【青森】法界折って何?津軽のお盆の風習がカラフルで独特過ぎる

お盆といえば、墓参りをして静かに先祖を迎える——そんな姿を思い浮かべる人が多いでしょう。けれど津軽では、墓前で食事をしたり、色鮮やかなお盆飾りで先祖を迎えたりと、ちょっと派手で賑やかな風習が残っています。今回は、そんな津軽ならではのお盆の姿を紹介します。


津軽ならではの彩り豊かなお盆の風習

弘前市にある禅林街

「お盆って静かに先祖を迎える日でしょ?」

そう思っている人は、津軽のお盆を見たら驚くかもしれません。お墓の前でご飯を食べたり、派手な飾りをつけたりと、とにかく華やか。しんみりというよりは、にぎやかで笑顔あふれる時間なんです。

例えば津軽で見られるお盆の風習はこちら。

  • 法界折
  • 墓前での食事
  • 墓にまく”アラレ”
  • カラフルな盆飾り”とうろう”

ここからは個性的な津軽のお盆の風習を詳しく紹介していきます。


津軽のお盆と言えば「法界折」!

津軽のお盆でよく見られるお供え物が「法界折(ほうかいおり)」。

見た目はお弁当箱のようですが、中身は肉や魚を使わない精進料理が基本。派手さやごちそう感はなく、素朴で落ち着いた雰囲気の食べ物が並びます。これはご先祖様への供養の意味を大切にしてきた名残で、長く受け継がれてきた津軽ならではの形です。

法界折の中身は各家庭で異なる

法界折の中身。煮しめや赤飯が定番で、季節の果物や野菜、寒天、甘味が入る

中身は地域や家ごとに少しずつ違いますが、定番は赤飯や煮しめ、落雁や最中。そこにトマトやとうもろこしなど、その時期に採れた季節のフルーツや野菜を添える家庭もあります。親戚が集まると「うちは今年はとうもろこしを入れたよ」「そのトマト甘そうだね」など、ささやかな会話が生まれるのもこの時期ならでは。

しかし、赤飯や煮しめなどは調理時間がかかるため、前日からの準備が必須。そういった事情から、最近ではスーパーで法界折が販売されています。


墓前で食事をして先祖を供養

津軽のお盆では、お墓に法界折をお供えしたあと、その場で食べてしまう風習があります。県外の人が初めて見るとぎょっとするかもしれませんが、地元ではごく当たり前のこと。法界折だけでなく、お供えの果物やお菓子もみんなで分け合って食べます。

子どもの頃は「お墓参り=おいしいものが食べられる日」という感覚で楽しみにしていたのですが、大人になってから改めて、これが全国的には珍しい風習だと筆者は気づきました。

なぜ墓前で食べるの?

この風習は、戦国時代から続いていると言われています。津軽藩の初代藩主・津軽為信の時代にはすでに、墓前で食事をする習慣があったそうです。先祖のそばで食事をすることで、感謝や供養の気持ちを直接伝える。そんな意味が込められていたのかもしれません。食事を「共にする」ことで、先祖とのつながりを実感できる時間でもあったのでしょう。

近年はお墓で食べる人は減少している

とはいえ、最近ではこの風習も少しずつ姿を消しつつあります。お供えをしてもその場で食べず、持ち帰るのが主流に。暑い時期のため食中毒を防ぐ目的もあり、家に帰っても食べずに処分する家庭もあります。さらに、カラスや野生動物による被害を防ぐため、お供え自体を禁止している墓地も増えてきました。


墓に「アラレ」をまいて霊を清める?

津軽でのお墓参りでは、さいの目状に切った大根や人参、米を撒いている人を見かけます。

実際、私も幼いころに祖母に促されて米や大根を墓の周りに撒いた記憶があります。これは”アラレ”と呼ばれ、米に見立てた大根や人参を米と共に墓の周りにまいて供えているのです。地域によって撒くものは異なり、青森市や五所川原、鯵ヶ沢では大根と人参、中泊町ではきゅうり、弘前市や大鰐町では大根などなど。もちろん、地域や宗派によっても異なるのでしょうが、面白い風習ですよね。

なぜ米や大根、人参をまくのか

米をまくことは仏舎利への尊敬の表れで、霊を清める効果がある」とする民俗信仰もあり、津軽のアラレ風習にも関係しているのかもしません。また、墓の周りにまくことから、墓に集まってくる他の霊へのお供え物という考えも。いずれにせよ、”アラレ”は霊へのお供え物なのでしょう。


カラフルなとうろうが彩る津軽のお盆

津軽のお盆飾り・とうろう

下北の記事でも登場した「とうろう」は、津軽でも定番のお盆飾りです。コーンスターチ、もち米、着色料で作られており、手触りはもなかの皮のよう。興味本位で食べたことがありますが、無味で全くおいしくありませんでした。

このように売っているため、お菓子と間違われることもある

実はこのとうろう、津軽や下北だけでなく、北海道や秋田県、山形の一部地域でも使われています。ただ、津軽のものは他の地域よりもサイズが大きく、形や色のバリエーションも様々。家々の飾りつけを見比べるのも、この時期ならではの楽しみのひとつ。お盆のしんみりした空気の中にも、津軽ならではの華やかさと遊び心が感じられる風景です。


まとめ

法界折や墓前での食事、墓にまく“アラレ”、そして大ぶりでカラフルなとうろう——どれも静かに祈るだけでなく、見て・食べて・参加して先祖を想う風習です。こうした文化は、世代を越えて受け継がれる津軽の夏の風物詩として、これからも残していきたいものです。


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