【岩手県・秋田県】たった1年で廃止!? 変わり種すぎる特急列車「秋田リレー」号

東京駅と秋田駅の間には、現在は秋田新幹線「こまち」号が運行されています。
秋田新幹線の開業は1997年の3月なので、開業以前は別の特急列車が秋田へのアクセスを担っていました。
盛岡駅と秋田駅(一部は秋田駅を経由して青森駅まで)を結んでいた在来線の特急列車「たざわ」号です。
そして秋田へのアクセス列車が「たざわ」から「こまち」へバトンタッチする間のわずか1年間だけ、運行された特急列車が存在します。
それが今回紹介する特急「秋田リレー」号です。


秋田新幹線とは?

E6系電車による秋田新幹線「こまち」

現在運行されている「秋田新幹線」こと「こまち」は、主に東京駅と秋田駅を結ぶ、JR東日本の列車です。
「こまち」は、東京駅から盛岡駅までは東北新幹線の線路の上を最高時速320kmで走行します。
そして盛岡駅からは在来線の田沢湖線に乗り入れて大曲駅まで運行。
大曲駅で方向転換して、奥羽本線を走って秋田駅に至ります。

「こまち」の経路(主な駅のみ図示)

「こまち」が走行する田沢湖線と奥羽本線(※)は、2本のレールの間隔を元来の1,067mmから、新幹線の車輪の幅に合わせた1,435mmに広げていますが、それ以外には大がかりな変更は行われていない在来線です。
そのため「秋田新幹線」と呼ばれてはいても高速で運行することはできず、最高速度は時速130kmに抑えられています。
「秋田新幹線」とは、東北新幹線の東京駅~盛岡駅間および田沢湖線・奥羽本線の盛岡駅~秋田駅間の総称(あるいは後者のみを指す通称)であり、東京駅~秋田駅間を直通運行される新幹線の列車(現状では「こまち」のみ)の呼称でもあるのです。

※奥羽本線の大曲駅~秋田駅間は線路が2本ある複線だったため、その内1本の線路が拡幅されました。

田沢湖線と奥羽本線のレール間隔を広げる工事が完了して「こまち」が運行されるようになったのは翌1997年3月のことです。
では工事が行われる前の田沢湖線・奥羽本線(盛岡駅~秋田駅間)にはどのような列車が走っていたのでしょうか?


盛岡駅~秋田駅・青森駅間を結んだ特急「たざわ」

特急「たざわ」
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1996年3月までの盛岡駅~秋田駅間(一部列車は盛岡駅~秋田駅~青森駅間)には、特急「たざわ」という列車が運行されていました。
東北新幹線も停まる盛岡駅を発着していたことから、東北新幹線と「たざわ」を乗り継いで秋田へ行く人も多々いたことでしょう
(東北新幹線と「たざわ」の乗り継ぎを省けるようにすることを主な目的として作られたのが秋田新幹線「こまち」なのです)。
車両は、JRの前身の国鉄時代から活躍してきた、当時の特急列車用車両の代表選手とも言うべき485系電車でした。

1996年3月までの状況

1996年の春から、秋田新幹線を運行するために田沢湖線のレール間隔を広げる工事が始められました。
レールの間隔が広がってしまえば、当然のことながら既存の車両の485系電車は運行できなくなります。
そのため「たざわ」は秋田駅~青森駅間のみ運行されることになりました。
「たざわ」の名前の由来である田沢湖の近くを全く通らなくなりましたが、列車名はそのままで存続したのです。

田沢湖線は工事のため運休

さて、これでは東北新幹線の駅から秋田駅へアクセスできる特急列車がなくなってしまいます
(なお、東北新幹線の盛岡駅~新青森駅間は当時未開業)。
そこで「たざわ」に代わって、東北新幹線の駅から秋田駅方面へのアクセス列車として設定されたのが、特急「秋田リレー」だったのです。


北上線経由で北上駅~秋田駅間を結んだ特急「秋田リレー」

特急「秋田リレー」
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1996年3月30日以降、田沢湖線では工事の影響で1年間全列車が運休となったため、従来の「たざわ」の役割を担う特急「秋田リレー」が新設されました。
この列車は、東北新幹線の列車も停まる岩手県の北上(きたかみ)駅を始発・終着駅としていました。
始発の北上駅からは北上線という路線を経由して秋田県の横手駅に至り、横手駅からは奥羽本線を北上して秋田駅に到着します。

特急「秋田リレー」の経路

北上線(北上駅~横手駅間)は、車両に電気を供給する設備がない非電化の路線なので、電車である485系を使用することはできず、キハ110系300番台という、軽油を燃料にして走る気動車が新製投入されました。
JR東日本の毎日運行される特急列車(定期特急列車)には、1987年の会社発足以来、気動車が使用されたことはありませんでした。
定期特急列車への気動車投入はこれが初めての事例であり、2024年の現在でも唯一です。

列車の編成は、短い列車は3両編成でしたが、長いものは7両編成で、それでも混雑することがあったといいます。

北上線がローカル線としては高速で走りやすい線路の形状をしていることや、キハ110系気動車の走行性能の高さや、停車駅が少ないことから「秋田リレー」は、在来線の特急列車としてはなかなかの俊足を誇る列車でした。
北上駅から秋田駅までのおよそ140kmを2時間程度で走り抜けていたので、表定速度(停車時間も含めた平均速度)は時速およそ70kmにもなったのです。


秋田新幹線開業に伴い廃止

秋田新幹線開業当時の「こまち」に使用されたE3系電車

秋田新幹線の開業に向けた工事はつつがなく進捗し、1997年3月22日に秋田新幹線が開業、これに伴って「秋田リレー」は役目を終えて廃止されました。
わずか1年間の運行ではありましたが、最初から予定されていた通りの廃止でした。
なお、これと同時に、秋田駅~青森駅間を結んでいた「たざわ」は「かもしか」に改称されました。
同区間を結ぶ特急列車はさらに改称されて、現在は「つがる」「スーパーつがる」となっています。

キハ110系200番台による観光列車「おいこっと」

「秋田リレー」に使用されていたキハ110形300番台は、特急仕様から普通列車仕様に改造の上、キハ110系200番台に編入され、今も現役です。
元々、特急列車としては1年間しか運用されないことが想定されていたので、転用改造が前提の仕様だったといいます。
一部の車両はさらに新潟県・長野県を走る観光列車「おいこっと」に改造されています。

「秋田リレー」は、1年間しか運行されなかった、JR東日本にとって唯一の定期気動車特急列車だった、JR発足後では珍しい北上線を走る特急列車だったといった点で、変わり種すぎる列車でした。
1年間しか運行されなかったことから当然知名度は低い一方で、その存在を知っている人の中では一定の人気があるようで、キハ110系300番台はNゲージの模型車両として製品化されたこともあります。

短い期間ながらもしっかりとその役割を果たした列車のことを、時々思い出してあげてください。


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