
【中編】一関・平泉の「もち本膳」とは?|300種類以上ある?多彩な「料理もち」
その数300種類以上⁉ 「料理もち」のバリエーション例
もち本膳で向かって左奥に配置される「料理もち」については、基本的におかわりをできないことは【前編】の記事で述べたとおりです。
しかしながらこの料理もちは調理法に多くの工夫が施されており、現代の一関や平泉では300種ともいわれるもち料理のバリエーションが生み出されています。
一関市観光協会が運営している いちのせき観光Navi – いち旅 で公開されている「一関もち料理データベース」では282種類もの「もち料理」が写真付きで公開されています。
リンク:いちのせき観光Navi – いち旅「一関もち料理データベース」
ここではもち本膳に据えられる料理もちから、代表的な7種類の調味例をみていきましょう。
くるみ

すりつぶしたくるみを塩・砂糖・醤油または味噌で調味し、これをタレとして絡めたもちです。
油脂分を多く含むくるみは丁寧にすることでペースト状となり、香ばしさとなめらかな舌触りがつきたてのもちとよく調和する組み合わせです。
くるみ自体は縄文時代からすでに食用されていたことがわかっている木の実で、古くから貴重な森の恵みとして重宝されてきました。
一関だけではなく岩手県では「くるみ豆腐」「くるみ雑煮」「くるみ飯」「くるみひっつみ」等々のくるみを用いた郷土料理があり、新鮮な魚介のコクなどの美味を意味する方言として「くるみの味がする」と表現することもあるといいます。
じゅうね

「じゅうね」とは耳慣れない言葉かもしれませんが、これは「エゴマ」という植物の種子のことです。東北方言でエゴマを「じゅうね」や「じゅうねん」などと呼び、これも古くは縄文時代の遺跡から発掘されることから歴史ある植物利用の一例となっています。
じゅうねもちはエゴマの種子を軽く煎り、すり鉢であたって砂糖・塩・醤油あるいは味噌で味付けしてタレとしてからめます。
かつては油を搾るためにもよく用いられたことからもわかるように油脂を多量に含み、さらりとして香ばしいペースト状に仕上がるのが特徴です。
一方ではすりつぶすと加熱によって酸化が早まることからできるだけ短時間で火を通すことと、つくったらなるべく早く供するのがおいしくいただくポイントです。
ふすべ

「ふすべ」とはすりおろしたゴボウやニンジンあるいは大根、鶏ひき肉を油で炒めて醬油ベースと唐辛子で味付けしたものです。
ふすべは本来「燻べ」と書き、これは囲炉裏で燻して乾燥させたドジョウを粉にして使っていたことからの呼び名です。
現在ではドジョウが手に入りにくくなったため鶏肉で代用することがあり、さらにかつてはキジの肉で作っていたともいわれています。
川や沼でなどで獲れた魚などを囲炉裏の上にかざしておくと、煙と熱によって自然に燻製状の乾燥品に仕上がることから、東北のみならず各地で同様の民俗事例が見られるのは生活の知恵といえるでしょう。
貴重なたんぱく源になることはもちろん、地域によってはこうした干物で出汁をとることも行われ、旨みの凝縮された食材として重宝されたことをうかがえます。
ずんだ

枝豆をつぶしてつくる鮮やかな緑色餡の「ずんだ」といえば宮城県の名物として有名ですが、一関など岩手県南地方でも食べられます。
一関や平泉などの岩手県南部は仙台藩の統治下にあったことはすでに述べたとおりですが、もち食の文化とともにこうしたずんだの調理でも共通性が見られるのも興味深い点といえるでしょう。
ずんだの語源にはさまざまな説があり、豆を打ちつぶすことから「豆打(ずだ)」が訛ったとするものや「甚太」という農民が編み出した料理という説、はたまた伊達政宗が戦の折に「陣太刀(じんだち)」の柄で豆をつぶして食べたことに由来するというものまで語られています。
いずれにせよ、もちに絡めて食べる際には甘く味付けすることが一般的です。
沼えび

「沼えび」はその名のとおり沼や川に棲息する小さなえびで、体長は約3.5㎝~4.5㎝ほどとちょうど桜えびのようなサイズ感です。
水田のための溜め池で多く獲れたといわれ、もち料理としては乾煎りして醤油や酒で味付けしたものを絡めて供します。
えびの赤ともちの白が紅白のコントラストとなって美しく縁起がいいと考えられ、お祝いごとの膳に好んで用いられました。
子どもでも容易に捕獲できることから慶事の折にこの沼えびを獲ってくるよう親から頼まれるのを楽しみにしていたという思い出を語る古老の方もいます。
しょうが

「しょうが」と呼ばれるのはしょうが味そのものというわけではなく、しいたけなどが入った醤油ベースのあんかけにしょうがのしぼり汁を加えた料理もちを指します。
とろみのついたあんは冷めにくく、しょうがも身体をあたためる効能をもつことから、冷えを退けて食欲を増進させる工夫ともいえるでしょう。特に冬場など寒さが身に沁みる時節にはうれしい一椀だったのではないでしょうか。
しいたけも精進料理では出汁を引く素材として多用されるほど強い旨みをもっており、それ自体の食感もよいことからもちとの対比が膳のなかでもよいアクセントになったと考えられます。
しょうがはスパイスの一種といえますがニンニクなどと違って精進料理に用いることが可能で、そういった意味でも祝儀・不祝儀を問わず供せるメリットもあったといえるでしょう。
ごま

すったごまを醤油や砂糖で調味したタレもよく用いられます。やはり油脂分を多く含むことからなめらかなペースト状となり、栄養価も高いため古くから僧院でも重宝されてきた食材の一つです。
先に「じゅうね」と呼ばれるエゴマの種子を使った料理もちについてご紹介しましたが、似た名前ながらエゴマはシソ科、ごまはゴマ科で両者は異なる系統の植物です。
ごまは香り高くミネラルやビタミンに富み、強い抗酸化力をもつ栄養食として利用されてきました。
なお、ごまはエゴマに比べて寒さへの抵抗力が弱く、栽培できる北限は岩手県の北部辺りまでであるといわれています。
そもそも「本膳料理」とは?
もち本膳は一汁三菜の構成を基本とする膳であることを述べてきましたが、そのもととなった「本膳料理」についてもう少し詳しく見ておきましょう。
本膳料理は室町時代に武家の正式な儀礼である「式正(しきしょう)」の料理に起源をもち、さらにその源流は平安時代の貴族の饗応料理である「大饗(だいきょう)」に発しています。
武家の饗応や儀礼における料理としては他に「七五三膳」とよばれる形式もありますが、こちらはより儀式的な要素が強く実際には箸を付けられない「見る料理」が多く含まれています。

江戸時代になると本膳はより簡略化して実際に食べられる料理とされ、供する相手の身分や格に応じて膳の数が変動するのも特徴です。
「本膳」とは最初に出されるいわば一の膳のことで、続いて二の膳、三の膳と格式によって追加の膳が供されていきます。 現在のコースとしての日本料理では「会席」と呼ばれるスタイルが一般的ですが、こちらが一品ずつ順番に料理が運ばれて最後にご飯と汁をいただくのに対して、本膳料理は最初にご飯と汁とお菜が出され、他の膳は酒肴やお土産として位置づけられるのが一般的です。




















