【宮城県】日本初の「地下鉄道」だった仙石線

東京都を走る地下鉄銀座線は、日本初の「地下鉄」として有名です(アジア初という言い方をされることもあります)。
銀座線が、本格的な地下を走る路線の中では日本初の路線であることに疑問はありませんが、実は「旅客の乗る列車が地下を走った」のは銀座線が日本初ではありません。
その日本初の路線とは、宮城県を走っているJR仙石(せんせき)線、より正確に言えばその前身である「宮城電気鉄道」なのです。


JR仙石線とは?

JR仙石線は、宮城県仙台市青葉区のあおば通駅から、石巻(いしのまき)市の石巻駅までの49.0kmを結ぶJR東日本の路線です。
あおば通駅の1駅隣の仙台駅は、東北地方最大の都市である仙台市を代表する駅です。
仙石線」という路線名は、仙台と石巻を結ぶ路線であることからつけられています。

仙石線は仙台市の東側の通勤通学輸送を担っているほか、仙台市と多賀城市・塩竈市・松島町・石巻市といった沿線自治体との間の都市間輸送、松島などの観光地への輸送の役割もあわせもっています。
JR東日本が公表している2023年度の1日1kmあたりの利用者(平均通過人員)は、あおば通駅~東塩釜駅間で39,625人、東塩釜駅~石巻駅間で7,371人、あおば通駅~石巻駅の全区間では18,693人となっています。
首都圏を通っていないJR東日本の路線」の中では平均通過人員が最大であることが、仙石線の特徴の1つです。

松島の遊覧船

仙石線の生い立ち

仙石線が誕生したのは1925年(大正14年)の6月のことです。
開業時点ではJRの前身である国鉄の路線ではなく、私鉄の「宮城電気鉄道」の手によって開業した路線でした。
最初に開業したのは仙台駅から西塩釜駅までの区間で、その後順次延伸していき、1928年に石巻駅までの全線が開通しました。

宮城電気鉄道の起点は仙台駅(宮電仙台駅)でしたが、仙台駅よりも西側にある県庁付近への延伸を見据えていました。
そこで宮電仙台駅から東七番町駅という駅までの区間は、国鉄東北本線との平面交差を避けながら西側に延伸できるように、地下を通っていました
(後ほどもう一度説明しますが、この地下を走る区間は現存していません)。
日本の鉄道の歴史の中で、旅客が乗る営業列車が地下を走るのは、この路線が初めてでした。
「日本初の地下鉄」と言われる東京の地下鉄銀座線(当時は「東京地下鉄道」)が浅草駅から上野駅までの区間で開通したのは1927年の年末のことで、宮城電気鉄道の開業よりも2年半も後だったのです。

地下で開業した宮電仙台駅 出典:Wikipedia
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10423036による

戦時中の1944年に、宮城電気鉄道の路線は国によって買収され、国有鉄道の仙石線となりました。
沿線に工場や飛行場といった軍事目的の施設が点在していたことが、国有化された理由だと考えられます。

国鉄そして後にJRの路線となった仙石線ですが、誕生当時は私鉄だった痕跡が今でも残っています。
電車が走行するための電源を供給できるようにする「電化」を、私鉄では直流の電気で行うことが一般的です。
一方、東北地方の電化されているJR線は、戦後に交流で電化された路線がほとんどです。
ところが、仙石線は東北地方のJR線の中では唯一の直流電化路線です。
これは仙石線が私鉄として開業したその時から直流電化されていたからに他なりません。

戦後の1952年に、仙台駅の西側の地下にあった仙石線の仙台駅ホームは、仙台駅東側の地上に移されました。
これに伴い日本初の地下鉄道区間は廃止され、過去の存在となりました。


再び地下へ

1952年に地上に移された仙台駅付近の区間でしたが、地上を走るために踏切が存在するので、道路の交通渋滞が問題になっていきました。
そこで仙石線の仙台駅付近の区間(宮城野区にある苦竹駅よりも西側の区間)は再び地下を通すことが決まり、1985年に起工式が行われ、15年後の2000年に地下の線路が開通しました。
この工事では、ただ仙石線の線路を地下に潜らせただけでなく、経路の短縮と、仙台駅より西側に新設されたあおば通駅までの延伸が行われたのです。


仙石東北ラインの運行開始

宮城県の太平洋沿岸を走る路線であることから、仙石線は2011年に発生した東日本大震災で大きな被害を受けました。
特に高城町駅~陸前小野駅間の復旧には時間がかかり、線路の高台や内陸への移設といった工事を経て、震災から4年以上が経過した2015年5月30日に、仙石線の全線で列車の運転が再開されたのです。

震災遺構として保存されている東松島市の旧・野蒜(のびる)駅プラットホーム

また、この全線運転再開時に同時に運行が開始されたのが「仙石東北ライン」です。
仙石東北ラインの列車は、仙台駅から松島駅までJR東北本線を走行し、松島駅からは東北本線と仙石線の線路をつなぐ連絡線を通って仙石線に移り、高城町駅から石巻駅まで仙石線を走行します。
仙台駅からしばらく仙石線ではなく東北本線を経由することによって、仙石線を経由するよりも列車が高速で走行できるので、仙台駅から高城町駅および以遠の駅までの所要時間が短縮されました。
また、仙石東北ラインの列車は仙台駅の地下の仙石線ホームではなく地上の東北本線ホームを発着するので、仙台駅での乗降が便利だという利点もあります。

なお、東北本線は交流電化、仙石線は直流電化と、電車用の電源が異なっています。
そのため、仙石東北ラインの列車には、電化方式と無関係に運行できるHB-E210系ハイブリッド気動車(自車に搭載されたディーゼル発電機およびバッテリーからの電力で走行する車両)が使用されています。

仙石東北ラインに投入されているHB-E210系ハイブリッド気動車

また、HB-E300系を使用した「だてSATONO」という臨時列車が、仙石東北ライン経由で運行されることもあります。
主に磐越西線で運行されている観光列車の「SATONO」についてはこちらの記事をご覧ください。


マンガッタンライナー

仙石線では2003年から「マンガッタンライナー」というラッピング列車が運行されています。
これは著名な漫画家の故・石ノ森章太郎さんが、生前石巻市の中瀬地域に縁があり、ここに「石ノ森萬画館」が所在することにちなんでいる列車です。
なお「マンガッタン」は、中瀬地域が川の中州にあり、アメリカのニューヨークにあるマンハッタンと似た立地であることから、石ノ森先生が直々に考えた言葉です。

最新のマンガッタンライナーは2022年に登場した4代目で、仙石東北ラインに投入されているHB-E210系の内2編成にラッピングが施されています。
毎週日曜日には、マンガッタンライナーに乗って石巻駅で降りると、記念となる乗車証明書が配布されるサービスを、石ノ森萬画館が実施しています(※2024年12月時点の情報です)。

また、仙石線の列車(仙台駅から石巻駅までの全区間で仙石線を経由する列車)に投入されている205系電車も、4両編成2本がラッピングされています。

仙石線に投入されている205系電車(左は仙石線マンガッタンライナーII)

Information

  • 施設名称:石ノ森萬画館
  • 所在地:宮城県石巻市中瀬2-7
  • 営業時刻:9:00~17:00
  • 休館日:火曜日
  • 問い合わせ番号:0225-96-5055
  • URL:石ノ森萬画館

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まとめ

仙石線が宮城電気鉄道として開業した当時の地下区間は、既に現存しないことから知名度は低いものの、日本で初めての旅客営業列車が地下を走った区間でした。
また、仙台都市圏の通勤・通学客をはじめとして今日も多くの旅客を輸送しており、旅客の減少に悩む東北地方の鉄道の中では異彩を放つ路線です。
今後も宮城県太平洋沿岸の交通網には欠かせない存在であり続けていくことでしょう。


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