
いくらなんでもマイナーすぎる?秋田県と北海道を結んだ臨時列車「ハーバーレインボー」
目次
1994年頃から2000年代前半頃までの時期に「ハーバーレインボー」というJRの臨時列車が運行されていました。主に秋田県の秋田駅と北海道南部にある函館駅を結ぶ臨時列車でした。
この臨時列車は運行期間や運行日が限られていたといった理由で知名度が低く、しかも色々な意味で変わり種の珍しい列車でした。
ハーバーレインボーとは?
JRの臨時列車「ハーバーレインボー」が最初に運行されたのは1994年頃のようです。当初は急行列車として運行され、2000年頃から特急列車となりました。しかし、特急化されてから何年も経たないうちに、運行を終了したようです。運行されていた時期が限られている上に、運行される日も年間で数日から、多くても16日程度という少なさで、かなり知名度の低い列車だったことは間違いありません。
運行区間は秋田駅から青森駅を経て函館駅まででした。秋田地区の観光振興のために設定された列車とされています。秋田駅から函館駅までの所要時間は、概ね7時間かからない程度でした。
経由する路線は、秋田駅から順に、奥羽本線・津軽線・海峡線・江差線(現・道南いさりび鉄道線)・函館本線でした。なお、青森駅から函館駅までの区間(津軽線~函館本線までの4路線)には、当時「津軽海峡線」という総称がありました。
奥羽本線と津軽線はJR東日本の管轄する路線で、海峡線・江差線(当時)・函館本線はJR北海道の管轄する路線なので「ハーバーレインボー」は、JR東日本とJR北海道のエリアにまたがって運行される臨時列車だったということになります。
「ハーバーレインボー」の運行時期などの詳細に関して筆者が出せる情報は(お恥ずかしいことに)これくらいなのですが、限られた情報からでも、この列車にはいくつもの珍しい要素があったことがわかっています。
JR北海道の車両が秋田県へ乗り入れてきたのが珍しい
「ハーバーレインボー」に使用された車両は、JR北海道が所有していた「ノースレインボーエクスプレス」というジョイフルトレイン(近年の一般的な言葉でいえば観光列車)でした。車両形式でいうなら「キハ183系5200番台」という気動車です。1992年に営業運転を開始しました。

(「ハーバーレインボー」として走ったときの写真ではありません)
JR北海道は、名前の通り北海道を主な営業エリアとしている会社です。ただし、JR北海道の所有する車両が、本州と北海道を結ぶ海底トンネルの青函トンネルを通って、本州に乗り入れること自体はそこまで珍しくありません(そもそも、海峡線や北海道新幹線は、本州側の青森県内の区間もJR北海道の管轄です)。
北海道新幹線が2016年に開業するまでは、新青森駅(2010年までは八戸駅)と函館駅を結ぶ特急「スーパー白鳥」が、JR北海道の所有する電車によって運行されていました。また、東京都の上野駅と、北海道の札幌駅を結んでいた寝台特急「北斗星」の一部の列車や、青森駅と札幌駅を結ぶ夜行急行「はまなす」の乗客が乗る客車には、JR北海道の所有する客車が使われていました。

北海道新幹線の開業後は、JR北海道の所有するH5系電車が、青函トンネルを通って本州に上陸し、東北新幹線に直通して東京駅まで乗り入れています。
しかし、JR北海道の車両が「秋田県に」乗り入れていた例はほとんどないと思われます。
自走できる気動車なのに機関車に引っ張られたことが珍しい
「ハーバーレインボー」に使用された「ノースレインボーエクスプレス」は「気動車」という種別の車両でした。軽油を燃料にしてディーゼルエンジンを回して走る車両で、日本の幹線鉄道や新幹線で使われているような「電車」とは別種の車両です。しかし、別の車両に引っ張られて走るタイプの車両ではなく、自走できる車両だという点は電車と同様です。
ところが、自走できる気動車が使用されているのにもかかわらず「ハーバーレインボー」は、青森駅~函館駅間では電気機関車に引っ張られて走っていました。海底を走る長大トンネルである青函トンネルの中では、防災上の理由で気動車の自走ができなかったためです。結果として、気動車がわざわざ機関車に引っ張られて走るという珍しい光景が生じていました。
ただし「珍しい光景」というのはあくまで当時の話です。JR発足前の国鉄時代には、気動車が途中の駅まで電気機関車に引っ張られて走る列車が、1968年から1982年までなんと毎日走っていました。詳しくは下記の記事をご覧ください。
よりマニアックなことを述べると、本線上を運行される列車にはそれぞれ「列車番号」という固有の番号がついています。「ハーバーレインボー」の場合は、秋田駅から青森駅までの区間では「気動車列車」としての番号が付けられていて、青森駅から函館駅までの区間では「客車列車(機関車に引っ張られる列車)」としての番号が付けられていました。このことは「ハーバーレインボー」が青函トンネル区間では機関車に引っ張られていたことをより強く裏付けています(先述の通り、自走は防災上の理由でありえないのですが)。
なお「ハーバーレインボー」が初めて登場したと思われる1994年の運行では、秋田駅から函館駅までの全区間で、機関車にけん引されて走ったようです。
ところで「ハーバーレインボー」には、姉妹列車のような「ハーバー函館」という列車も設定されていました。運行区間は同じく秋田駅~函館駅間で、機関車が客車をけん引して走るタイプの列車でした。晩年の「ハーバー函館」はJR東日本の所有する485系という電車で運行されました。こちらも2000年代前半には運行されなくなったものと思われます。
全空間電車が走れるのに気動車で運行されたことが珍しい
電車は名前の通り、電気を使って走る車両です。基本的には外部から電気を供給するための設備を備えている(電化されている)路線でなければ、自走することはできません。
※ただし、現在は蓄電池を搭載していて非電化路線も走れる電車が出てきています。詳細は下記の記事をご覧ください。
一方、気動車は自車に燃料を搭載して走るので、電化されていない路線でも走行できます。利用者が少ない地方の路線では、非電化であることが普通なので、気動車が幅広く使用されているのです。
ところで「ハーバーレインボー」が運行された秋田駅から函館駅までの路線は、全区間が電化されているので電車でも運行できます。それにもかかわらず、なぜか電化されていなくても走れる気動車によって臨時列車が運行されたのです。
「ハーバーレインボー」のような、始発から終点までの全区間が電化されているのに気動車によって運行された特急・急行列車は、国鉄時代には相当数存在しました。しかし、近年では絶滅こそしていないものの珍しくなっています。
筆者は以前、そのような特徴を持つ列車を紹介する『ディーゼル車なのに架線の下だけを走った急行列車』という記事を書きました。この記事では、基本的に毎日走る定期列車を対象にとりあげましたが、臨時列車も入れてよいのであれば「ハーバーレインボー」も「日本海縦貫線編」で紹介できたかもしれません。
「かもしれない」なのはなぜかというと、既に説明したように「ハーバーレインボー」は青森駅~函館駅間では自走せずに機関車に引っ張られていたので「架線の下だけを走った」に該当しない可能性があるからです(既に説明した通り、青函トンネルを越えるときに、少なくとも列車番号が「気動車列車ではなかった」ことは確実です)。要は「走った」という言葉を「自走」と定義するなら該当しない、「走行」と定義するなら該当するということです。
秋田~函館間の臨時列車の運行はもはや難しい
このように「ハーバーレインボー」はいくつもの珍しい要素を併せ持つ列車でしたけれども、利用状況はあまりよくなかったという情報があり、運行は2000年代前半頃に終了したようです。
使用されていた車両の「ノースレインボーエクスプレス」も、2023年春に老朽化のため運行を終了して、翌年解体されています。

今後「ハーバーレインボー」と同じ秋田駅~函館駅間で運行される臨時列車が設定されることはないと筆者は考えます。理由は「ノースレインボーエクスプレス」が廃車になってしまったことではなく、利用状況が悪かったということだけが理由でもありません。大きな要因は、2016年の北海道新幹線の開業です。
北海道新幹線の開業に伴い、青函トンネル内の設備の仕様が大きく変更されました。そのため、既存の車両のほとんどは青函トンネルを通過できなくなり、青函トンネルを自走して通過できる主な車両は以下のように限られています。
- 東北・北海道新幹線の列車に使用されるE5系・H5系電車
- 青函トンネルを通る貨物列車をけん引するEH800形電気機関車
- 周遊型寝台列車の「TRAIN SUITE 四季島」(トランスイートしきしま)(E001形)
(このほかに、設備の検査に使用する車両などが青函トンネルを通っています)

まず、E5系やH5系は、新幹線以外の路線(在来線)には乗り入れられないので、新幹線の駅ではない函館駅や秋田駅へ行くことが、機関車に引っ張られても不可能です。秋田駅については、秋田新幹線があるのでは? と思われたかもしれませんが、秋田新幹線の盛岡駅~秋田駅間は、実は在来線です。

2017年にデビューした「TRAIN SUITE 四季島」は秋田駅~函館駅間の経路を実際に自走しているので、その点は何も問題ありません。しかし、代金が数十万円から100万円超のツアーに使われる車両です。秋田駅~函館駅間の臨時列車に使用されることがあるとはまず考えられません。
となれば、EH800形電気機関車に、乗客が乗る車両を引っ張らせて青函トンネルを越えるという方法が思いつくでしょう。まさに「ハーバーレインボー」がしていたのと同じことです。

ところが、EH800形が旅客列車をけん引した事例は、北海道新幹線が開業してまもない頃だけはありましたが、1年も経たない内に終了しており、以後行われていません。いったいなぜでしょうか?
EH800形は、既に説明したように青函トンネルを通過する貨物列車をけん引するための機関車です。北海道新幹線の開業に伴い、従来の機関車とは異なる仕様の機関車が必要になったためにEH800形が製造されました。国策である新幹線の開業によって必要になった機関車なので、EH800形を導入するJR貨物に対して、独立行政法人の鉄道建設・運輸設備支援機構から費用の支援が行われました。
以下は真偽不明の情報だということをお断りしますが、上記の経緯で導入されたEH800形を旅客列車のけん引に使用することは「補助金の目的外使用」であり、問題になったのではないかという可能性が指摘されています。事実であれば、今後EH800形が旅客列車をけん引することはないということになります。
筆者が、秋田駅~函館駅間の臨時列車がもう運行されることはないと考える理由は以上の通りです。「ハーバーレインボー」は、今後いろいろな意味で幻の列車として語り継がれる……と言いたいところですけれども、あまりにマイナーな列車なので、語り継がれもしない可能性があります。この記事が、語り継がれることの一助となれば幸いです。


















