官営釜石鉄道 製造番号2793

【岩手県釜石市】東北地方初、国内3番目の鉄道「釜石鉄道」とは?

東北地方を南北に縦断して存在感を放っている鉄道路線と言えば、現在は東北新幹線です。
そして東北新幹線に並行する在来線の東北本線は、1891年の全線開業以来、重要幹線であり続けてきました。

東北本線 金谷川駅~松川駅間(福島市)

しかし、東北本線は昔からの重要幹線ではあるものの、実は東北地方初の鉄道ではありません。
東北地方で初めて、そして全国でも3番目に開業した鉄道は、今回ご紹介する「釜石鉄道」です。


日本で3番目に開業した釜石鉄道

日本初の鉄道は1872年(明治5年)に、関東地方の新橋駅~横浜駅間で開業しました。2番目の鉄道は1874年に、関西地方の大阪駅~神戸駅間で開業しました。
いずれの鉄道も、現在は東海道本線の一部を構成しています。

これらの鉄道に続いて鉄道が開業したのは、鉄の町として知られる岩手県の釜石です。
1880年に釜石鉱山から官営製鉄所へ鉱石を輸送するための鉄道が、当時の工部省の手によって開業しました。

官営釜石鉄道 製造番号2793
官営釜石鉄道 製造番号2793 出展:Wikipedia

これが「釜石鉄道」です。
路線の経路は、現在のJR釜石線の陸中大橋駅から釜石駅までの区間と近いものでした。
日本で3番目の鉄道であり、東北地方初の鉄道でした。

JR釜石線の陸中大橋駅

あっという間に廃止

ところが釜石鉄道はすぐに廃止されてしまいました。
官営製鉄所の設備にトラブルが発生し、そのまま休止に追い込まれたのです。

本来の役目を失った釜石鉄道は、1882年から旅客輸送を行いましたが、官営製鉄所の廃止と鉱山の閉山が決まったことから、釜石鉄道の廃止も通達されました。

開業からわずか2年半ほどでの廃止でした。

余談ですが、釜石鉄道は日本で3番目の鉄道である上に、すぐに廃止されたものの、実は「日本初の廃線」ではありません。

日本で2番目に鉄道が開業した大阪では、大阪駅と、安治川の右岸に設置された安治川駅とを結ぶ貨物輸送用の路線が1875年に開業しました。
しかしわずか2年半後の1877年に、役目を終えて廃線となっていたのです。
これが日本初の廃線だと考えられます。


馬車鉄道として復活

その後、釜石の鉱山や製鉄所は民間の手によって再興します。
鉄道はすでに廃止されていたので、鉱石の輸送には馬が使われました。

しかし馬による運搬では早々に輸送力の限界が訪れたので、鉄道も「釜石鉱山馬車鉄道」として再び敷設され、1894年に開業しました。

「馬車鉄道」とは名前の通り、レールの上の車両を馬が引く方式の鉄道です。
1911年に蒸気機関車での運転に切り替わるまでは馬車が使用されていました。

馬車鉄道(写真は釜石鉱山馬車鉄道とは無関係)

釜石線の開通

蒸気機関車による運転に切り替えた後の鉱山鉄道(以後このように記します)は経営者がたびたび代わり、1940年からは「日鉄鉱業」という会社が経営することになります。

そして戦時中の1944年に、鉱山鉄道の運命を大きく左右することが起こります。
国有鉄道の釜石東線、現在のJR釜石線の開業です。

釜石鉱山跡付近を走行するJR釜石線の「SL銀河」 ※「SL銀河」の運転は、2023年6月で終了。

並行する鉄道が開業してしまった鉱山鉄道は、一般の旅客や貨物の輸送を終了し、鉱石や日鉄鉱業の社員を輸送する「専用鉄道」になりました。

当初は鉱石を運ぶために開業した鉄道ですから、先祖返りとも言えるでしょう。
社員の通勤輸送は1950年まで続きました。


2度目の廃止

社員の通勤輸送が終了した1950年以降も、鉱山鉄道は鉱石輸送の専用線として存続していましたが、ついにその命脈を絶たれることになります。

道路網の発達や自動車の利用の増加により、鉱山鉄道の存在が自動車交通の妨げになったからだと考えられます。

東北地方初の鉄道として開業して、一度廃止された後も復活して釜石の地を走り続けた鉱山鉄道は、1965年にその歴史を終えました

廃止からは60年近い時間が経っていますが、JR陸中大橋駅付近などのところどころに、廃線跡や設備の跡が残されています。


その後の釜石鉱山

釜石鉱山跡
釜石鉱山旋盤工場跡

鉱山鉄道の廃止後も採掘を続けていた釜石鉱山でしたが、1992年に銅鉱石の採掘を終了し、1993年には大規模な鉄鉱石の採掘も終了しました。

とはいえ、釜石鉱山は現在も有効に利用されています。

大規模な採掘の終了後も年間100トン程度の採掘が行われているほか、地下水での水力発電や、鉱泉水の製造や、地下の空洞の跡地を利用した事業などを展開しています。

鉱泉水とは坑道の湧き水のことで「仙人秘水」という名前で売り出されています。
飲料水としては「おいしい」「飲みやすい」と評判で、化粧水などにも使用されています。

また、閉鎖された坑道の見学ツアーが年に数回程度開催されています

以前は坑道内で実際に使われていた電動トロッコに乗って、坑道を見学することができました。
しかし、トロッコの補修用の部品の入手が困難で修理不可能となったことからトロッコでの見学は終了し、現在は自動運転の電動カートに乗って見学ツアーが行われています

レールを走る乗り物が好きな人の観点からは、トロッコの運転終了は少々残念かもしれませんが、電動カートはトロッコと比べて騒音も振動も大幅に小さいので、快適な見学ツアーが楽しめます。

また、見学ツアーの集合場所にもなっている「旧釜石鉱山事務所」では、日鉄鉱業株式会社が所蔵していた釜石鉱山に関連する資料の保存展示が行われています。

INFORMATION

  • 施設名称 旧釜石鉱山事務所
  • 所在地 岩手県釜石市甲子町第1地割90-2
  • お問い合わせ番号 0193-55-5521
  • 坑道見学実施時期 不定期(年数回)
  • 開館時刻 9:30~16:30(入館は16:00まで)
  • 休館日 毎週火・水曜日、冬季(12月9日~3月31日) 
  • URL 【旧釜石鉱山事務所】冬季休館中です【~3/31】

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釜石の製鉄の歴史を伝える「鉄の歴史館」

釜石では、江戸時代末期に西洋式の高炉が築かれて、日本で初めて鉄鉱石を原料とした製鉄が行われました。

製鉄産業が釜石に根付いたことは、東北地方初の鉄道が開業するきっかけにもなりました。
そのような釜石の、製鉄の歴史に触れられる「鉄の歴史館」が、釜石駅から車で5分程度の場所に設けられています。

昭和期の鉱山鉄道で実際に使用されていた機関車の静態保存も行われています。

鉄の歴史館に保存されている蒸気機関車 出典:WikipediaTy19080914 – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0,  https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=70184400による

INFORMATION

  • 施設名称 釜石市立鉄の歴史館
  • 所在地 岩手県釜石市大平町3丁目12-7
  • お問い合わせ番号 0193-24-2211 
  • 開館時刻 9:00~17:00(入館は16:00まで)
  • 休館日 毎週火曜日、年末年始(12月29日~1月3日)
  • URL 【鉄の歴史館】施設情報のお知らせ

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まとめ

東北地方初の鉄道である釜石の鉱山鉄道は、釜石の製鉄業を長年にわたって支えてきました。
このような鉄道があったことをぜひ記憶にとどめていただければと思います。


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