様々なぬか漬け②

【中編】厳しい冬を乗り切る為の東北六県の「漬物」文化|宮城・山形・福島編

東北地方のお漬物特集、第二弾は宮城・山形・福島の3県です。

地域色が如実に出る料理の一つである漬物ですが、その歴史は昔々にさかのぼるものばかりとは限りません。

伝統ある郷土食として、また、新たな歴史を紡ぐ名物として、漬物に秘められたさまざまなポテンシャルを見ていくことにしましょう。


宮城県

宮城県といえば豊かな漁場と良質な米どころを兼ね備え、歴史的に食の発達した地域でもあります。

仙台藩祖である伊達政宗も食には非常に気を配ったことが知られており、仙台味噌など広く知れ渡った発酵食品も発達しました。

地図(宮城県)
宮城県の市町村

そんな宮城からは、3種類のお漬物をご紹介します。


仙台長茄子漬け

「仙台長茄子漬け」とは文字通りになすの漬物ですが、用いる材料が実に特徴的です。

仙台長茄子漬け
仙台長茄子漬け

仙台長茄子または仙台茄子とは、文禄2年(1593年)に朝鮮半島出兵から引き揚げる際に博多で入手した種を持ち帰って、自国で栽培を始めたものと伝わっています。

実に430年以上もの歴史がある地野菜であるといえ、18世紀初めの仙台藩地誌である『奥羽観跡聞老志(おううかんせきもんろうし)』には広瀬川の下流で採れる仙台長茄子の品質が良いことを記しています。

仙台長茄子漬けは塩や醤油に漬け込んだシンプルな味付けではありますが、早生である本種は皮が薄くて漬物に適しており、なすそのもののおいしさを堪能できる逸品に仕上がっています。


仙台白菜漬

「仙台白菜漬」も文字通りの仙台地野菜を用いた漬物ですが、実は近代以降にできた郷土料理です。

白菜漬
白菜漬

それというのも現一般的な結球タイプの白菜が本格的に栽培されるようになったのは明治時代のことで、全国への流通は大正時代になってからのことといわれています。

それ以前にも非結球・結球両方の白菜はあったものの、他のアブラナ科の植物と自然交雑してしまい種としての固定は非常に難しかったとされています。

明治末期から大正時代にかけて初めて結球白菜の安定栽培に成功したのが宮城県の沼倉吉兵衛と菅野鉱次郎で、彼らは松島湾の馬放島における隔離栽培によってそれを実現したのです。
そのためこれを「松島白菜」といい、やがて派生品種を含めて「仙台白菜」として全国へ流通するようになっていったのでした。

しかし以降の品種改良によって登場した後発種に押されて仙台白菜は一時衰退しますが、2011年の東日本大震災で農地もダメージを受け、塩害に強い仙台白菜が再評価されることになります。

仙台白菜漬けはほぼ塩だけで漬けて自然に乳酸発酵させたシンプルな調理を指す場合が多いですが、葉がやわらかく旨みが強い本種はまさしく漬物にうってつけであるといえるでしょう。
小さな一皿のお漬物にも、こうした歴史が秘められていることに思いを馳せて味わいたいものです。


南蛮味噌漬

「南蛮味噌漬」または単に「南蛮味噌」と呼ばれるのは、刻んだ青唐辛子を味噌に絡めた東北の郷土料理です。

南蛮味噌漬
南蛮味噌漬

仙台では特に名物の牛タン焼きに添えられることも多く、酒肴や菜としてだけではなく料理の味わいに変化を持たせる調味料的な位置付けでも重宝されています。

本項では宮城県からのご紹介としていますが同系統の料理は東北に広く分布しており、岩手県の項で取り上げた「一升漬け(三升漬け)」も青唐辛子を用いるものでした。

南蛮味噌漬は文字通りに味噌を使うのが特徴で、甘辛い調味に青唐辛子のピリッとした刺激が食欲をそそるため、あらゆるシーンで活躍する万能の副食ともいえるでしょう。
レシピによっては刻んだきゅうりなどを混ぜ込むこともあり、夏野菜と味噌との相性を楽しめる保存食でもあります。


山形県

山形県は多種多様な伝統野菜と豊富なフルーツの生産、バリエーションあふれる麺料理の発達等々、全国屈指の食の都としての顔も持っています。

また、深い雪に閉ざされる期間が長いことからさまざまな保存食が工夫され、漬物にも独自のレシピが生み出されてきました。

地図(山形県)
山形県の市町村

そんな山形県から、印象的なお漬物を3種類ピックアップしました。


おみ漬

「おみ漬」とは高菜の一種である「山形青菜(やまがたせいさい)」を使った刻み漬けで、醤油とざらめなどで調味して他に大根・人参・菊芋・紫蘇の実の塩漬けを合わせることもあります。

おみ漬
おみ漬

山形青菜は明治時代の後半に中国から日本にもたらされた種を導入したもので、大正時代初期には本格的な栽培が軌道に乗りました。

「おみ漬」という不思議な名前の由来は近江(おうみ)出身の商人が開発したという説や、刻んだ食材をもみ込んでつくることから「もみ漬」が転訛したものという説などがあります。

本来は必ずしも山形青菜を使わなければならないわけではなく、余った野菜類はなんでも刻んで無駄なく食べる、生活の知恵に根差した郷土料理だといえるでしょう。


ぺそら漬

「ぺそら漬」というなんだかかわいらしい語感の料理は、山形県東部の北村山郡に属する大石田町が発祥とされるなすの漬物です。

ぺそら漬
ぺそら漬

なすを水に漬けて脱色した後に塩と唐辛子で本漬けするという独特な工程を経るもので、白っぽい色に加えて辛味と酸味のバランスが印象的な漬物として仕上がります。

「ぺそら」とは山形の北部方言では「あっさりした」「素っ気ない」といった意味だそうですが、発祥地の大石田町では「水が沁み込んでやわらかくなった様子」とのニュアンスがあります。別名を「ぺちょら漬」ともいい、こちらの方がなすのやわらかな質感をイメージしやすいかもしれませんね。

大石田町に隣接し、「すいか」の名産地として有名な山形県尾花沢市には2002年に初めて販売された比較的まだ歴史の浅い「すいかのぺそら(ぺちょら)漬け」も存在します。


雪菜のふすべ漬

山形県に伝わるお漬物の中でも特に珍しいものとして「雪菜のふすべ漬」があります。

雪菜のふすべ漬け 出典:農林水産省「うちの郷土料理」
雪菜のふすべ漬け 出典:農林水産省「うちの郷土料理」

雪菜とは山形県の置賜地方に伝わる軟白野菜で、雪の中で成長する特性があり「幻」とも呼ばれる希少な郷土野菜です。

これは江戸時代中期の名君として知られる上杉鷹山が栽培を奨励したものとされ、越後からもたらされた「長岡菜」との交雑によって生み出されたと考えられています。

白菜の葉をセロリのように細長くしたような姿の花茎(トウ)を食べるものであり、生鮮野菜が入手しにくくなる冬季において貴重な食料となりました。

また「ふすべ」とはさっと湯通しするという意味で、熱湯に短時間浸すことを3回程度繰り返した後に冷水にさらして熱を取り、塩だけで漬けるというシンプルな調理を行います。

3日ほど漬けると特有の辛味が出て食べごろとなり、そのさわやかな刺激が北国の食卓に華を添えてきました。


福島県

福島県の冬は吾妻おろしに代表される冷たく強い季節風の影響もあり、寒冷な気候を利用した保存食づくりが発達した土地でもあります。

寒さに耐えて長い冬を乗り切る暮らしの知恵としてさまざまな備蓄食や漬物も工夫され、現在も変わらず愛されるレシピが知られています。

地図(福島県)
福島県の市町村

以下に有名な福島県の保存食・お漬物を3例挙げました。


いかにんじん

福島の有名な郷土料理である「いかにんじん」は、その名の通りするめいかとにんじんを細切りにしてタレに漬けた保存食です。

いかにんじん
いかにんじん

調味液は醤油と酒にザラメを加えて煮立たせたシンプルなものですが、するめいかとにんじんから出る旨みが加わって、ついついご飯が進むような癖になる味わいが人気を博しています。

漬物的な冬場の保存食でもあり、また、正月料理に欠かせない縁起物としても大切にされている料理です。

北海道の松前漬けとも共通点がありそうですが、基本的には昆布は入らないのがいかにんじんの特徴といえるでしょう。


三五八漬

「三五八漬(さごはちづけ)」とは塩・米麹・ご飯の3つを漬け床に使う漬物で、一説にはこれらの配合が3:5:8になることが名の由来ともいわれています。

三五八漬(さごはちづけ)出典:農林水産省「うちの郷土料理」を元にトリミング加工掲載
三五八漬(さごはちづけ)出典:農林水産省「うちの郷土料理」を元にトリミング加工掲載

実際には1:1:1など他の配合率の説もありますが、シンプルな麴漬けの一種として広く知られています。

なす・きゅうり・にんじん・かぶなど東北地方の夏野菜をメインに用いる保存食であり、米と麹由来の自然でやさしい甘みが食材に移って上品な味わいとなります。

ちなみにこの三五八の漬け床は野菜だけではなく、肉や魚を漬け込んで風味を増すなど塩麹のような使い方も可能です。


舘岩蕪漬

福島県の伝統野菜のうち、南会津町舘岩地区を中心に栽培されているのが「舘岩蕪(たていわかぶ)」です。

赤かぶ漬け
赤かぶ漬け

実に300年以上の歴史があるとされる地野菜で、焼畑によって栽培され独特の赤い色は舘岩の地で育たないと出ないといわれています。

これを漬物にしたのが「舘岩蕪漬」で、甘酢で調味することが多く鮮やかなピンク色は見た目にもとても華やかです。

舘岩蕪は標高600~1,000mの高原地帯である当地で育ち、その種も門外不出とされていることから、これを用いた漬物もまさしく希少な郷土料理であるといえるでしょう。


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