青森県の旧石器時代イメージ(発掘)

【青森県の旧石器時代遺跡:中編】日本の旧石器時代を変えた新たな発見が続々と出土!

“日本にもライオンがいた”(2026年1月 総合研究大学院大学発表)という報道にはびっくりしました。

もともと青森県から出土している旧石器時代(約12万5000年前から1万2000年前頃)の地層から見つかった化石は[トラ]と見られるものが多数ありました。

尻屋崎から出土した大型ネコ科の骨化石。右上腕骨/右尺骨・腕骨および橈骨関節部/左脛骨。ホアアナライオンと判明したのはどの化石か不明 ©群馬県立自然史博物館

そのうちの下北半島の尻屋崎(しりやざき/東通村)から見つかった状態のよい1個を静岡県浜松市、山口県美祢(みね)市からの化石とあわせて5個のDNAやタンパク質を詳細に検査したところ、全てユーラシア大陸北部に生息していたライオン(ホラアナライオン)のものと一致したのです。

このことで青森県尻屋崎にはライオンが生息していたことが証明されました。

ホラアナライオンは現存するライオンとは同属ですが独立した種のライオンで、たてがみがなく(短い)、しかもどう猛だったようです。

日本には最終氷河期の3万5000年ほど前に何らかの方法で渡ってきたと考えられています。


青森県の旧石器時代の遺跡は30か所あまり。その要因は

青森県では縄文時代の遺跡が4893か所(2023年3月現在)見つかっているのに対し、旧石器時代のものは約30か所にとどまっています。全国では1万か所以上あるのに対して少なすぎます。

その理由は、下北半島尻屋崎や津軽半島南部などを除いて、酸性土壌の地域が多く、骨などのカルシウム物質が融けてしまったことがあげられています。

また、青森県周辺は十和田火山をはじめ岩木山や八甲田山、八幡平などといった大きな火山が多いため、旧石器時代以降も何層にも渡って堆積が起こり、旧石器時代の層までなかなかたどり着かないということもあるようです。

さらにもともと旧石器時代の青森県はその極寒さゆえヒトがあまりいなく、遺跡自体も少ないのではないかともいわれています。

大平山元遺跡群
約1万5000年前の遺跡大平山元遺跡群。ⅠからⅢまで発掘調査された。ユネスコ世界文化遺産に登録。国指定史跡 ©外ヶ浜町

日本の旧石器時代遺跡で最も古いのは

日本全国で最も古いのは「冠(かんむり)遺跡」(広島県廿日市市)で、発掘された出土物は約4万2300年前のものでした(2025年5月に発表)。

また、最古の人骨化石が見つかったのは「山下町第一洞穴(やましたちょうだいいちどうけつ)遺跡」(沖縄県那覇市)で、約3万2000年前~3万6000年前のものです。

東北地方では「金取(かねどり)遺跡」(岩手県遠野市)が最も古いとされる遺跡で、約3万5000年前の地層から石器などの遺物が出土しています。

補足

砂原(すなばら)遺跡(島根県出雲市)で12万年前の石器が出土(2009年)や、金取(かねどり)遺跡(岩手県遠野市)から8~9万年前の石器が出土(2003年)などの報道があったのですが、石器をヒトが作ったものか、自然にできたものなのかの判断が難しいようでその真偽は確かめられていません。

米軍三沢基地
米軍三沢基地。この中に「五目川遺跡」がある。もちろん立ち入り禁止 ©国土地理院

青森県を代表する旧石器時代の遺跡は

  • 大平山元(おおだいやまもと)Ⅱ遺跡(外ヶ浜町)
  • 大平山元Ⅲ遺跡(外ヶ浜町)
  • 大森勝山(おおもりかつやま)遺跡(弘前市)
  • 田向冷水(たむかいひやみず)遺跡(八戸市)
  • 五目川(いつめかわ )遺跡(三沢市/米軍三沢基地内)
  • 福島城跡(ふくしまじょうせき/五所川原市)
  • 中野(なかの)遺跡(弘前市)
  • 隠川(かくれがわ)遺跡(五所川原市)
  • 獅子沢(ししざわ)遺跡(野辺地町)

などです。

なお、「大平山元Ⅰ遺跡」は、土器が出土したことから縄文時代(草創期)の遺跡として分類されています。


八戸テフラの層が遺跡年代の検証を容易にした

約1万5700年前に十和田火山(火口は十和田湖)の十和田八戸噴火では、日本史に残る大量の火山灰を噴出させました。その範囲は偏西風に乗って北海道南部にまで達しています。

もちろん青森県はほぼ全土に降灰し、火口近くでは数メートル、下北半島あたりでも数十センチ積もりました。特に八戸地域は偏西風に乗った降灰が続き、さらに火砕流にも覆い尽くされ、荒野になってしまったのです。

つまり、青森県の地層はその火山灰(八戸テフラ=To-H)によって、その下の層は1万5700年以前の地層、降灰後に噴火した十和田湖火山や岩木山、恐山などからの噴出物の層は1万5700年より新しい地層とはっきりと分けられたのです。特に太平洋側ではそれがよく分かります。

十和田湖
巨大な火口湖「十和田湖」。この原型を造ったとされるのは、1万5700年前の<十和田八戸噴火> ©国土地理院

八戸テフラは層となって広がっているのですが、その層が八戸テフラだと見分けることが容易にできるというメリットがあります。それは色の違いです。

一般的に地層は茶色系統の色なのですが、八戸テフラは白または淡黄色をしています。また、荒い軽石を中心に三層となっていてものすごくもろいという特徴をもっています。

八戸テフラより下の地層から石器などが出土した遺跡は

  • 長者久保(ちょうじゃくぼ)遺跡(東北町/約1万6000年前/縄文時代草創期)
  • 田向冷水遺跡(八戸市/2万4000年前~2万年前/旧石器時代)
  • 五川目遺跡(三沢市米軍三沢基地内/1万9000年前~1万7000年前)

などがあります。


青森県で最も古い旧石器時代の遺跡「大平山元遺跡」

1万6500年前の土器が出土した津軽半島中東部外ヶ浜町の小高い丘にある「大平山元遺跡」 ©外ヶ浜町

青森県で一番古い石器時代の遺跡といわれているのが大平山元遺跡群です。1万3000年前からそれ以前と推定される旧石器時代終わり頃の特徴を持つ石器とともに土器片などが発見されました。

大平山元遺跡群は、津軽半島中東部、陸奥湾に注ぐ蟹田川(かにたがわ)沿いの、標高26mほどの小高いの上にあります。

蟹田川にはサケやマスが遡上し、近くから石器に使用する石材の珪質頁岩(けいしつけつがん/珪藻土が岩石化したもの)がとれ、石器を使う旧石器時代には最適な立地でした。

発掘の契機は中学生が拾った石器らしき石ころ

大平山元遺跡
石と石でたたいて鋭利な形を作った「大平山元遺跡」から出土の旧石器時代の石器。国指定重要文化財 ©外ヶ浜町

遺跡は1971年に地元の中学生が拾った石が契機となり、青森県立郷土館が学術調査をして発見されました。

拾った石は“御子柴型石斧(みこしばがたいしおの)”といわれる縄文時代初期の石器だとわかり、その後の発掘調査でこの遺跡が旧石器時代から縄文時代初期のものであることが判明したのです。

最初に発掘踏査をしていた場所(「大平山元Ⅰ遺跡」)からは、1998年の調査で旧石器時代の石器とともに土器片が多数出土し、日本では約1万3000年前の旧石器時代から土器を使用していたことが分かったのです。

土器片は模様がなく(無文土器)、縄目が入っている縄文土器より前のものと推定され、土器に付着していた“おこげ”を年代測定したところ、約1万6500年前との驚きべき結果が導き出されたのです。

世界で最も古い土器(発見当時)が出土し、世界的に注目される

無文土器
煮炊きのあとがついている1万5000年程前の無文土器 ©外ヶ浜町

1万6500年前の土器は当時世界でもっとも古いもので世界の注目を集めました。

現在は2012年に中国で発見された土器が約2万年前のものと発表されたので「大平山元遺跡」の土器は世界最古級と呼んでいます。

どうして注目されたのかというと、ヨーロッパやアメリカでは旧石器時代真っ盛りで土器などは使っていなかった時代だったからです(ヨーロッパなどで土器が使われ始めたのは9000年前です)。

「大平山元Ⅰ遺跡」の後、「大平山元Ⅱ遺跡」「大平山元Ⅲ遺跡」と発掘調査が進められましたが、土器は「大平山元Ⅰ遺跡」のみから出土しています。

旧石器時代の遺跡でも土器が見つかった遺跡は縄文時代(草創期)、土器が見つからない遺跡は旧石器時代の遺跡になるので、厳密に言うと、「大平山元Ⅰ遺跡」は縄文時代(草創期)、「大平山元Ⅱ遺跡」「大平山元Ⅲ遺跡」は旧石器時代の遺跡(1万5000年前)となります。

「大平山元遺跡」はⅠ~Ⅲをあわせて、国の史跡で、ユネスコの世界文化遺産『北海道・北東北の縄文遺跡群』に認定されています。出土品は国指定重要文化財、発掘調査資料は青森県指定県重宝です。

「大平山元遺跡」の出土品は「大平山元遺跡展示施設むーもん館」に展示中です。

大平山元遺跡<Information>

大平山元遺跡
国史跡「大平山元遺跡」 ©外ヶ浜町
  • 施設名称:大平山元遺跡
  • 所在地:青森県東津軽郡外ヶ浜町字蟹田大平山元
  • 問い合わせ:大平山元遺跡展示施設むーもん館
  • 電話番号:0174-22-2577
  • 見学:自由
  • 文化財指定:世界文化遺産・国指定重要文化財・青森県指定県重宝・国指定史跡
  • URL:大平山元遺跡

大平山元遺跡展示施設むーもん館<Information>

大平山元遺跡展示施設ムーモン館
大平山元遺跡展示施設ムーモン館 ©外ヶ浜町
  • 施設名称:大平山元遺跡展示施設むーもん館
  • 電話番号:0174-22-2577
  • 開館時間:9:00~16:00
  • 入館料:一般(大学生以上)300円、高校生以下 無料
  • 休館日:月曜日(祝休日の場合はその翌日)、12月29日~1月3日
  • URL:大平山元遺跡展示施設ムーモン館
  • アクセス:
    • 公共交通機関/JR津軽線蟹田駅から車で約10分
    • 車/東北自動車道青森ICから約45分

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世界的に注目されている青森県の旧石器時代の遺跡

尻労安部洞窟
「尻労安部洞窟」の洞窟入口。石器とともに動物化石がみつかった。ヒトが動物を解体、調理していた可能性が高い ©慶應義塾大学文学部民族学考古学研究室

青森県の旧石器時代(縄文時代草創期)の遺跡は総数的には少ないのですが、世界最古級の土器が出土し、縄文時代の始まりを5000年も早めた「大平山元Ⅰ遺跡」や尻屋崎の石灰岩採掘場から見つかるたくさんの動物化石、尻屋崎東側の「尻労安部洞窟(しつかりあべどうくつ)遺跡(安部遺跡)」の旧石器時代のヒトと動物の活動跡など、世界的にも注目されている遺跡がいくつもがあります。

石灰岩採掘場からはトラではなくライオンと分かったネコ科動物の化石も出土するなど話題に事欠きません。今も発掘作業が続けられている「石尻労安部洞窟」周辺からはヒトの化石が見つかるかもしれないと期待がかかっています。今後の青森県の旧石器時代の遺跡調査には目が離せません。

ユネスコ世界文化遺産登録の「大森勝山遺跡」。縄文時代の環状列石が有名だが、旧石器も出土している ©弘前市教育委員会
ユネスコ世界文化遺産登録の「大森勝山遺跡」。縄文時代の環状列石が有名だが、旧石器も出土している ©弘前市教育委員会

青森県の旧石器時代遺跡は「大平山元遺跡」「大森勝山遺跡」のように国の史跡や世界文化遺産に登録されるなどして整備され公開されているところもあるのですが、多くがまだ発掘作業中だったり、埋め戻されたり、場所が会社私有地やアメリカ軍基地だったりして観光客の立ち入りは禁止されています。

入場禁エリアが私有地には決して無断で入らないようにお願いします。

【青森県の旧石器時代遺跡:後編】では、今注目の旧石器時代の遺物の宝庫、下北半島尻屋崎を少し詳細に見てみましょう。


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