沢トンネルを時速200km以上の高速走行が可能な仕様で整備する構想が唱えられています。米沢トンネルが建設されて、トンネル内での高速走行が実現すれば、奥羽新幹線が部分的に実現したといえます(法律的な観点で奥羽新幹線と定義できるかどうかは別として)。
山形県や沿線自治体、経済界などによって構成された「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」は、米沢トンネルの建設を奥羽新幹線の先行整備と捉えて、奥羽新幹線の早期の実現につなげていきたい考えです。
奥羽新幹線の全区間の建設にまで至らなくても、米沢トンネルの建設のような、山形新幹線の部分的な機能強化を重ねれば、結果として所要時間が短縮されて、奥羽新幹線の建設による恩恵を、部分的に得られるようになる可能性はあるでしょう。




























