延命地蔵尊

アニメ『ざつ旅-That’s Journey-』第9旅で描かれた青森県の旅【青森県】

2025年4月から6月まで『ざつ旅-That’s Journey-』というテレビアニメが放送されていました。

漫画家になりたい女子大生の主人公・鈴ヶ森ちかが、行き当たりばったりの旅(雑な旅)をしながら見聞を深めていく物語です。

第9旅(第9話)「温泉で完成して、初日の出」の前半の旅先は青森県となっています。本記事では、旅の内容と、登場する交通機関等を紹介します。

第1旅「はじめの1225段」に関する記事はこちらです。

第2旅「伊達じゃない! きときとふたり旅」の前半に関する記事はこちらです。

アニメの公式サイトはこちら。


まずは東北新幹線で新青森駅へ

青森県の八甲田山へ旅立つことにしたちかは、まず東京駅から新青森駅まで、東北新幹線で「約3時間半」かけて移動します。

E5系電車
東北新幹線で運行されているE5系電車

東京駅から新青森駅まで直通する新幹線の列車は「はやぶさ」のみです。

「はやぶさ」は途中の停車駅が列車によって異なります。そのため東京駅から新青森駅までの所要時間は、短ければ2時間58分、長ければ3時間23分(2025年9月時点)と結構変わってきます(これを「約3時間半」と表現するのは若干「ざつ」な気がします)。

新幹線に乗車するために必要なきっぷの購入方法については第1旅の記事で簡単に紹介しているので、参考にしてみてください。なお「はやぶさ」は全車指定席で、自由席がないのでご注意ください。

東北新幹線は新青森駅が終点ですが、線路は引き続き北海道新幹線につながっています。北海道新幹線は新青森駅から北海道北斗市にある新函館北斗駅までの路線です。

北海道の道南地方からも、新幹線に乗れば新青森駅にアクセスできます。

新青森駅
新青森駅

なお、新青森駅は青森市内にはありますが、新幹線の玄関口という意味合いの大きい駅であり、青森市の中心市街地にある駅ではありません。青森市の中心の駅と呼べるのは青森駅です。新青森駅からは、奥羽本線の列車に乗って1駅移動する必要があります。

新青森駅と青森駅との1区間だけの乗車に限り、特急料金を支払わなくても特急列車の自由席に乗車できます。同様に、全車指定席の快速列車にも、指定席券を購入せずに乗れます。

青森駅には、JR奥羽本線の普通列車や、秋田駅と青森駅を結ぶ特急「つがる」「スーパーつがる」に加えて、青森県・秋田県の日本海沿岸を通る五能線の快速列車「リゾートしらかみ」とか、津軽半島を走る津軽線の列車、青森県の太平洋側を通る青い森鉄道線の列車なども乗り入れています。青森市の拠点となる駅というだけあって、青森県の各地からアクセスが可能なのです。

新幹線以外の公共交通機関を使って遠方から青森市までアクセスするのなら、高速バスや飛行機を使うことになるでしょう。

市内には青森空港があり、東京(羽田)、大阪(伊丹)、名古屋(小牧)、札幌(新千歳)、神戸からの直行便が出ています。

余談ですが、韓国のソウル(仁川)、台湾の台北(桃園)からの国際線も就航しています。青森空港から青森駅までは、空港連絡バスで約35分です。(青森空港の連絡バスは津軽地方の弘前バスターミナルへも運行されており、こちらの所要時間は約55分です)

高速バスについては東京駅、上野駅、バスタ新宿、横浜駅YCAT、仙台駅、盛岡駅などから、青森駅行きの高速バスが運行されています。


バスで八甲田ロープウェー駅へ

新青森駅に到着したちかは、バスに乗って八甲田山のロープウェー駅に向かいます。

アニメではまるで新幹線のような塗色のバスが登場していますが、バスを運行しているジェイアール東北バスの車両の中には、東北新幹線で使用されているE5系電車のようなカラーリングのバスが実在します。

ジェイアールバス東北が運行するE5系カラーのバス
ジェイアールバス東北が運行するE5系カラーのバス
Mutimaro – Mutimaro本人が十和田湖駅で撮影 (Pictured by Mutimaro,at Towadako station), CC 表示-継承 3.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15101345による

十和田湖行きのバス「みずうみ号」の新青森駅前から八甲田ロープウェー駅前までの所要時間は、夏季で約60分、冬季で約80分です。

また、バスの始発の停留所は新青森駅ではなく青森駅にあるので、例えば青森駅の近くで宿泊した場合には、わざわざ新青森駅まで列車で移動しなくてもバスに乗れます。

バスの便数は少ないので注意が必要です。

2025年9月時点での時刻表によると、青森駅発・十和田湖行きの「みずうみ号」は、午前中の3便しかありません。特に新青森駅に停車する便は1日1便、新青森駅前を11時50分発、ロープウェー駅前に12時52分着の「みずうみ6号」しかないです。

ちなみに、新青森駅に停車しない2号と4号については、東京駅から朝一番の新幹線(東京駅を6時32分発、新青森駅に9時49分に到着するはやぶさ1号)に乗っても間に合わない時刻設定となっています(だから新青森駅に停車しないのだと思われます)。

11月中旬頃から3月または4月頃までの冬季は、バスの時刻表が変わります。

八甲田ロープウェー山麓駅
八甲田ロープウェー山麓駅

八甲田ロープウェーは、八甲田山の田茂萢岳(たもやちだけ)を登るロープウェーです。山麓駅から山頂公園駅までを、約10分で結んでいます。

運転間隔は15分~20分となっているので、タイミングが悪いと所要時間よりも待ち時間の方が長くなることもあるでしょう。

風速が25m/s以上の時や荒天の時は運休となります。筆者がこの記事を書いていた9月3日は、まさに強風のため運休していました。

11月上旬には機械整備や点検のための運休があります。また、ペット同伴での乗車はできません。

Information<八甲田ロープウェー>

  • 名称 八甲田ロープウェー(山麓駅)
  • 所在地 青森県青森市荒川寒水沢1-12
  • 運行時刻 9時~16時20分(3月~11月上旬)、9時~15時40分(11月中旬~2月)
  • 運休 風速25m/s以上の時、荒天時、11月上旬
  • TEL 017-738-0343
  • 公式サイト 八甲田ロープウェー

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八甲田山とは?

八甲田山

八甲田山とは青森県中央部に位置する火山群のことです。八甲田山という名前の(単独の)山があるわけではありません。

かつては上野駅と青森駅を結ぶ「八甲田」という急行列車や、青森駅と函館駅を結ぶ青函連絡船の1隻として「八甲田丸」という船があったことからもうかがえるように、東北地方を代表するような山岳地帯です。

(急行八甲田などの、かつて走っていた上野発・青森行き夜行列車については下記の記事をご覧ください)

(八甲田丸などのかつての青函連絡船については下記の記事をご覧ください)

世界有数の豪雪地帯でもあり、冬はスキーヤーにも人気があります。

ちかが訪れた11月ぐらいから、冷え込みが厳しくなります。作中でも描かれているような天候の急変に注意しましょう。

1902年に起きた、青森の歩兵第五連隊が八甲田山で雪中行軍の演習をしていた際に遭難してしまった事件は、小説、映画にもなっており有名です。


谷地温泉へ

ロープウェーの山麓駅に戻ってきたちかは、谷地(やち)温泉へ向かいます。ところで、バスで向かおうとすると問題が起きます。谷地温泉までの移動手段も、ロープウェー駅まで移動するときに乗車した、青森駅発・十和田湖行きのバス「みずうみ号」なのです。

既に説明したように「みずうみ号」は1日3便しかなく、特に新青森駅から乗車できるのは最終の「みずうみ6号」だけです。つまり、東京から新幹線で出てきたその日の内に、八甲田山のロープウェーに乗って、さらにバスで谷地温泉へ行くことは不可能

原作の漫画(2021年の旅という設定)では谷地温泉までの移動手段がバスでしたが、アニメでは現状が反映されたのか「旅館の送迎車に拾ってもらって」に変更されています。所要時間は原作・アニメ共に約20分で変わっておりません。

なお、谷地温泉の送迎車は、本来は青森駅および新青森駅への送迎を行っているものです。新青森駅から谷地温泉へ向かう途中の送迎車にピックアップしてもらったということだと思われますが、そのような乗り方をするのであれば、当然事前に依頼しておく必要があるでしょう。

また、本来の乗り場である青森駅等から利用する場合も、7日前までに予約が必要とのことです。送迎車は1日1便なので、出発時刻(青森駅発13時30分、新青森駅発13時45分)に合わせてスケジュールを組む必要があります。

ちなみに冬季は谷地温泉へのアクセス手段が変わります

青森駅・新青森駅と十和田湖を結ぶバスは、途中の道路が閉鎖されることから酸ヶ湯(すかゆ)温泉止まりになり、谷地温泉へバスでは行けなくなります。送迎車に関しても、青森駅や新青森駅ではなく、八戸駅への送迎になります。


谷地温泉とは?

谷地温泉は八甲田山麓にある約400年の歴史を持つ秘湯で、日本三秘湯の1つとされています。残る2つは北海道のニセコ薬師温泉、徳島県の祖谷(いや)温泉ですが、ニセコ薬師温泉は旅館が2014年に閉鎖されました。

作中で描かれているように、38℃のぬるい「下の湯(しものゆ)」と、42℃の熱い「上の湯(かみのゆ)」という、2つの湯が楽しめます。

下の湯は、浴槽の底から温泉が自噴している「足元自噴」の湯であることが特徴。腰痛やアトピーに効果があると言われています。上の湯は白濁しており、温度のみならず泉質も下の湯とは異なっています。

また、こちらも作中で描かれていますが、八甲田の天然水で育った岩魚(イワナ)を使った料理が名物料理です。

Information<谷地温泉>

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青い森鉄道線とJR大湊線で下北駅へ

旅館滞在中に下北半島の恐山(おそれざん)に行くことを決めたちかは、翌朝旅館の送迎車で青森駅へ。

出発が9時45分で、90分ほどかかるはずなので、青森駅到着は11時15分頃でしょうか。

青い森鉄道の青い森701系電車

青森駅からは、青い森鉄道線の電車に乗って、下北半島の付け根辺りにある野辺地(のへじ)駅へ。

11時15分に青森駅に着いたとすると、次の電車は12時ちょうど発、12時44分野辺地着です。青森駅で45分ほど待つことになりますけれども、地方の鉄道とはこのようなものです。

大湊線を走るキハ100形気動車

野辺地駅からは13時ちょうど発のJR大湊線の列車に乗れます。終点の大湊駅の1駅手前にある、むつ市の下北駅で下車、13時56分着です。下北駅は、終点の大湊駅よりも北にあり、本州の駅の中では最北の場所にあります。

大湊線の列車は、臨時列車を除けば1日9往復です。野辺地駅を13時ちょうどに出発する列車の次は16時ちょうど発といった具合なので、計画を立てて乗る必要があるでしょう。

なお原作およびアニメでは「電車とバスで谷地温泉から約3時間」と記されていますが、大湊線の列車は軽油を燃料にして走るディーゼルカーであり、電車ではないです。

また、表記は「バス」音声は「旅館の送迎車」と、若干情報がちぐはぐになっています。とはいえ旅館の方でも「無料送迎バス」という言い方もしているようです。


恐山へ

下北半島を訪れたちかの目的地は恐山(おそれざん)でしたが、恐山は11月から4月まで閉山してしまい、バスも運行されなくなります。

閉山していても仮開山がされていることがあり、ちかはタクシーで仮開山している恐山を訪れていましたが、実際の仮開山は主にGW前半にあたる4月の終わりに行われるようです。作中で描かれた11月初頭の仮開山に、過度の期待はしない方がよいでしょう。

5月から10月までの開山期間中は下北交通による路線バスの恐山線が運行されています。下北駅前からの所要時間は35分~43分です。

このバスも、1日あたり多くても5便しかないので要注意。また、運賃の支払いにICカードが使えないのも注意点といえるでしょう。

恐山冷水

恐山への道のりの途中には、恐山冷水(ひやみず)という、冷たい湧水が出ている場所があります。参拝前の手水舎として機能してきた、お清めの場所です(アニメには登場しませんが、原作の漫画で紹介されていました)。

路線バスは近くの冷水停留所でしばらく停車して、ここで下車しない乗客にも水に触れる時間を設けてくれるとのことです。また、タクシーの場合も、運転手さんによってはやはりこの場所を教えてくれるとのこと。

Google Map<恐山冷水>


恐山とは?

恐山は西暦862年に慈覚大師円仁(じかくだいし・えんにん)によって開かれた霊場です。

円仁が彫刻した1体の地蔵「延命地蔵菩薩」を本尊としています。7月20日から24日は「恐山大祭」、10月上旬の連休には「恐山秋詣り」が行われます。

京都府・滋賀県にある比叡山、和歌山県の高野山と共に、日本三大霊山といわれています。

延命地蔵尊
延命地蔵尊

なお、恐山という名前の山があるわけではありません(八甲田山と同じですね)。

8つの山々に囲まれた宇曽利湖(うそりこ)があり、宇曽利湖の湖畔に沿う形で「霊場恐山 恐山菩提寺」があります。参拝するには入山料(大人700円)が必要です。

死者の魂が集まる場所、あの世に近い場所とされています。

ちかも言及していたように、現実に現れた異世界とでも形容できそうな光景が見られ、死者の魂が集まる場所と呼ばれてきたことにも納得できるでしょう。

境内には4つの温小屋(男湯、女湯、男女入れ替え制、混浴)があり、参拝者は自由に温泉へ入浴できます。お湯はいずれも硫黄泉です。

(余談ですが、アニメの公式サイトでは、ちかが恐山を訪れたことについてなぜか一切触れられていません)

Information<恐山>

  • 名称 恐山(事務所)
  • 所在地 青森県むつ市大字田名部字宇曽利山3-2
  • 営業時刻 6時~18時(5月1日から10月31日まで)
  • 閉山期間 11月1日~翌年4月30日
  • TEL 0175-22-3825
  • Webサイト 恐山霊場/恐山菩提寺

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おわりに

バスの便数が少ない、駅での待ち時間が長いといった記述もありましたが、それでもこのアニメで描かれている旅は、自家用車やレンタカーを使わなくても十分にできるということが、調査をしていてよくわかります(なお、原作にはバイクやレンタカーを使って旅をするエピソードもあります)。

また、谷地温泉も恐山も、交通が便利なところにあるとは言い難いですが、前者は秘湯、後者は霊場です。行きづらい場所にあるからこそ得られる体験があるのだと感じられます。


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