
【岩手県】盛岡の喫茶店文化をたどる「古き良き喫茶店」6選
目次
静かなる喫茶の都・盛岡へ
盛岡の街を歩いていると、駅前の賑わいを少し離れただけで、どこか懐かしさを感じる静かな喫茶店に出会うことがあります。深い色合いの木の扉を押すと、ネルドリップの香りがふわりと広がり、カウンターの奥で黙々と豆を挽くマスターがいるー。昭和のまま時が止まったような空間は、旅人にとっても地元の人にとっても特別な安らぎを与えてくれます。
なぜ盛岡には、こうした「古き良き喫茶店」が今も多く残っているのでしょう。その背景には、北国の気候や文化、そして文学や芸術と深く結びついた歴史がありました。
喫茶文化のはじまりと街の背景
盛岡に本格的な喫茶店が増えたのは昭和30〜40年代。まだカフェチェーンが存在しなかった時代です。岩手大学の学生や若者が議論を交わし、新聞記者が原稿用紙を広げ、地元の作家がインスピレーションを探す―。そんな「知のサロン」として喫茶店は機能していました。
ちなみに、盛岡市民が1年間に飲むコーヒーの量は全国でも上位。その背景には寒さの厳しい北国ならではの「体を温めながら語り合う文化」が根底にあると思われます。盛岡の人々にとって、コーヒーは単なる嗜好品ではなく、街の血流そのものなのです。
名喫茶をめぐる
盛岡を代表する喫茶店はいくつもありますが、そのなかからいくつか紹介しましょう。
光原社 可否館

宮沢賢治が『注文の多い料理店』を刊行した光原社の敷地内にある喫茶室。漆喰の壁、重厚な家具、ネルドリップで淹れられたコーヒーは、まるで文学の香りそのものです。椅子やテーブルは地元職人の手仕事。観光客は「物語の一部に迷い込んだようだ」と驚くでしょう。
Information
- 名称:光原社 可否館
- 所在地:〒岩手県盛岡市材木町2−18
- 電話番号:019-622-2894
- URL:光原社本店
- 営業時間:10:00 ~18:00 (土曜のみ~17:30)
- 定休日:毎月15日(土日祭日の場合翌平日に振替)
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茶廊 車門

クラシカルなランプが灯り、落ち着いた音楽が流れる老舗喫茶。学生時代に通ったという盛岡出身のアーティストも多く、静謐な空気は「創作のための空間」として長年愛されてきました。
Information
- 名称:茶廊 車門
- 所在地:岩手県盛岡市肴町5−7
- 電話番号:0196515562
- 営業時間:11:00〜19:00
- 定休日:不定
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喫茶 ふかくさ

隠れ家のような小さな喫茶店。ネルドリップの一杯は思わず長居したくなる味わいです。シンガーソングライター斉藤和義氏も盛岡での滞在時に訪れることで知られ、音楽好きの間では密かな聖地。
Information
- 名称:喫茶 ふかくさ
- 所在地:岩手県盛岡市紺屋町1−2
- 営業時間:12:00〜18:00
- 定休日:不定休
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カプチーノ詩季

その名の通り、カプチーノの泡にまでこだわる小さなカフェ。店内の壁には詩やアートが飾られ、訪れる人は自然と静かに時間を楽しむ雰囲気に包まれます。地元の学生や若手クリエイターもよく足を運ぶ、文化の交差点的存在です。
Information
- 名称:カプチーノ 詩季
- 所在地:岩手県盛岡市盛岡駅前通10−6
- 営業時間:9:00〜19:30
- 定休日:月曜
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クラムボン

1980年創業の老舗カフェ「クラムボン」は、盛岡の喫茶文化を語るうえで欠かせない存在です。店内は、レトロな雰囲気と温かみのあるインテリアが調和し、訪れる人々に落ち着いた時間を提供。地元の人々にとっては、長年通い続けている「心の拠り所」として親しまれています。
Information
- 名称:クラムボン
- 所在地:岩手県盛岡市紺屋町5−33
- 営業時間:10:00〜16:00
- 定休日:水曜・木曜・日曜
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ティーハウス リーベ

「ティーハウスリーベ」は、1971年に開店した盛岡で最初の紅茶専門店。店内は全席ボックス席で統一され、落ち着いた色調と英国風のインテリアが、ゆったりとした時間を演出します。

紅茶はストレートからアレンジティーまで30種類以上が楽しめるほか、コーヒーやジュース、パフェやホットケーキ、モーニングやランチセットなどの軽食も充実。とくに「ティーパンチ」は、10種類以上のフルーツを華やかに盛り付けた一品で、訪れる人々に人気です。
Information
- 名称:ティーハウス リーベ
- 所在地: 岩手県盛岡市内丸5−3
- 営業時間:7:30〜19:00
- 定休日:不定
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文学に息づく喫茶店
盛岡の喫茶店は、文学や映画の世界にもたびたび顔を出しています。
- 宮沢賢治と喫茶店
学生時代、賢治は盛岡市内のカフェに足繁く通い、友人と文学や音楽を語り合ったと伝えられています。のちに光原社の可否館がその象徴的な存在となり、文学と喫茶の文化を結びつけています。 - 森荘已池(詩人・随筆家)
盛岡出身の文学者で、『賢治とコーヒー』では宮沢賢治の喫茶店通いを綴っています。文学と喫茶は、この街では切り離せない存在なのです。
若い世代と「レトロ喫茶」の再接続
いま、Z世代や若い旅行者のあいだで「レトロ喫茶」が再び注目を集めています。インスタグラムには、盛岡のクリームソーダや昭和のままの内装を写した写真が並びます。
彼らがそこに見出しているのは単なる「映え」だけではありません。効率優先の時代にあって、喫茶店の「余白」や「ゆっくりした時間」に惹かれているのかもしれませんね。
一杯のコーヒーがくれるもの
盛岡の喫茶店は、観光地として派手に脚光を浴びる場所ではありません。けれど、そこには長く続く日常文化と、人々の記憶が息づいています。
隣の席に座った人と話さなくても、同じ空気を共有できる。大切な一冊を開いたまま、ただコーヒーを味わう。そんな体験ができるのは、盛岡という街が今も「喫茶の文化」を守り続けているからです。
旅人にとって、喫茶店はただの休憩場所ではありません。時代を超えて流れる時間に触れる「小さな窓」。盛岡を訪れたなら、ぜひ一度、街角の扉を押してみてください。






















