東北六県の酒蔵を訪問!廣く多くの人々に喜ばれる酒「廣喜」、南部杜氏発祥の里の紫波酒造店【岩手県紫波町】

南部杜氏発祥の里として知られる紫波町には現在5軒の酒蔵があります。

そのうちの1軒、明治36年(1903年)創業の紫波酒造店は、かつては創業者名の「廣田酒造店」と名乗っていた生産量が五百石ほどの小さな酒蔵です。

現在は「廣喜(ひろき)」と「紫宙(しそら)」という2つの銘柄を醸しています。

岩手の酒米と東根山の伏流水で醸されるお酒はお米の旨みが活かされ、地元でもファンの多い地酒です。


日本三大杜氏集団の「南部杜氏」

南部杜氏伝承館
紫波町の隣、花巻市石鳥谷(いしどりや)の道の駅にある南部杜氏伝承館

江戸時代初期、紫波町周辺で南部流酒造りを南部藩領内に広めた杜氏集団で、越後杜氏、但馬杜氏と並ぶ日本三大杜氏の一つです。

米の旨味を活かした芳醇で柔らかい酒造りが特徴で、今は「南部杜氏協会」が男女の区別なく技術研修や後継者育成を行っています。

かつて男性限定だった酒蔵には女性杜氏が誕生していて、紫波酒造の小野裕美杜氏は南部杜氏初の女性杜氏です。


昔ながらの酒蔵の雰囲気を味わえる紫波酒造の蔵見学

田んぼの中に建つ紫波酒造店の全景

紫波酒造店では、日曜日と年末年始とお盆期間中などを除いて、酒蔵内の無料見学を受け付けています。

「一麹(いちこうじ)二酛(にもと)三造り(さんつくり)」と言われる、日本酒造りの理解が深まる20分ほどのコースです。

紫波酒造店
奥の黄色いのれんが酒蔵への入り口

見学は事前に予約をしますが、その際に「当日の朝に納豆を食べてこないように」との注意があります。

これは納豆菌の繁殖力が強力であり、酒造りに必要な菌が負けるためで、見学前には注意が必要です。

紫波酒造店
古民家のような酒蔵の中は清潔に保たれている

とくに冬の酒造り期間中は、仕込みの様子を間近に見ることができるのでおすすめです。

美味しい日本酒ができるまで

紫波酒造店
磨かれて洗米を待つ酒米

日本酒造りの特徴はアルコール発酵(糖をアルコールに変える)と同時に、糖化(でんぷんを糖に分解する)が行われることです。

これは「並行複発酵」と呼ばれ、他の醸造酒には見られない醸造法で、高度に訓練された技術、経験、知識が必要とされています。

日本酒は次に挙げる工程で醸されます。

  • 収穫された酒造好適米(酒米)を磨いて精米する
  • 磨かれたお米を洗米して米ぬかを落として水分を吸収させる
  • 酒米を蒸して麹(こうじ)菌を植えて、米麹を育てる(製麹)
  • 米麹・蒸米・水を混ぜて酒母(酛:もと)を造り酵母菌を増やす
  • 麹・蒸米・水を足しながら「もろみ」を造る
  • 「もろみ」を搾り、加熱殺菌して瓶詰する
紫波酒造店
きれいに手入れされている洗米機

最も大切な作業とされる「麹」造り

紫波酒造店
紫波酒造店の麹室は厳重に管理されていて見学では入ることができない

麹は蒸米デンプンをブドウ糖に変えるために、麹菌の胞子を蒸米に振りかけて発芽させ、増殖させることを破精(はぜ)と呼びます。

米粒の内部まで破精込ませるため、米粒に酸素を行きわたらせる「切り返し」や「盛り」といった作業を2日間休みなく行います。

麹室(こうじむろ)は麹の温度を40~43℃に保ち湿度を与えるために蒸し暑く過酷で、その中で手間のかかる大変な作業です。

こちらも大切な作業のひとつ「酒母」造り

紫波酒造店
小さなタンクで酒母を育成中
紫波酒造店
酒母やもろみを攪拌する際に使う「櫂棒(かいぼう)」

酒母とは蒸米・水に麹と酵母菌を加えて、麹菌が作った糖をアルコールに変える酵母菌を大量に培養したものです。

日本酒造りには良質の酵母が大量に必要であり、それを培養するので「酛(もと)」と呼ばれ、文字どおり「酒の母」となります。

日本酒造りの基本「三段仕込み」

紫波酒造店
仕込み中のタンクの中では元気な酵母菌がたくさんの泡を出しながらアルコールを造り出している

酒母(もと)に麹、蒸し米、水を発酵用のタンクに加えたものが「もろみ」で、三段階に分けて投入する「三段仕込み」が行われます。

紫波酒造店
お酒の種類によっては厳重な温度管理が必要となる(こちらはシソラのスパークリング)

一日目に投入されるもろみは「初添え(はつぞえ)」と呼ばれ、翌日までそのまま手を加えず、時間をかけて酵母を増やします。

紫波酒造店
タンクに記されている温度の記録を見ると、酒造りでの温度管理の重要性がわかる

三日目に「仲添え(なかぞえ)」と呼ばれる二回目の仕込みが行われ、四日目に三回目となる最後の「留沿え(とめぞえ」が行われます。

紫波酒造店
タンク内は次から次へと「プツプツ」と音を立てて泡ができ、芳香を放っている

「三段仕込み」は雑菌の繁殖を抑えながら酵母のを増やし、もろみが発酵するための温度管理をしやすくする、昔ながらの知恵による方法です。

上槽・ろ過・加熱・貯蔵・瓶詰め

現在使用している圧搾機

20日ほどで「もろみ」は発酵を終え、圧搾機で酒と酒粕に分けられ、搾りたての新酒はろ過されて火入れ(加熱殺菌)したうえで貯蔵されます。

紫波酒造店
こちらは昔ながらの圧搾機、手間がかかり人手が必要だがこれで絞られたお酒はより美味しいとのこと

醸し終えてから一切加熱処理をしないお酒を「生酒」と呼び、製成後に加熱処理せず貯蔵され、出荷の際に加熱処理するお酒を「生貯蔵酒」と呼びます。


紫波酒造が醸した、おすすめの2本をご紹介!

紫波酒造店
酒蔵の直売所で購入した搾りたての廣喜と紫宙

紫波酒造には「廣喜(ひろき)」と「紫宙(しそら)」の2つの銘柄がありますが、その違いは酒母(酛)の作り方にあって、「廣喜」は乳酸菌を自然に増やす「山廃」、「紫宙」は乳酸を足す「即醸」で作られています。

「山廃」は雑菌の繁殖を防ぐ乳酸菌を増やす方法で、時間がかかるものの複雑な味わいとコクが生まれ、乳酸を加えて雑菌を抑える「即醸」は、10~14日で酒母が出来てすっきりした淡麗な味わいになるそうです。

紫宙 純米吟醸 はやぶさ

紫宙 純米吟醸 はやぶさ

アルコール度数は15度で、55%精米の岩手県産の「ぎんおとめ」が使われています。

出荷前夜の深夜に搾られてから朝に瓶詰され、新酒の時期だけ販売される限定販売酒で、フレッシュで華やかな香りがあり、水あめのような甘さがあって、スッキリした味わいでスルッと飲める新酒です。

栓を開けてすぐはリンゴの風味と乳酸菌飲料の後味を感じますが、時間が経つと酸味が少し前面に出てきて、米のコクが感じられるようになります。

廣喜 純米吟醸 別誂え しぼりたて

廣喜 純米吟醸 別誂え しぼりたて

こちらもアルコール度数15度ですが、55%精米の名酒米「山田錦」で作られています。

栓を開けるとフレッシュな吟醸香が立ち上がり、口に含むと米の旨味が感じられ、「やはぶさ」と同じくこちらもこの時期ならではの逸品です。

華やかな香りと深みのある甘さにほど良い酸味のバランスが良い純米吟醸です。

紫波酒造店 <Information>

  • 施設名称:紫波酒造店
  • 所在地:岩手県紫波郡紫波町宮手泉屋敷2-4
  • 電話番号:019-681-7084
  • 営業時間:9:00~17:00
  • 定休日:日曜
  • URL:紫波酒造店 公式サイト

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まとめ

紫波酒造は田んぼの中にポツンと佇む、ひと時代前の造り酒蔵にタイムスリップしたかのような風情が感じられる酒蔵です。

仕込み中の蔵に漂う芳香によって呑みたい欲求が高まり、直売所で思わず「廣喜」と「紫宙」を1本ずつ購入して予算オーバーでしたが、その味わいは大満足でした。


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