
ナマハゲだけじゃない?小正月に現れる東北各地の来訪神
目次
「泣ぐ子はいねがー!」秋田・男鹿のなまはげは、東北を代表する民俗行事として全国的に知られています。
…しかし実は、姿や呼び名こそ異なるものの、同じような役割を担う神々が全国各地に数多く存在していることをご存じでしょうか?
それらは総じて来訪神(らいほうしん)と呼ばれています。
来訪神とは?鬼の姿をした「神」
来訪神とは、年の変わり目や季節の節目に、山・海・異界から人里へやって来る神のことを指す民俗学用語で
- 仮面や異装をまとい
- 家々を巡り
- 人々の暮らしぶりを確かめ
- 災厄を祓い、福を授ける
この特徴はナマハゲだけでなく日本各地の民俗行事に共通しています。
重要なのは来訪神は「鬼」ではなく「神」であるという点で、鬼のような恐ろしい姿や藁を被った奇怪な姿は人を怖がらせるためではなく、人ならざる存在を目に見える形で顕現させたものとされています。
なぜ「小正月」に現れるのか?
来訪神が現れる時期は地域によって微妙に異なりますが、東北では元旦(正月)から小正月(1月15日前後)の時期に集中しています。
小正月とはその年の最初の満月の日を祝う「もう一つのお正月」とされていて
- 農作業の始まりを意識する
- 正月飾りの片付けと新たな年の平安を祈る重要な区切りの日
そんな意味を持つことから「一年が本当に動き出す境目」と捉えられてきました。
この重要な節目に人々は神を迎え、生活が正しく営まれているかを確かめてもらう必要があり、その役目を担ったのが来訪神であったとされています。
なぜ神社ではなく「家」を回るのか?
来訪神の特徴として見逃せないのが各家庭を訪れるという点です。
これは町村を構成する個々の「家」に対して直接神さまが訪れて、そこに暮らす家族一人ひとりを確認し、怠け者を戒め、火伏を願い、幸福や安寧を祈願するなどして、しっかりと一年を始めようとする思いがあったと考えられます。
東北各地に残る来訪神の姿
かわいらしいものから恐ろしいものまで…東北各地に様々な来訪神が存在します。
福俵ころがしとカパカパ(青森県田舎館村)

青森県田舎館村周辺に伝わる「福俵ころがし」という小正月行事では、子供たちが大黒天に扮して家々を回ります。玄関に招かれると持っている福俵を家に投げ入れ「舞い込んだ~舞い込んだ、福俵が舞い込んだ~」と謳い、無病息災や家内安全を願います。
厄年の人がいる家では人参等で作った「カパカパ」と呼ばれる人形を玄関先に立てかけ厄除けを祈願します。
もともとは別々の風習だったものが、いつしか一つの行事として習合されたといわれていて、恐ろしい姿で戒めるというよりも、福を直接もたらす来訪神であることが特徴です。
男鹿のナマハゲ(秋田県男鹿市)

東北の来訪神を語るうえで欠かせない存在が「男鹿のナマハゲ」です。
冬の農閑期に炬燵や囲炉裏に当たってばかりいる怠け者をいさめ、火に当たりすぎるとできるナモミ(低温火傷の茶色いアザ)を剥ぎにやってくることから生身剥ぎ(なもみはぎ)という行為を語源としてナマハゲと呼ばれるようになったといわれています。
一見、鬼のような恐ろしい形相をしている上に、家の戸を揺らしたり大きな声を出したり…更に手には出刃包丁を持っているため、恐怖の象徴のような存在です。
しかし実際は恐怖を与えることが目的なのではなく、怠惰への戒めと訓戒を与え、無病息災・五穀豊穣をもたらす来訪神だといわれています。
なのでナマハゲが訪れた家々では、料理やお酒を準備して丁重にもてなします。
リンク:男鹿のナマハゲ
吉浜のスネカ(岩手県大船渡市)

岩手県大船渡市三陸町吉浜に伝わる「吉浜のスネカ」は、面と蓑を身にまとった異形の来訪神。面は獣や虫、人型など様々な風貌があります。
古くから小正月は人知を超えた神聖な存在が行き交う日と考えられていて、そんな日に現れるスネカは家々を巡り、腰に下げたアワビの貝殻をガラガラ鳴らしながら包丁を振り上げて子供たちを脅かします。その目的はあくまで無病息災と厄払いにあるされていて、家人は餅やご祝儀をスネカに渡してもてなします。
男鹿のナマハゲと酷似した風習で、ナマハゲは「生身剥ぎ(なもみはぎ)」が語源とされていますが、スネカは、怠け者の脛の皮をはぎ取るという「脛の皮剥ぎ(すねのかわはぎ)」という行為が名前の語源といわれています。
リンク:大船渡市公式HP – ユネスコ無形文化遺産「吉浜のスネカ」
加勢鳥(山形県上山市)

山形県上山市の「加勢鳥」は、商売繁盛・五穀豊穣・火伏を祈願する行事です。
全身を覆う「ケンダイ」と呼ばれる藁蓑を纏うことで「小正月に遠い土地からやってくる神の声によって一年の豊かさを祝う」という信仰からくる歳神さま「加勢鳥」に扮します。
かつては城で披露される「御前加勢」と町内で行われる「町方加勢」があったとされ、現在ではそれを再現するように上山城前に設けられた焚火前での演舞から始まり、行列はそのまま市街を練り歩き始めます。
「カッカッカーのカッカッカ!」と威勢よく謳う加勢鳥に、人々が盛んに「祝い水」と呼ばれる水を浴びせ火伏を祈願します。
リンク:山形県公式観光サイト – 加勢鳥
米川の水かぶり「火男」と「おかめ」(宮城県登米市)

宮城県登米市東和町米川に伝わる「米川の水かぶり」はおよそ800年以上前から行われている火伏の行事で、厄年にあたる人が参加した際には厄払いとしての意味も込められます。
さらに当日、火伏を祈願する水かぶりの集団とは別に、ヒョットコとオカメの姿をした二人が地区の家々を回りご祝儀を集めます。
このヒョットコとオカメは「福をもたらす来訪神」で、ヒョットコは「火男」と書くことから火の神様の仮の姿、オカメはその相方の神様であるとされています。
オカメは秤棒(はかりぼう)に手桶を担ぎ、ヒョットコは墨染僧衣でおりんを鳴らしながら町内を静かに練り歩きます。
リンク:登米市公式HP – ユネスコ無形文化遺産「米川の水かぶり」
彼岸獅子(福島県会津若松市)

福島県の会津地方に伝わる「彼岸獅子」は、獅子頭をかぶった三人獅子(太夫獅子、雄獅子、雌獅子)が笛や太鼓の音色に合わせて、疫病退散、五穀豊穣、家内安全を祈る舞を披露します。
名称に「彼岸」とある通り、正月ではなく春の彼岸(春分の日)を中心に行われますが、家々を回り、災厄を祓い、福をもたらすという点で、来訪神的性格を持っています。
会津若松市の「会津彼岸獅子」の他に、会津美里町の「西勝彼岸獅子」や喜多方市の「下柴彼岸獅子」など、会津地方の様々な地域に受け継がれている来訪神行事です。
まとめ
小正月から春先にかけて現れる様々な来訪神。
単純に祝福をもたらすものから、厳しく接して戒めと訓戒を与え、暮らしを正しい方向に導くものなど…様々な目的で現れるようです。
その根底には古くから雪に閉ざされる厳しい地域だった東北地方で、新しい一年も幸福になるように願っていた人々の思いがあるのかもしれませんね。
【参考書籍】一年に一度しか会えない日本の「来訪神」図鑑 – 青春出版社















