火伏せの虎舞

火伏せの虎舞|強風と火事から町を守る願いが込められた伝統芸能【宮城県】

「屋根の上に虎?」そんな驚きの光景が見られるのが、宮城県加美郡加美町で毎年4月29日に開催される「初午まつり」

主役は黄色と黒の縞模様に身を包んだ“虎”で、この虎舞には約650年の歴史と、地域を火災から守るための切実な願いが込められてます。

今回はそんな加美町中新田の伝統芸能「火伏せの虎舞(ひぶせのとらまい)」の紹介です。


初午と稲荷信仰のつながり

初午(はつうま)とは、2月最初の「午の日」に稲荷大神が稲荷山(現在の伏見稲荷大社)に降臨したとされる日で、 五穀豊穣・商売繁盛・家内安全などを祈る行事として日本各地の稲荷神社で祭りが行われます。

多川稲荷神社と「火伏せの虎舞 発祥の地」の碑
多川稲荷神社と「火伏せの虎舞 発祥の地」の碑

火伏せの虎舞 発祥の地とされる加美町中新田の「多川稲荷神社(たがわいなりじんじゃ)もそのひとつで、当初は他の稲荷神社と同様に2月の初午まつりで虎舞が奉納されていましたが、現在はまつりの開催が毎年4月29日に変更され、舞の奉納が行われます。


火伏せの虎舞の起源と文化財指定

加美町(旧中新田町)周辺は奥羽山脈の東麓に位置し、冬から春にかけて日本海側から吹く西風が「乾燥した暖かい風」となって山を越えて吹き下ろす「山越えの風(フェーン現象)」の影響を受けやすい地形をしています。

このことからこの地では、約650年前の奥州探題 大崎氏の治世の頃から春先の強風による大火が頻発しており、当時の人々は「雲は龍に従い、風は虎に従う」という中国の故事に習い、虎を舞わせることで風を鎮め火災を防ごうと考えました。

こうして虎の装いで舞を舞う「火伏せの虎舞」が始まったと言われています。

初午まつりの山車
初午まつりの山車

前述した「初午まつりの開催が4月に変更された」というのも、早春の強風が吹き始め、火災が多くなる時期に火伏せの行事を行うことで、住民の防火意識を高揚させる狙いがあったのかもしれませんね。

地域の歴史を象徴する芸能として文化的価値を評価され、1974年(昭和49年)には「中新田の虎舞」として宮城県の無形民俗文化財に指定、 さらに2006年(平成18年)には、国の「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」にも選定されています。

初午まつりの人出
初午まつりの人出

地域のお祭りと侮るなかれ、当日は写真のように非常にたくさんの祭客で賑わい、メイン通りである花楽小路(からくこうじ)はまともに前に進むことができないほどです。


実際の虎舞披露の様子

初午まつりは、花楽小路(からくこうじ)を中心に開催されていて、当日は多くの出店が通りに立ち並びます。

町内の至る所で披露される虎舞ですが、なかでも見逃せないのが祭典本部が設置されている「寅や」の屋根の上で披露されるものです。

虎舞のメインは花楽小路「寅や」の屋根上!

他の場所もそうですが、舞は一日に複数回披露され、加美町の公式HP等で時間も公表されているので、自分の予定と合わせて狙って見に行くことができます。

「寅や」の屋根上で準備をする地元消防団
「寅や」の屋根上で準備をする地元消防団

時間が近づき、屋根の裏から現れておもむろに準備を始める消防団の方々。ちなみに後ろの竹を見てもわかる通り、この日もかなり強く風が吹いていました。

「寅や」の屋根上で披露される虎舞
「寅や」の屋根上で披露される虎舞

準備を見守りながら屋根の上ばかり気にしていると…知らぬ間に周りは見物客でいっぱい。ちょっと移動するのも困難な状況になっていました。

「寅や」の屋根上で披露される虎舞②
「寅や」の屋根上で披露される虎舞②

舞には「本調子の舞」「岡崎の舞」「寝覚めの寅の舞」の3種類があり、虎の衣装をまとった子どもたちが、笛や太鼓のお囃子に合わせて屋根の上で舞を披露します。

町内の至る所で舞を披露する虎たち

祭典本部(寅や)の他に中勇酒造店中文前付近高十商店等の場所が開催場所として公開されていますが、町内の各家で舞を披露することもあるようです。

中勇酒造店の庭で披露される虎舞
中勇酒造店の庭で披露される虎舞

今回、筆者が見ることができたのは中勇酒造店の庭で披露される虎舞。

寅やの屋根上は見上げる形なのである程度遠くからでも鑑賞できますが、ここの場合は早めに来て陣取っておかないと正直見えません…。自分の後ろにもたくさんの人がいましたが、見えなかった人も多いと思います。

中勇酒造店の庭で披露される虎舞②
中勇酒造店の庭で披露される虎舞②

まるで町内を徘徊していた虎が迷い込んで水を飲みに来ているような…面白いシチュエーションの虎舞でした!

色々な表情の個性豊かな虎面

虎舞の虎面①
虎舞の虎面①

当日、町内にはたくさんの虎が出現しますが、その顔は様々。これは加美町の虎舞が複数の分団によって構成されており、それぞれの分団が独自の虎面を使用しているから。

虎舞の虎面②
虎舞の虎面②

さらに面は長年使用されるため、作られた年代や保存状態によっても違いが生じます。

虎舞の虎面③
虎舞の虎面③

色彩や装飾、表情の違いに加え、歴史を感じさせる色あせや傷があったり、煌びやかな新しい面だったりと、出会う度に違う顔をしています。何種類あるのかはわかりませんが…変わった虎面を探してみるのも面白いかもしれませんね!


最後に

前日の4月28日には「初午まつり前夜祭」も開催され、ライトアップされた幻想的な夜の虎舞が披露されます。

この祭りのもうひとつの特徴は、町の大人たちはあくまで裏方で、主役は“子どもたち”だということ。

地元の小中学生の間では虎役に関わる事は名誉なことで、虎役にとどまらず笛や太鼓の囃子隊に至るまでオーディションが行われるそうです!

練習を重ねて本番に臨む子どもたちの姿には、世代を超えて伝統を守ろうとする地域の思いを感じますね。

火伏せの虎舞(初午まつり)<Information>

  • 名  称:火伏せの虎舞(初午まつり)
  • 日  時:毎年4月29日
  • 会  場:宮城県加美町中新田・花楽小路エリア
  • 電話番号:0229-63-6000(加美町商工観光課)
  • 公式URL:宮城県公式HP – 中新田の虎舞

Google Map


その他の記事