陸奥国の黄金伝説｜日本初の産金地といわれる涌谷町の黄金山産金遺跡【宮城県】

奈良時代の天平21年（749年）、陸奥国から朝廷に砂金が献上されたことが、正史『続日本紀』に記録されています。この献上の産金地とされるのが、宮城県遠田郡涌谷町にある黄金山産金遺跡です。

この記事では、『続日本紀』の記述と遺跡調査の成果をもとに、黄金山産金遺跡が日本の産金史においてどのように位置づけられるのか、またその歴史が現代にどのように継承されているのかを紹介します。

国内産として初めて朝廷に献上された陸奥国の砂金

奈良時代中期、日本では仏堂や仏像に金を施す文化が広がりつつありましたが、当時の金は主に大陸からの輸入に頼っていました。

国内で安定した産金地が把握されていなかったため、「国産の金の確保」は朝廷にとって重要な課題とされていたとのこと。そんな中、天平21年（749年）2月。陸奥国（現在の東北地方）から朝廷に砂金献上の報告が届きます。

『続日本紀』には次のように記されています。

陸奥国始貢黄金九百両

ここに記される「九百両」は、現在の重量換算でおよそ13kg前後。

献上された金は東大寺大仏（盧舎那仏）の鍍金（金メッキ加工）に充てられたと伝えられ、これを契機として元号は「天平」から初の四文字元号となる「天平感宝」に改元されました。

「天平感宝」は3か月程度という極めて短期間で役目を終え、同年中に「天平勝宝」と再度改元されたため元年しか存在しません。これは国内初の産金に神仏への感謝を表した一時的な改元であった為と考えられます。

この砂金献上を行った人物は、当時の東北経営と産金政策において中心的役割を果たしたと伝えられている陸奥守百済王敬福（くだらのこにきし・けいふく）です。

百済王敬福はかつて朝鮮・百済の王族の末裔とされる人物で、東北の地で鉱脈を発見し都へ報告したと伝えられています。異国の血を引く官人が日本の“黄金時代”を切り開いたという史実も、この物語をより壮大にしています。

黄金山産金遺跡に眠る産金と信仰の痕跡

この、日本初の献上金の産地とされるのが、宮城県遠田郡涌谷町の黄金山産金遺跡です（国指定史跡）。標高約200mの丘陵地で、周囲には砂金を含むとされる沢が流れており、その一つは「黄金沢」と呼ばれています。

黄金山では、これまでに複数回の発掘調査が行われています。その結果、奈良時代に属する建物跡、瓦片、そして「天平」と刻まれた瓦が確認されました。

また、山中には人工的に手が加えられたとみられる水路跡も見つかっています。これらの遺構から、この地では産金が一時的な採取ではなく、ある程度組織的に行われていた可能性が示されています。

黄金山産金遺跡＜Information＞

• 名　　称：黄金山産金遺跡
• 住　　所：宮城県遠田郡涌谷町涌谷
• 電話番号：ー
• 公式URL：涌谷町公式HP – 指定文化財〈史跡〉黄金山産金遺跡

Google Map

丘陵頂上付近に鎮座する黄金山神社

丘陵地の頂上付近に鎮座する黄金山神社の創建時期の詳細については断定できませんが、この地での産金を神仏に感謝する念から建立された仏堂であろうと推定されています。

更にこのことをきっかけとして、黄金山神社は当時の官社（国の保護下にあった神社）一覧表である『延喜式神名帳』に「延喜式内社」として名を連ねました。

黄金山神社（涌谷）＜Information＞

• 名　　称：黄金山神社（涌谷）
• 住　　所：〒987-0121 宮城県遠田郡涌谷町涌谷黄金宮前２３
• 電話番号：0229-42-2619
• 公式URL：黄金山神社公式HP

Google Map

現代に残る“砂金体験”という継承

朝廷に砂金献上されてから約1300年の時を経た今、涌谷町では黄金の歴史を地域の文化として守り続けています。

町の中心部にある「わくや万葉の里 天平ろまん館」では、通年で砂金採り体験ができます。採れる砂金は少量ながら、実際に「揺すり分離」を行うことで、当時の作業工程を体験することができます。

館内には当時の出土品やパネル展示があり、金の採掘工程や歴史的背景を学ぶこともできます。金箔をあしらったスイーツやお守りなども販売され、“見る・学ぶ・味わう”が揃った空間を楽しむことができます。

天平ろまん館＜Information＞

• 名　　称：わくや万葉の里 天平ろまん館
• 住　　所：宮城県遠田郡涌谷町涌谷黄金山1−3
• 電話番号：0229-43-2100
• 公式URL：わくや万葉の里 天平ろまん館

Google Map

東北に受け継がれた「金」の文化展開

涌谷で奈良時代に産金が行われたことは、東北が金を産する地域であるという認識が成立した初期の事例とされています。この認識は時代をこえて受け継がれ、後の文化にも影響を与えました。

平安末期に奥州藤原氏が平泉で中尊寺金色堂を建立した際、堂内外に金が用いられています。

東北ろっけん雑学メディア NEFT

【岩手県】奥州藤原氏三代の寺院として有名な世界遺産「中尊寺」

https://jp.neft.asia/archives/74

岩手県西磐井郡平泉町にある中尊寺（ちゅうそんじ）は天台宗東北大本山の寺院です。奥州三十三観音番外札所になっており、山号は関山（かんざん）、本尊は釈迦如来。慈覚大師円仁による開山といわれる中尊寺中尊寺に伝わる歴史によると850年に慈覚大師円仁が関山弘台寿院を開創したのが始まりとされています。しかし、慈覚大師円仁の開山を裏付ける確かな史料や発掘調査結果は現在のところ発見されておらず、実質的には12世紀初頭、奥州藤原氏の初代・藤原清衡（ふじわらのきよひら）が釈迦如来と多宝如来を安置するために大規模な堂塔...

続きを読む

金色堂に使用された金が涌谷産であることを示す記録は確認されていませんが、文化庁が「日本遺産 みちのくGOLD浪漫」の中で示すように、東北は金の産地であるという地域的理解が、この黄金文化を支える前提として存在していたと考えられます。

東北の産金史をたどる手がかりとして

「黄金山産金遺跡」では奈良時代に行われた産金の痕跡を地形や遺構として確認できます。「わくや万葉の里 天平ろまん館」では出土資料の展示と砂金採り体験があり、産金の工程を学ぶことができます。

両方を見て回ることで記録に残る産金の内容を地形と作業の流れとして理解することができます。実際に訪れ、千年を超えて伝わる「金のはじまり」を確かめてみるのも面白いかもしれません。

【出典一覧】

• 文化庁｜日本遺産「みちのくGOLD浪漫」
• 宮城県教育委員会｜国指定史跡 黄金山産金遺跡
• 涌谷町公式サイト｜黄金山産金遺跡（日本初の産金地）

Ryoko

美味しいものと歴史が好きなフリーライター。東北の町と人をめぐる旅がライフワーク。