長い青竹を持った2組の軍団が五穀豊穣を祈って激突する「六郷のカマクラ」

秋田県の行事「かまくら」というと、横手市で開催される、雪で作ったドームの中でこどもたちが中心となって、お餅やおしるこ、お茶などをいただく、とてもほのぼのとした「横手のかまくら」を思い浮かべる方が多いと思います。

一方で、大きな火柱をあげるたき火をはさんで、二手に分かれた人々が長い青竹の棒でつつきあう行事も「かまくら」と呼ばれています。

六郷のカマクラ
松鳰が燃え盛る最終日の「六郷のカマクラ」。この夜<天筆焼き>と<竹うち>が行われる ©旅東北

[かまくら]という祭りの本来の姿を残す「六郷のカマクラ」

六郷のカマクラ」と呼ばれるこの勇壮な「かまくら」は、美郷町(みさとちょう)で700年も前から行われている小正月の伝統行事です。「横手のかまくら」も、古くは今よりももっと宗教的な行事やしきたりがあったようなのですが、今では雪のドームだけが残る、観光的要素の強い形となりました。

「六郷のカマクラ」は、4日間ほどかけて<竹うち>や<天筆焼き>といったメインの行事に向けて、昔のしきたりに則って準備をします。

ここでは横手のような雪のドームは作られませんが、5日間の行事全体を「かまくら」と呼んでいるのです。これが「かまくら」という行事本来の形と考えられていて、『六郷のカマクラ行事』として国の重要無形民俗文化財に指定されています。

六郷で行われる「かまくら」の正式名称は「六郷のカマクラ」ですが、美郷町商工観光交流課によると、「カマクラ」とカタカナ書きされる理由は、1982年(昭和57年)に国指定重要無形民俗文化財になった時、その指定名称が“六郷のカマクラ行事”と表記されたため、以降カタカナを正式名称としたとのことです。

江戸時代には“鎌倉”と文献に登場したり、明治時代以降は“かまくら”と書かれたりしていました。


小正月の行事「六郷のカマクラ」|2026年は2月10日から14日に開催

竹うち
毎年2月中旬の土曜日が<竹うち>。2026年は2月14日(土)だ ©美郷町

「六郷のカマクラ」は“正月が終わったよ、さあ働きましょう”という区切りの行事として小正月(こしょうがつ)の5 日間にわたり開催されます。現在は2月の中旬の土曜日に最終日の<竹うち>が来るように日程が組まれています。2026年は2月14日(土)の開催です。

旧暦では1月1日は“新月の日“と決まっていて、現在(太陽暦)の暦のように固定された日ではありませんでした。

そのため旧暦の1月1日を今の暦にあてはめると、1月下旬から2月中旬のいずれかの日(その間の新月に日)になります。中国の旧暦の正月を祝う国慶節の日付が毎年変わるのはそのためです。

日本の場合は、新暦と旧暦の関係をそれほど厳密に考えることはしないことが多く、旧暦の1月1日を2月1日と固定して、小正月は2月15日前後としています(現在の1月1日から数えて2週間後の、1月15日前後を小正月として開催される行事もあります)。

「六郷のカマクラ」に話を戻しましょう。


「六郷のカマクラ」の開催期間は5日間。2026年は2月10日から2月14日

初日は<蔵開き>です。江戸時代には、正月休みに入っている地主は蔵を閉じてしまい、米は集落に出回りませんでした。小正月に入りようやく蔵を開け、米を放出したのです。この<蔵開き>が、「かまくら」の始まりを告げる合図でした。一般的には“鏡開き”という風習がこれに当たります。


「六郷のカマクラ」の重要な行事<天筆>。空に舞う無数の天筆は小正月の風物詩

天筆
長い青竹の先につるされた<天筆>。この天筆が最終日に松鳰で燃やされる ©美郷町

初日にもうひとつの重要な行事が始まります。<天筆書初め(てんぴつかきぞめ)>で、緑、黄、赤、白、青(この色順番を[みぎあしあお]といいます)の順に専用の色紙を縦につなぎ合わせた天筆に、願い事を書き込みます。天筆1本の長さは人によって違うのですがだいたい3~5m。その中に書き込む文面は概ね決まっていて、自分の願い事も書き入れます。

天筆
みぎあしあおの順に縦につながった天筆に願い事を書き込む ©美郷町

天筆>には、次の文字を書き込みます。

「奉納 鎌倉大明神 天筆和合楽 地福円満楽 〇〇〇〇楽 新玉の年の始めに筆とりて よろずの宝かくぞあつむる 卯年正月吉日 氏名□□□□ 敬白」(自分の願いを〇〇〇〇楽と書きます)


「かまくら」行事だけに登場する神様、鎌倉大明神って誰?

この天筆に書く文言の中に“鎌倉大明神”の名が見えます。このほとんど聞いたことのない神様、一体誰なのでしょう。

鎌倉大明神
雪室(鳥追い小屋)の中央に祀られる鎌倉大明神 ©美郷町

鎌倉大明神は、平安時代後期に勃発した後三年合戦(後三年の役/1083年~1087年)で活躍したと伝わる鎌倉権五郎景政(かまくらごんごろうかげまさ/生没不詳)のことを指しています。

鎌倉権五郎景政は相模国鎌倉郷(神奈川県鎌倉市)から、後三年合戦の主役のひとり源義家(みなもとのよしいえ/1039年~1106年)に従ってやってきた武士です。弱冠16歳でありながら、敵の矢を右目に受けながらも果敢に戦ったとの逸話が残っています。

確かに鎌倉権五郎景政は勇敢な武将ですが、それほどの英雄でも偉人でもありません。それが「六郷のカマクラ」のみならず、秋田県に伝わる(伝わっていた)多くのかまくら行事の神様として祀られているのです。

もしかすると伝承以外の功績を残した人物なのかもしれませんが、今となっては知るよしもありません。


<天筆>は3日間町に掲揚され、最終日に集められ盛大に燃やされる

鳥追い小屋
ドーム型ではなく、屋根に竹垣などで覆いをかぶせた「鳥追い小屋」 ©美郷町

鎌倉大明神は、各町内にこどもたちが暖をとりながら遊び場となる雪室に、氏神様として祀られています。雪室は<鳥追い小屋>といって、本来は畑を荒らす害鳥を追い払うことが由来の“鳥追い”という行事のために造られたもので、「横手のかまくら」のような全部を雪で囲ってドーム型にするものではありません。

四角く雪の壁で囲い、屋根部分は補強をしてむしろや竹垣などで覆います。<鳥追い小屋>の近くに<雪宮>という雪室を造っている集落もあるのですが、<雪宮>は、数十年前から造られるようになったもので、本来の行事にはなかったものです。

<天筆>は、書き終えると7~8mほどある竹の棒の先に結ばれ、屋外に立てられます。

天筆掲揚>は2日目から始まり、最終日の<天筆焼き>に備えます。その間町には市などが立ち活気づきます。沿道に掲揚されたたくさんの天筆が風になびく様子は「六郷のカマクラ」の風物詩となっています。


最終日の夜は<天筆焼き>と<竹うち>で一気に盛り上がる

カマクラ畑
<竹うち>と<天筆焼き>が行われる「カマクラ畑」 ©美郷町

「六郷のカマクラ」は、豊作や集落の繁栄、家内安全などを祈る“年ごい”と、凶作や不幸を除去する“悪魔払い”、そしてその年の吉凶を占う“年占い”の3つの祈願祭が一体となった行事です。

<天筆>は“年ごい”、<鳥追い>が“悪魔払い”ですが、最終日に行われる<竹うち>は、まさしく“年占い”。いい年になるように人々は必死に戦うのです。


“ボヘェ、ボヘェ”と木貝の音が響き渡り、いよいよ<天筆焼き><竹うち>が始まる

<竹うち>は最終日の午後8時頃から始まります。最終日の昼間はその準備です。

<竹うち>が行われるのは町の広場、“カマクラ畑”で、その中心部に掲げられていた天筆や注連縄(しめなわ)、松飾りなどの正月飾りが集められ、2つの山が作られます。

この山を松鳰(まつにお)といい、2つの松鳰の間に注連縄が張られ準備が整います。その後餅つきなども行われ、夕刻になると、町に“ボヘェ、ボヘェ”というホラ貝のような音が響き渡ります。これは桶をつないだような木でできた長めの楽器、木貝(きがい)を吹いて鳴らす音で、六郷の酒造りから発祥したともいわれています。

ホラ貝のように吹かれる木貝。ボヘェという独特な音色が祭りを盛り上げる ©美郷町

このボヘェが合図となり、<竹うち>の出陣式が行われ、7~8mほどもある長い青竹を担いだ各町内の男衆が、カマクラ畑目指して行進します。


<竹うち>は3回戦勝負。第3戦は高くあがる<天筆焼き>の炎をはさんだ戦いに

カマクラ畑に集合した男衆は、松鳰をはさんで南北に別れて、戦いの合図を待ちます。

けたたましいサイレンの音で<竹うち>第1回戦が始まります。<竹うち>は3回戦勝負です。すさまじい勢いで竹を打ち合う間、竹の当たる音や観衆の応援、ひっきりなしに鳴り響く木貝の音などが混じり合い、騒然とした雰囲気の中1回戦が終わります。その間5分くらい。1回戦が終了すると少しの休憩が入り、続いて2回戦へ。この時点では勝敗は付きません。

天筆焼き
2回戦目が終わると松鳰に火が入り<天筆焼き>が始まる。これが最終戦の合図となる ©アキタファン

2回戦が終わると<天筆焼き>が始まります。<天筆焼き>は、2つ作られた松鳰に火をつけて、今年はよい年になりますようにと祈りながら人々が天筆をくべていく行事です。

松鳰からは何メートルもの火柱があがり、辺り一面真っ赤に染まる中、いよいよ勝負の決まる第3回戦の<竹うち>が始まりす。松鳰をはさんだ熾烈な戦いはクライマックスを迎え、興奮はピークに。<竹うち>で使われる青竹は1,000本以上といわれ、竹がなくなった頃戦いは終わります。

最後は勝負審判の「カマクラ保存会」が判定します。北軍が勝てば豊作、南軍が勝てば米の値段があがるのだそうです。

六郷のカマクラ Information

  • 行事名:六郷のカマクラ行事
  • 文化財指定:国指定重要無形民俗文化財
  • 所在地:秋田県仙北郡美郷町六郷字本道町115 竹うち会場(カマクラ畑)
  • 問い合わせ先:六郷カマクラ行事継承会 事務局(名水市場湧太郎内)
  • 電話番号:0187-84-0020
  • 開催日:最終日が2月中旬の土曜日になる5日間
  • 2026年は2月10日(火)~2月14日(土)
  • 日程:
    • 1日目/蔵開き・天筆書初め
    • 2日目~/小正月市、天筆揚揚
    • 3日目/鳥追い行事
    • 4日目/餅つきなどの町内行事
    • 最終日/20:00頃~=<竹うち><天筆焼き>
  • URL:六郷のカマクラ
  • アクセス:
    • 公共交通機関/秋田新幹線・JR奥羽本線・田沢湖線大曲より六郷・横手方面行き路線バスで約20分、六郷上町バス停下車徒歩約5分
    • 車/秋田自動車道大曲ICから約15分

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